もしかしたら自分に娘が出来たらこんな感じなのかもしれないな
財布の中にあった一万円札が無くなり、五円しかない。
ショックだ。銀行には金はあるんだが、なにせ、同窓会というのもあって下ろしたばっかりだった。
はぁ……。
俺は深いため息をつき、財布のお札入れを何度もチェックしてしまう。
あるはずないのに。ないとわかっているのに、もしかしたらなにかの勘違いだったり、見逃してたりしてるんじゃ……。
なんて、現実逃避してしまう。
俺は項垂れて頭を掻き回した。この人形みたいな体が、神様の体だとか、そんなこと気にしていられない。
「これ、これは妾の体じゃ。わしゃわしゃするな」
神様が俺の襟首をひょいっと軽々しく持ち上げる。
宙に浮いて、足をバタバタさせた。
顔を近づけられる。くそっ。目の前にいるのが俺の体だから気まずい。
そもそも、神様は身長がそこそこあったはずだ。なのに、今は人形みたいに小さいのはなんでだ?
しかも入れ替わってて、おまけに酒癖が悪い。
.....それに、酔ってて頬は赤いし、目はとろんとしてるし……今にも寝てしまいそうな……。
そこで俺は気づいた。
電気がついてないのに明るい。も、もしかして……。
「今何時!?」
手や足をバタバタさせて、神様の手から逃れようとしたが、無駄だった。しっかり掴んでいて離してくれそうにない。
「辰の刻(午前八時頃)じゃな」
辰の刻!? 確か、昔はそう呼んでたんだよな。現代に置きかえると......。
「八時!? やばい。今から仕事間に合わ......いや、その前に入れ替わってるから、どっちみちいけねー!!」
「ひっくっ! 仕事、とな?」
頭を抱えて唸ると、神様が目を輝かせて呟く。
酔っていて今にも寝そうにしているのに興味を持つって......嫌な予感が。
「面白そうじゃのぅ。一度は人間の仕事を経験したいと思っとったんじゃ。今は、お前の体に入っとるから、お前の代わりに仕事行ってくるわい」
「いや、え......ちょっ!!」
神様は俺を乱暴にポイッと投げ飛ばした。
小さな体がふわりと浮き、里桜が慌てて両手で受け止めてくれた。
「待て!! いや、待ってください!!」
神様はしゃっくりをしながらも支度を始める。
それも指を鳴らすと一瞬のうちにスーツ姿に変わっていた。
「心配するでないわい。ちゃんとお勤めするのでなぁ」
「そういう問題じゃなくて!!」
足から消えかかっている神様に、俺は叫んだ。
だって、神様の後ろ......キランっと光る四つの目が浮かんでいるんだ。まるで、獲物を狙うかのように。
その四つの目の視線の先は、神様の体を捉えていた。
神様が俺の体で力を使ったのは分かったが、何よりも四つ目の視線に心当たりはない。
神様の関係者なのかもしれない。
『緋色様。お迎えに参りました』
すうっと目だけじゃなく、体を表したのはかくりよで出会った獅子の二匹だった。
「なんじゃ。見つかってしまったわい」
神様はがっかりして。肩を落とした。
『.....お酒の呑みすぎにございます。それに、耐性のない人間の体に入るのはよろしゅうございませぬ』
「仕方なかろう。今の神主は、霊感がないんじゃ。それでは、入れ替わって呑めないんじゃ!!! 先代は良かったのぅ。妾に体を貸してくれて、文句も言わずに妾の話し相手になってくれたのじゃ」
『それは、緋色様が夜な夜な神主の布団まで押しかけて、話を聞かんかったら災いが及ぶと脅した結果にございます。体を貸しておりましたのも、視線にて構ってくれと訴えていただけでございますのに』
神様が空になった焼酎の瓶を抱きかかえると、獅子の片割れが呆れたように言う。
「ちゃんと神としての責務は果たしておるわい.....多少の我儘言っても良かろう」
次第に神様の声から覇気が消え、眠たそうにしていた。
『多少、とは.....』
獅子はお互いの顔を見合せて困った顔になった。
多少の我儘じゃないことは俺にもわかった。
『そもそも神社を離れたのは、目的あってのことだったはず。それはお酒を呑むためではございませぬ』
「.....そう、じゃ.....」
神様は眠気には勝てなく、ドターンっと盛大に背中から倒れると大の字になって眠ってしまった。
大きないびきまでかいて。気持ちよさそうに眠っている。
.....緋色って神様、性格が嵐のようだなと思っていたが、俺ははっとした。
俺は里桜の手から飛び降りた。
「会社に電話っ!!」
寝ている俺の体(神様)の服のポケットを探ったが、携帯が見つからない。
まさか、途中でどっかに落とした?
「透和様」
最悪すぎると、頭を抱えていたら、里桜が話しかけて来た。
「えっと.....、お仕事の休みのお電話するのですよね。だったら、今日は透和様と一緒にいられるってことですか?」
里桜は頬を赤く染めて、とても嬉しそうにしている。
まぁ、この体じゃ仕事にはいけないから、休むことになるのだが……。
「そう、なるけど」
「嬉しい.....! 今日は透和様と一緒にいられるんですね!」
里桜は自分の胸の前で両手を祈るように握りしめ、満面の笑みを浮かべた。
できることなら、仕事に行きたかったと言いそうになる口を閉じた。
そんな笑顔で言われたら、そんなこと言えなくなってしまう。
猫の時も、寂しがり屋だった。それが今も変わらないというのはなんだかむず痒いものだ。
もしかしたら自分に娘が出来たらこんな感じなのかもしれないな。
ーーピンポーン。
突然、インターホンが部屋中に響く。ビクッと肩を震わした。
「あの、すみません。お届けものです」
その声は女性の声で、聞き覚えがあった。
同じ会社の新入社員だ。
なんで俺のアパートに.....?
緋色はかなり大雑把な性格です。
獅子が緋色に敬語なのは、獅子が緋色の眷属だからです




