第31話 指導
「グリさん、これ……」
数日後、ふらっと店に立ち寄ったグリさんに一週間分の売上記録をまとめたノートを差し出した。
「おお、ちゃんと付けてくれたんやね。シロさんは可愛くて賢いなぁ~」
ノートをパラパラとめくり、グリさんはいつもと変わらない調子で冗談とも本気ともつかない軽口を言う。
「あの、気づいたことがあって」
「ほう?」
「見てください。ここ数日、緑色と白色のものばかり売れてるんです」
俺が指さすと、グリさんがニヤリと笑った。
「よう気づいたなぁ。せやろ? 今はクローバー祭りの季節やからね」
「クローバー祭り……?」
「ああ、この街の春祭りや。四つ葉のクローバーがシンボルでな、みんな緑や白の服を着て祝うんや」
グリさんがノートをトントンと叩く。
「季節の動きやすい色っちゅうのがあんねん。今なら緑や白。夏は青、秋は茶色やオレンジ。冬は赤や白。わかるか?」
「はい」
「ほんで、今年の流行は淡いパステルカラーや」
グリさんがノートのあるページを指さす。
「見てみぃ。どの商品も特に淡い緑のもんが良う売れとる」
確かに、記録を見ると一目瞭然だ。
「中でもな」
グリさんがある商品名を指でなぞった。
「パステルグリーンのドロップガラスに白い小花をあしらったピアス。これが群を抜いて売れとるやろ」
「……本当ですね」
他の商品と比べて単価も高めなのに、この商品だけ飛び抜けている。
「なんでか、わかるか?」
「季節と流行が合ってるから……ですか?」
「正解や。季節感があって、流行に乗ってて、ほんでデザインも良い。三拍子揃っとるんや」
グリさんが椅子に座り直す。
「シロさん、フェルト人形作っとった時、どうやって売っとったん?」
「えっと……ルルに接客を任せて、俺は工房で作業を……」
「ほな、お客さんの声、直接聞いとったか?」
「いえ……ルルから報告を受けて……」
「やっぱりなぁ」
俺の答えを聞いたグリさんがため息をつく。
「あのお嬢ちゃん、ええ子やと思うで。一生懸命やっとるし、お客さんにも好かれとる」
「はい」
「せやけどな」
グリさんの目つきが、ギュッと厳しくなる。
「シロさん、あのお嬢ちゃんに店のこと全部任せて、お客さんからは耳障りの良い声ばっかり拾ってたんやないの?」
「それは……」
「『可愛い』『欲しい』『また来ます』そういう声だけ聞いて、満足しとったんとちゃうか?」
「っ……」
言葉に詰まる。
確かに、ルルからは良い報告ばかり聞いていた。
お客さんが喜んでくれればそれが全てだと思っていた。
「職人ならな、それだけでもええんよ。良いもん作って、お客さんが喜んでくれる。それで十分や。せやけど、商売人は違う」
グリさんがノートを指さす。
「何が売れて、何が売れへんのか。なんで売れるのか。誰が買うてくれるのか。いつ売れるのか。時流を読んで、目の前のお客さんを見て、常に考え続けなあかん。それが商売や」
「……」
俺は何も言えなかった。
グリさんの言う通りだ。
俺は、職人として良いものを作ることしか考えていなかった。
商売人として、何を売るべきか、どう売るべきかを全く考えていなかった。
「だから、ゴールディさんにつけこまれたんやろうね」
「……はい」
「あっちは商売のプロや。時流を読んで、お客さんを見て、最適な商品を最適な価格で出してくる。シロさんがいくら良いもん作っても、商売で負けたら意味あらへん。俺の言うてる意味、わかるな?」
「はい。ありがとう……ございます……」
俺は深く頭を下げた。
悔しい。悔しい。悔しい。
でも、その通りだ。俺は今まで何も分かっていなかった。
本年もありがとうございました
本日「異世界ぬいぐるみおじさん」第1部、いったんのラストとなります
20時から30分ごとにラストまで更新です
お正月は少し更新お休みをいただいて
その間少し短編など書いてまいります
シロの異世界生活、最後までお楽しみいただけましたら幸いです




