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【連載版】不運が続く俺の元に座敷わらしが嫁候補として居座っているのだが  作者: 藤原 柚月


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15/17

俺が思う雪女は……。

 俺が思う雪女は、白い髪に透き通るほどの青白い肌。白い着物で唇は青紫。


 目は鋭く冷たい。見ているだけでも凍ってしまいそうなイメージだ。


 でも、今目の前にいる雪女は……金髪に赤い着物。美人は美人なのだが、さっき首を斬り落とした大蛇の大量の血を浴びて透き通るように白かった肌は赤黒くなっていた。

 それどころか髪も血塗れで赤い着物も汚れている。


 化粧をしているのか、唇は鮮やかな赤。キリッとした目元にも、どこか優しさが滲んでいる。


 紬と呼ばれている彼女は、着物を見て小さくため息をついた。


「ああ……汚れちゃった。今度から傘を持ち歩こうかしら」


 あれ、雪女って、こんな感じだったっけ? って俺のイメージが盛大に崩壊したのだが……。


 ……正直、めちゃくちゃ怖い! 色んな意味で。


 でも、そんなことは言ってられない。


「あ、あの……あなたが里桜がお世話になったっていうお姉さんですか?」


 声が震えてしまった。


「えぇ、そうよ。この子ったら勝手にお屋敷を抜け出すんだもの。渡そうと思ってたものがあったのに、せっかちなんだから」

「渡す?」


 紬は懐から黒く艶やかな翡翠の勾玉を取り出した。


「これを常に持ち歩いてね。この勾玉はね、妖力を安定させてくれるの。私も詳しい理由はよくわからないんだけど……うつしよに来ると、妖はどうしても妖力が弱まるのよ。

 だから里桜みたいに妖として百年経ってない子は、妖力が不安定で病に伏せてしまうの。行くな! って言っても聞かないだろうから勾玉を渡そうと思ったのに……まさか逃げ出してうっしよに行くなんて、想定外だったわ」

「え、それって……」


 俺は、里桜を見る。里桜は「そうだった!」みたいな顔をしていた。


 …………忘れてたんだな。


「ふふっ。大事にするのよ。それと、これも」


 勾玉を俺に渡す紬は今度はお面を渡してきた。


 口をすぼめて尖らせているひょっとこ面だった。


 紬は困ったように首を傾げ、頬に手を添える。


「人間がかくりよに来たって知れたら、他の妖に襲われるかもしれないから。この面は私の妖力をまとってるの。だから、気づきにくくなるわ」


 俺はひょっとこ面を二枚受け取る。

 いい人……なんだろうけど、絵面がとても怖い。


 目の前にいるのは、血塗れで……何事もなかったように平然としているのが余計に怖い。いや、妖にとってこれが普通なのか?


 というか俺も大蛇の血が体中についてはいるのだが……。


 血の生臭い匂いが……気持ち悪い。


 うぷっと口を押さえてしゃがみこむと、里桜が小さな悲鳴を上げた。


「あわわっ!! 大変です!! 貧血ですか??」

「ちが……大丈……」


 言葉の途中でまたえずきそうになり、膝に手をついて耐える。

 その時、妖狐が舞を横抱きしながら駆け寄ってきて、小さな紙包みを俺の手に押し付けてきた。


  「これ……飲んでください」


 苦い匂いがしたけど、吐き気が強すぎて細かいことは考えられなかった。里桜が持ってきてくれた水で流し込んで、ただ耐えるしかなかった。


 ……それから少し経って。

 舞の命は別状はなかった。ただ気を失っているだけ。ホッと胸を撫で下ろした。


 そういえば、あの時妖狐にもらった漢方薬が効いてきたみたいだ。

 

 まだ少し気持ち悪いけど、吐き気はだいぶ引いて、頭の痛みも和らいできた。


 視界が安定して、ようやくまともに立てるようになった。


 妖狐が舞をそっと地面に下ろしながら、苦笑する。


「人間用のものは即効性は低いけど、徐々に体を整えてくれますから……」

 

  紬が感心したように頷く。


「あら、妖狐って意外と用意周到ね。私としたことが……血が足りないならお肉! って思っちゃったわ」


  ……なるほど。里桜の性格がああなったのは、間違いなく紬の影響だ。


  紬は自分の血まみれの袖を眺めて、ぽつりと呟いた。

  「……これ、落ちないと厄介ね。ちょっと待ってて」


  すると、彼女の周囲に細かな雪の結晶が舞い上がり、赤黒くこびりついた血を包み込むように溶かしながら消えていった。


 着物の赤も、髪の金色も、瞬く間に元の艶やかな色に戻る。まるで血など最初から存在しなかったかのように。

 

 俺の方を見た紬は、困ったように首を傾げた。

 

「人間にはちょっと強すぎるかしら……。でも、このままじゃ臭くて食べられないわよね」

 

 彼女が息を軽く吹きかけると、冷たい風が俺の体を撫で、べっとり付いていた血がパラパラと雪の粒になって落ちた。


 服も肌も、さっぱりとした冷たさが残るだけだった。





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