第34話 決意
ゴールディの工場から帰り、工房で一息つく。
いつもおしゃべりなルルとホワも、みんな無言で少し重い空気が流れている。
「あのさ、ルル、ホワ」
空気が重いのは承知で、俺は切り出した。
「大事な話があるんだ」
「大事な話?」
「ホーワ?」
ルルとホワがそろって首を傾げる。
「実は、修行先のグリさんから就職しないかって声をかけられたんだ」
「えっ」
「縫製職人として、商会で働いてほしいって」
「それって……」
「それから、前に、ゴールディ商会にも声をかけられたことがある。職人としてうちに来ないかって」
「ゴールディに……!?」
「ホワーッ!?」
ルルの声が震える。ホワも驚いた様子だ。
「大事なことだから、共有しておきたかったんだ。それで……」
「シロ!」
俺が話し終わる前に、ルルが勢いよく立ち上がる。
「シロ……もしかして、シロはこの店を畳んで……私たちを捨てて……もっと良い条件の仕事先に行っちゃうの?」
「ルル……」
「だって、シロの腕ならどこでも引く手あまただもん……」
「ホワワ……」
「でも、ゴールディの酷さ、見たでしょう!? あんな奴らと付き合っちゃダメ! 絶対にダメだよ!」
「ルル、聞いてくれ」
「嫌だよ! あの工場で働いてる人たち、どんな思いで……! お願いだから、あんな奴らと付き合わないで!」
「いいや」
俺は首を振った。
「ゴールディ商会と手を組む利益はある」
「えっ……」
ルルが目を見開く。
「シロ……何言ってるの……?」
「だが、今はまだその時じゃない。組むなら奴らの言いなりにならないよう、対等な立場になってからだ」
「対等な、立場……?」
俺はルルを見て続ける。
「そう。対等な立場になって、あの薄暗い工場で酷いノルマに追われて働いてる人たちを助けてやりたいんだ」
「でも、どうやって……」
「相手に利益を提示できるようになるしかない。感情論じゃダメだ。『酷い』『可哀想』って言うだけじゃ、何も変わらない」
グリさんから学んだことだ。
商売は、感情じゃない。
利益と利益の交換だ。
「俺が、ゴールディと対等に渡り合えるようになる。そして、あの工場の人たちを雇う条件を提示する」
「シロ……」
「そのためには、商売を学ばなきゃならない。もっともっと、強くならなきゃならない」
俺はルルとホワを見る。
「それまで、しんどいかもしれない。でも……頑張ってくれるか、ルル店長」
「……っ! だ、誰にモノ言ってんのよ!」
ルルが涙を拭って笑う。
「当たり前でしょ! 私、この街で一番の販売員になるんだから!」
「ホワ!」
ホワも力強く鳴く。
「ありがとう」
俺は二人に頭を下げた。
「この世界を必ず変えてみせる」
あと10年。
元の世界に帰るまでの10年。
その間に、必ずこの世界を少しでも良くしてみせる。




