俺の体で何やってくれてんだ!?
チャイムが鳴り、肩を震わした俺は『この状況をどうにかしよう』と思ったのだが、居留守を使えばいいのでは?
と、思ったので息を潜めて帰ってもらおうとした。
一体、どうして新入社員が俺のアパートに来たのかはわからないが、この状況を見られるわけにはいかない。
見られたら、俺がだらしない人間だとレッテルをはられそうだし。
焼酎瓶があちこちに散らかり、俺の体は大の字でいびきをかきながら寝ている。しかもスーツ姿だ。
寝ているせいでシワになっている。
こんなみっともない姿を見られるわけにはいかない。
「……いないのかな」
扉越しで小さくため息が聞こえ、ガサゴソと紙袋か何かを置くような音がしたと思ったら、すぐに足音が遠ざかっていった。
やがて静かになる。
俺はようやく息を吐いた。
「……なんなんだよ。一体」
新入社員のあの子……確か加藤さんだったか。わざわざアパートまで来るなんて、よっぽどの用事があったんだろう。でも今はそれどころじゃない。
この入れ替わりと仕事の連絡問題をどうにかしなくてはならない。
こんな小さい体だと色々と不便で仕方ない。
「あの、入れ替わりをなんとかしたいんだけど......」
俺の質問に獅子二匹はお互いを見たあと、頷いて俺を見た。
『できなくはない』
『多少痛むだろうがじっとしていることだ』
そう言って、獅子は獣の姿から人型になった。赤い髪で透け感のある軽いマッシュヘアの着物イケメンと、黒い髪でマッシュショートヘアの着物イケメンがそこにいた。
見た目は二十代前半って感じだ。
二匹の獅子はなぜかハリセンを持っていた。
嫌な予感がする。
そう思った次の瞬間、目にも止まらぬ速さでハリセンを振り上げ、背中に直撃した。
俺の体の方を一瞬だけ見れば、同様にハリセンで叩かれている。
バシィィィィィンッ!!!
凄まじい音が部屋に響いた。
かなりの激痛かと思ったが、そうでもなく、ヒリヒリと痛いだけだった。
小さな体だから、叩いた衝撃で飛ばされるかもと思ったが、力加減はしてくれたらしい。
床に倒れるだけで済んだ。
まばたきを二、三回繰り返すと、視界が変わった。
自分の大きな手が、すぐ目の前にあった。
指をゆっくりと曲げ伸ばししてみる。関節の動きが、いつもの自分のものだ。
視線を下げると、そこにはスーツのシワだらけの胸元と、床に散らばった焼酎瓶の数々が見えた。
体が重い。いつもの、だるくて不器用な自分の体だ。
「……戻った」
声を出してみると、低くて少し掠れた、紛れもない自分の声が響いた。
俺は慌てて上半身を起こした。
酔っていて、グラッと視界が揺れたので、ゆっくりと動かした。
視界の高さが明らかに違う。さっきまでの小さな体とは比べ物にならない、いつもの目線。
部屋を見回せば、二匹の獅子が再び獣の姿に戻り、満足げに尻尾を揺らしていた。
右側にいる獅子がハリセンを肩に担いだまま、ニヤリと笑うように牙を見せた。
『どうだ、すっきりしただろう』
左側にいる獅子も小さく頷きながら、
『入れ替わりはこれで解けたはず』
俺は自分の頰を両手で叩いてみた。
痛い。ちゃんと痛い。
この痛みすら、久しぶりに愛おしく感じるほどだった。
「……ありがとう、助かった」
小さく呟くと、二匹の獅子は満足そうに目を細める。
神様は小さな体というよりも同窓会の後に出会った時と同じような身長になっていた。
大の字で寝ている緋色という神様は、一度寝たらなかなか起きないタイプらしい。
さっきまで俺の体に入っていたはずなのに、今は元の体で気持ちよさそうに寝ている。
俺は、ため息をつきながら立ち上がった。
このままでは風邪ひくかもしれないと思い、近くにあった布団を軽くかける。
──頭痛い。
完全に二日酔いだ。どんだけ俺の体で呑んだんだよ.....クソッ。
言ってやりたいことは山ほどあるが、酔いをどうにかしたい。
キッチンの水道に手を伸ばす。ガラスコップをさっと持ち、水を注ぐと一気に飲み干した。
まだ頭はズキズキするが、少しだけ楽になった気がする。
コップを洗って、元の場所に戻し、重たい足を動かしながら、床に散らばった焼酎瓶を片付け始めながら、先ほどの新入社員──加藤さんのことを思い出す。
一体何の用事だったんだろうか……。
しかも、こんなみっともない部屋の前で袋を置いていったみたいだし。
頭を掻きながら、玄関に向かう。
ドアの外に置かれていたのは、コンビニの袋に入ったおにぎりと、スポーツドリンクのペットボトルだった。
それから俺の携帯.....と、メモ書き?
袋を手に取り、メモを見ると、
《悪酒するんですね......でも、だからといって、店員さんを恐喝するのはダメだと思います。警察沙汰にならないのは、店員さんが揉め事嫌いなだけなので、勘違いしないようにです。酒は呑んでも呑まれるなという言葉がありますが、橘さんを見ていて、その言葉の意味がよく分かりました。私もああはならないように気をつけます。橘さんを尊敬していたのに、残念です 加藤 茜》
「……......」
ブルブルと手が震えた。
気持ちよさそうに寝ている緋色を、ゆっくりと見下ろす。
......緋色、俺の体で何やってくれてんだ!?
ギリッと唇を噛み締めた。
怒りで頭が熱くなり、気がおかしくなりそうだ。
本当に何してくれてんだ、チクショー!!
警察沙汰にならないのは、座敷わらしのおかげです
透和は(微妙に)守られてます
全体を見れば不運なのに変わりはないですけど。




