第29話 修行先
「グリさん、少しお時間よろしいですか」
「おや、組合長さん。どないしはりました?」
ジョヌ組合長さんに案内され事務室に通してもらうと、そこには一人の男性が座っていた。
30手前くらいだろうか。柔らかな微笑みを浮かべながら書類に目を通している。
「ネイネイ様からの紹介で、他店での修行を希望されている方がいらっしゃいましてね」
組合長さんに手招きされ、俺は慌てて前に出る。
「こちら、シロさんです。シロさん、こちらはグリさん」
「シロと申します。よろしくお願いします」
俺が頭を下げると、グリと呼ばれた男性が立ち上がった。
「ほぉ、これはまた可愛らしい子やねぇ」
グリさんが俺の顔を覗き込む。えっ、いや、可愛い?
俺はもう30過ぎのおじさんなんだが。組合長さん、この人大丈夫ですか……
「いや、あの、俺は……」
「冗談や、冗談。んで、修行したいっちゅうのはホンマなん? うちの子になりたいん?」
「えっと、はい……」
飄々としていて、ちょっと底の見えにくい人だな……
「ふーん。ゴールディさん絡みかぁ」
あとはふたりでお話をと言って組合長さんが退室し、俺はグリさんに今回の事情を簡単に説明させてもらった。
一通り聞いたグリさんは腕を組んで唸る。
「あそこは厄介やねぇ。資本も人脈もあるし、商売も上手い」
「だからこそ、俺は学びたいんです。このままじゃ負けたままで終わってしまう」
「ほぉ。それで、うちでお勉強させてほしいと?」
「はい。お願いします!」
俺は深く頭を下げた。
修行だなんて聞こえはいいけど、簡単に受け入れてもらえるとは思っていない。
商売のノウハウを無料で教えろと言っているようなものだ。
自分でも図々しいことを言っている自覚はある。
「……んもー! こんな可愛らしい子なら大歓迎やわぁ!」
ところが、グリさんはあっさりと許可をくれた。
「えっ、本当ですか!?」
「ホンマ、ホンマ! ネイネイさんからの紹介やし、組合長さんの顔も立てなあかんしなぁ」
「ありがとうございます!」
「ただし、うちは厳しいで。ついてこれるかな?」
「もちろんです」
「よっしゃ。それじゃあ、明日から来てもらおか」
「明日、ですか!?」
「なんでも実地経験や。座学なんかやっとる暇あらへん」
グリさんは手帳にサッと何かを書きこんで、そのページを1枚破った。
「うちはジュエリーと高級衣料品がメインやけど、最近は若い子向けの手ごろなアクセサリー店もやっとんねん」
「はい」
「そこに放り込んだるわ。まずは販売の基礎を叩き込む」
グリさんがニヤリと笑って、書き込んだ紙を俺に向ける。
そこにはアクセサリー店の簡単な地図と店名が書いてあった。
「覚悟しときや」
「はい!」
俺は力強く頷いた。会議室を出ると、組合長さんが笑顔で迎えてくれた。
「良かったですね。グリさんに受け入れてもらえて」
「はい。本当にありがとうございます」
「グリさんは……まあ、変わった人ですが」
組合長が小声で言う。
「商売の腕は確かですよ。しっかり学びなさい」
「はい」
俺は深く頭を下げ、組合を後にして工房へと戻った。
ルルとホワにはどう説明しようかな……




