第9話 勇者の方
トントンと、やや大きめのノックが響く。
「どうぞ~お入りねぃ~」
ネイネイが返事をすると、ドアが開き、爽やかな笑顔の若者が顔を出した。
「こんにちは! シロさんが来てるって聞いて。俺もご一緒していいっすか?」
赤井イサムくん。俺と一緒に召喚された子だ。
……って、君もシロさん呼びなんかい! というツッコミは心の中にしまっておこう。せっかく若い子から歩み寄ってくれてるんだもんな。
それにしてもネイネイが勝手に広めた呼び方、もう定着しているのか。この世界での通名、これで良いかもな。
「もちろんねぃ。ちょうどひと息ついたところさ。イサムちゃんも座りねぃ」
「おじゃまします! わ、すごい! シロさんのスキルっすか?」
俺の隣に座った赤井くんは、さっそくホワに食いついた。
「ホワ~」
注目されたホワがパタパタと手を振る
「ホワちゃんねぃ。生まれたてホヤホヤだよ」
「ホワちゃん? きみ、すごく可愛いね」
「ホワワ! ホ、ホワ~」
うーん、相変わらずの光の正統派ハンサム。
この爽やかさと人好きする感じ、いかにも勇者っぽいよな。
ホワも頭を撫でられて、心なしかメロメロになっているような気がする。
おじさんも、若者にスキルを褒められてちょっと嬉しい。
「えーと、赤井くん、最近どうだった?」
召喚されてから赤井くんとは初めて会った。
向こうは勇者として城に住んでいるし、俺は街で家と仕事を探していたし。
「イサムでいいっすよ。あ、そう、俺、今日シロさんに聞いてもらいたいことがあって!」
おお、ガンガンくるなこの子。
なんか親戚のおじさんみたいになってないか、俺?
「実は俺、この世界で何やっていいかよくわからなくて……勇者の仕事って実際なくないっすか?」
「あー……」
まぁ確かに。
ネイネイの話だと、魔王も活動していないって言ってたもんな。勇者として召喚されたのはいいが、肝心の魔王がいないんじゃ何もやることがない。
「それで、騎士団? ってのに参加しようとしたんですけど、無理だって言われるしぃ」
それはそうだろう。
勇者で光魔法持ちの超貴重な人材なんだから、万が一大怪我でもしたら責任者のクビが飛ぶ。下手したら国家問題だ。
「毎日、城の中で筋トレとか魔法の勉強とかしてるんですけど……なんか、これでいいのかなって」
赤井くんの表情が曇る。
すごく真面目なんだな、この子。
召喚されて、勇者として期待されて、でもやることがない。そのモヤモヤを抱えながら、ゴールのない毎日をすごしているのか。
「それでっ、シロさん人生の先輩だから、なんか教えてもらえないかと思って!」
キラキラキラーッ、っと後光が走る。
眩しい! 若者の熱烈な期待が!
「あー、それは、あれだな、他の人にはなんて言われたんだ?」
「大臣さんには、『勇者は民に喜びや希望を与える存在だから、日々そのように過ごして』とか言われましたっ」
具体性に欠けるというか、ふわふわしてるなぁ……
これはつまり『勇者がいるだけで市民は安心するから、生活は保証するから適当に勇者っぽく振る舞って過ごしなさいね』って意味なんだろうけど。
こんな若くてやる気のある子に、そんなこと、おじさん言えないし……
「えっと……」
どうしたものか。
赤井くんのスキルは、確かに貴重だ。でも、使う機会がないんじゃしょうがない。
光魔法って戦闘以外に他に何ができるんだろうな?
うーん、民に喜びや希望を与える……
「えっと、じゃあ、アイドル……とか、どう? あはは、なんちゃって……」
いや、アイドルて! と俺は内心自分の発言に冷や汗をかく。なにかすぐに言わなきゃって焦った答えがこれだ。
若者が真剣に悩んでいるのに、適当なオッサンだと思われる!
「それだーっ!」
だが、焦る俺をよそに、赤井くんは勢いよく立ち上がった。
「えっ」
「それっす、シロさん! 俺、この世界でトップアイドルを目指します!」
目がキラキラ輝いている。
おお、よくわかんないけど、良かった!
良かった……のか?
「イサムちゃん、アイドルって何ねぃ?」
ネイネイが首を傾げる。
「あ、えっと、歌って踊って人々を笑顔にする存在っす! シロさん、これ最高のアイディアっすよ! 俺、元の世界でもバンドとかやってみたいって思ってたっす!」
「え、そうなの?」
「はい。金なくて、なかなかできなかったんっすけど」
赤井くんが照れくさそうに笑う。
「でもこの世界なら、スキルで光魔法を使った演出とかできるし! あとバイトしなくても食えるし! 勇者として民に希望を与えるって、こういうことっすよね!」
うん、まあ、確かに。
間違ってはいない……んじゃないかな。
「よし、俺頑張ります! シロさん、ありがとうございます!」
「いや、俺は何も……」
「また相談しに来てもいいっすか?」
「ああ、まあ、うん」
赤井くんは満面の笑みでホワの頭を撫でて、部屋を出て行った。
「なんか、すごい勢いだったな」
「イサムちゃん、元気だねぃ」
ネイネイが楽しそうに笑う。
「でも、良いんじゃないかねぃ。勇者が毎日城に引きこもってるより、顔を見せてくれたほうが民も喜ぶさ」
「そういうもんかな」
「そうだよぃ。シロちゃん、良いアドバイスしたねぃ」
「ホワ、ホワ!」
ホワもそうだ、そうだと言わんばかりに頷く。
「ホワ、お前もアイドルの赤井くん、応援したいか?」
「ホワ!」
本当に良かったのか自信はないが……
ま、赤井くんが前向きになってくれたなら、それでいいか!
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