熱が下がらない
「熱、下がらないな」
里桜が熱を出して倒れてから二週間になる。
熱が下がる所か酷くなっていく一方だ。医者に見てもらいたいが、あいにく里桜は妖で普通の人には姿が見えない。
妖の知り合いなんか居るはずもなく、日に日に衰弱していく里桜を見守る事しか出来ない自分に苛立つ。
熱さまシートを額に当てると、少しだけ微笑む。きっとひんやりと冷たいので気持ちがいいのだろう。
ーーこのままじゃまずいよな。
俺は里桜の頭を軽く撫でると立ち上がった。
外出する準備をして外に出る。
ポケットから折り畳んだチラシを出した。
広げるとチラシの内容は『妖の秘密! 怪談話』と記載されてあった。
藁にもすがる思いなんだ。例え、怪談話だけだったとしても、もしかしたら何かに気付くキッカケになるかも知れない。
イベント会場に向かっていると、一人の幼女がキョロキョロと周りを見渡していた。
五歳~十歳ぐらいだろうか。艶のある黒髪ロングに幼いながらもメイクをしているし、白と桃色のワンピースを着ている。
なんてマセた子供なんだ。
「きみはもしかして迷子?」
あまりにも不審に周りを見回しているから迷子かと思い、膝を少し曲げ、子供の目線に合わせる。
そしたら、驚いたように目をぱちくりさせ、次の瞬間悲鳴を上げられた。
え!? と、驚く間も無く近くにいたサラリーマンが俺の肩を掴んだ。
「ちょっと、何やってんの?」
不審者を見るような目で見られ、更にはスマホを向けて動画や写真を撮ってる人達もいる。
「い、いや、困ってそうだから声をかけただけなんですけど」
「それ、信じると思う? こんな幼い少女が声を張り上げて悲鳴を上げたんだ。可哀想に、よっぽど怖かったんだろう。さぁ、警察に行くぞ」
サラリーマンの男性は俺の意見を聞こうとせずに強引に連れていこうとする。
警察に事情聴取なんてされたらイベントが終わってしまう。しかも、このイベントは今日を逃すと次は再来年になってしまう。
それまでに里桜の体力が持つとは思えない。
いくら妖だろうが、弱ってるんだ。ずっと苦しみ続けてる里桜の顔なんて見たくない。
抵抗しようと身体を捻ったりするが、ビクともしない。かなり力の強い人に捕まってしまったようだ。
逃れることに必死に手に持っていたイベントのチラシの事をすっかりと忘れてしまい、手を放してしまった。
地面に落ち、チラシを少女は拾う。
「ま、待って……ください」
チラシを見た少女はサラリーマンの男性に近付いた。
サラリーマンの男性は歩くのを止め、少女を見る。
「勘違い、でした。ごめんなさい」
そう言って俺の手を引いた。サラリーマンの男性は苦虫を噛み潰したような顔になったが、すぐに優しい笑みを少女に向ける。
すぐに俺に向き直って頭を下げてきた。
俺は「気にしてないですから」と言うと、サラリーマンの男性が「本当にすみません」と謝罪して立ち去った。
いつの間にか周りにいた人達もチリチリになっていたが、撮られた動画や写真は後でSNSにばら撒かれそうだと思った。
しかも悪い所だけ切り取られて。
参ったなぁ。
「大丈夫よ。私が何とかするから、拡散なんかさせないわ……その代わり、私をこのイベント会場に連れていきなさい」
少女はさっき俺が落としたチラシを見せてきた。
しかも口調が腹立つな。礼儀を知らんのか。
何とかもなにも……悲鳴を上げたからこうなってるんだが、他人事なんだよ。
「あのね、きみ。大人には敬語を使うものだよ。パパかママに教わらなかったの?」
「失礼ね。私も大人よ。それも、多分貴方よりも年上だと思うけど」
「は? いや、どう考えても小学生だろ」
「小学生がメイクしないでしょう?」
「今のご時世だと小学生でもメイクはする子はすると思うぞ。安いやつもあるからな。マセてるとは思うが」
「え!!!? い、今の小学生ってそうなの?? マセてるのね。私が小学生の頃はオシャレに興味無かったというのに。早すぎでしょう」
「……きみも小学生だろ」
呆れながら言うと、少女は眉間に皺を寄せた。
「なら、その小学生を誘拐しようとしてますって騒ぎましょうか」
閃いたように人差し指を自身の唇に当て、不敵な笑みを浮かべる。
こ、こいつ……。
さっきまで大人ぶってたのに、開き直りが早い。
騒がれ、警察に捕まったらロリコンなんてレッテル貼られるだけじゃない、白い目で見られる。
そもそもつい数分前がそうだった。
それに、記事にはありもしない事を自由に書かれそうで怖い。
想像しただけでも俺の今後の人生は詰む。
「わかったよ。案内するから騒がないでくれ」
「わかればいいのよ」
「俺は透和。きみの名は? なんて呼べばいい?」
「舞って呼んで。呼び捨てでいいわ」
舞という少女は「それと、私は小学生並の体型だけど中身はちゃんとした大人なの」と、言っていた。
大人ぶりたい年頃なのだろうとほとんど聞き流していた。
今は、里桜の症状が気になってしまう。
里桜が猫だった頃、アパートは火事になり死んでしまった。
あんな思いはもう沢山だ。また逢えたんだから、今度こそ、死なせてなるものか。




