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異世界ぬいぐるみおじさん  作者: フジコ


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【閑話休題】スパイスミルクティー

 修行初日の朝は緊張していたせいかいつもより早く目が覚めた。

 窓の外はまだ薄暗い。静かな工房で俺はひとり紅茶を淹れた。


「ふぅ……」


 カップを手に取り一口飲む。

 こちらの世界に来てから毎朝一杯の紅茶が習慣になった。

 あたたかくて優しい味だけど


「コーヒー、飲みたいな……」


 元の世界では毎朝コーヒーを飲んでいた。

 安いインスタントコーヒーだったけど、あの苦味と香りが好きだった。

 朝、目覚まし時計に起こされて、顔を洗って、適当に着替えて。

 キッチンでお湯を沸かして、マグカップにコーヒーを注ぐ。

 それがもう何年も俺の朝の習慣だった。

 この世界ではコーヒーは高級品だ。

 貴族や富裕層の嗜好品で庶民が毎日飲むようなものじゃない。

 こういう時、元の世界のことをつい思い出してしまう。

 あの、何もない日常のこと。


「帰りたい、わけじゃないんだけどな」


 この世界での生活も悪くない。

 ルルやホワとの生活も楽しい。でもたまに、ほんの少しだけ。

 元の世界が恋しくなる。


「……よし」


 俺は紅茶を飲み干して気合を入れた。

 今日から修行なんだ。考えすぎないようにしないと。


「あれ? シロ、起きてたんだ」


 階段を降りてきたルルの声。


「おはよう。早いな」

「おはよ。今日から修行でしょ? 朝ごはん作るね」

「ホワワ~ァ」


 ホワも眠そうな顔でルルにの後を追う。

 しばらくして、ルルが戻ってきた。


「はい、これ」


 差し出されたのは、いつもと違う色の飲み物。


「これは?」

「スパイス入りのミルクティー。今日から頑張ってほしくて特別に作ったの。ね、ホワ」

「ホワホワ!」

「……ありがとう」


 俺はカップを受け取り、ひと口飲んだ。甘くてスパイシーで温かい。

 コーヒーとは全然違う。でも、とても美味しい。


「うまいな」

「本当? 良かった!」

「ホワ~」


 ルルが嬉しそうに笑ってホワが俺の肩に飛び乗る。


「よし。今はこれで頑張るか!」


 俺は笑顔で、スパイスミルクティーを飲み干した。

 コーヒーはまた、いつか。

 10年後、元の世界に帰ったらたっぷり飲もう。

 今はこの世界で前を向いて、進むんだ。


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