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【連載版】不運が続く俺の元に座敷わらしが嫁候補として居座っているのだが  作者: 藤原 柚月


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4/10

俺の責任だから

 今年の春は、里桜が居候してきた以外には特に何事もなかった。


 毎年、春頃になれば小さなミスや大きなミス、さらに災難が襲ってくるというのに。やっぱり座敷わらしが住み着いたおかげなのかも。


 ……まぁ、ご飯に泥団子はやめてほしいが。


 なにはともあれ、平和に暮らしてることに変わりはない。今度、お礼も兼ねて何かプレゼントしようか。


 プレゼントは何がいいのだろうか、そんなことを考えながら帰宅する。


 玄関の扉を開け、中に入ると俺は一瞬思考が停止した。


 玄関から入ってすぐにリビングがあるのだが、リビングに顔を赤くして息を切らしながら倒れてる里桜の姿があったのだ。


「お、おい。大丈夫か!?」


 我に返った俺は急いで靴を脱いで駆け寄った。抱きかかえて額に手を当てるとかなり熱い。


「凄い熱だ。病院!! いや、その前に見えないかも」


 前までは座敷わらしは嘘だと思っていたのだが、里桜の姿は俺以外には見えてないらしい。


 児童養護施設に相談して行ったら里桜の事を施設の人達が見えてないことを理解した。

 それから本当に座敷わらしなのかもって思うようになった。


「だ、大丈夫です。少し休めば元気になります」

「そんなわけないだろう!!」


 俺は里桜を横抱きにしてベッドまで運んだ。

 里桜をゆっくり下ろし、布団をかけようとしたらあるものを見てしまって動きを止める。


「この傷って」


 少しだけ着物が乱れ、見てしまった。鎖骨の上あたりに小さな引っ掻き傷の痕があることを。


 これも愛猫にあった傷だった。

 野良猫に絡まれ、その時に出来た傷だ。


 ここまで愛猫と同じだなんて……、こんな偶然ってあるものなのか?


「……私は、座敷わらしです。透和様を幸せに導くのが私の役目……なんです。それなのに」


 里桜は息を切らしながらも必死に声を絞り出す。


「……一緒に暮らしてるうちにどんどんと欲が強くなっていくんです。とても楽しくて、まるで()()()に戻ったような」

「里桜……、お前、何言って」


 里桜は小さな手で俺の手を握る。里桜の瞳には大粒の涙が溜まっていて今にも零れそうだ。


「……まだ思い出してくれないんですか? 私は透和様が飼ってくれていた猫の里桜です。……私、死んだのですが……透和様が心配で……心配で……、それ以上にもっと一緒に居たくて……気付いたら座敷わらしになっていました」


 にわかに信じ難い話だ。なにかのドッキリか。だが、里桜の涙には嘘偽りが無いように思う。


 座敷わらしがいるぐらいだ。ファンタジーのような展開があってもおかしくないとは思うが……いざ、自分が目の当たりにするととてもじゃないが信じられない。


「透和様が……好きなんです。……大好きなんです。ずっとずっと一緒に居たくて、大好きだから幸せにもなってほしくて」


 里桜は握っている手に力を込め、瞳に溜まっている涙が零れる。


「……なのに透和様はなんでか不運続きで……どうしても見ていられなくて……私は座敷わらしです。だったら私が透和様を幸せに出来るかもって思ったんです」

「里桜……それはわかったが、何も嫁候補はないだろ」

「だって、独身の男性にはお嫁さんというワードだけでも幸せになると思って。かくりよでお世話になっていたお姉さんがそんなことを言っていたんです」


 里桜の一言にグサッと鋭い刃が俺の心を貫いたような感覚がした。実際には貫いてはいないのだが、痛い所をついてきた。


 かくりよがどこなのか分からないが、お姉さん……なんということを教えてくれてるんだ。


「きっと……神様が透和様の幸せを願っている私にチャンスを与えてくださったんです」

「ああ……」


 俺は里桜の手を握り返した。


 この世に神様は居ないと思ってた。でももしも神様が居るとするならば……。


 ずっと里桜は愛猫なんじゃないかって時々思う時があった。だけど、そんなファンタジーみたいなことあるわけないと自分の中で強引に納得してきた。


 もしも、本当に愛猫の里桜だったとしたら、伝えたい言葉があった。


「…………守れなくて、守ってあげられなくてごめんな」


 火事になった日、俺は残業してて帰りが遅くなっていた。自動餌やり器があったからご飯の心配はしてなかったのだが、里桜は寂しがり屋だからきっと今頃は寂しさのあまり拗ねているんだろうな。


 そんなことを思いながらアパート前まで来ると、大勢の野次馬と消防車と救急車が止まっていた。


 火はほとんど消えかかっていたが、アパートの面影はあんまり残っていなかった。


 火事の原因はタバコの不始末だった。


 若い男女数人集まって、ホームパーティをしていた最中の出来事だったらしい。


 タバコを消さずにダンボールの近くにあるタバコ皿に置いたはずのタバコが落ち、ダンボールに火がついてしまった。


 俺が早く仕事が終わっていれば、里桜は死なずに済んだかもしれない。

 俺の責任だとずっと自分を責めてきた。特に春の季節に火事になり死んでしまったのもあり、春頃はいつもよりも自分を責め続けた。


「……ごめん…………本当に、ごめん」

「な……ぜ……謝るのです?」

「だって、死んだのは俺の責任だから」

「私、幸せでしたよ。そして今も幸せなんです。謝る必要はありません」


 里桜は優しく微笑んだ。


「私と出逢ってくださって、ありがとうございます。とても幸せですし、透和様のことが大好きです。……ですから、私の大好きな人を責めないでください」


 その言葉に救われたようにあの日からずっと重かった気持ちが軽くなったのだった。


 俺は春が嫌いだ。


 というよりのも春頃になるとネガティブになり、ミスが多くなるし、なにより運気が逃げていくようにも感じてしまう。そのネガティブな想いが周りに伝わり不運を導く。


 でも、


 今年の春はほんの少しだけ、悪くないなって思い始めた。


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