第27話 教えてネイネイちゃん3
「ネイネイ、少しいいか」
「シロちゃーん! 最近忙しかったねぃ? お座りよ! 今日はひとりねぃ?」
「ああ、店番を頼んできたんだ」
翌日、俺はひとりでネイネイの研究室を訪ねた。
いつも通りのテンションで歓迎してくれるネイネイの声を聞いて、ふっと緊張が解ける。ルルとホワを連れてこなかったのは、これから話す俺の弱音を聞かせたくなかったからだ。
「それで、今日はどうしたのさ? なにか話したいことがあるんだろう?」
「何でわかるんだ」
「そんな怖いお顔してちゃ、ねぃっ!」
「イテッ」
「まま、紅茶でも飲んで気楽にねぃ」
そう言ってネイネイは俺の眉間を指で弾いて、熱々の紅茶を入れてくれた。
本当にこいつには世話になりっぱなしだな。
「実は……」
俺は昨日の出来事を話した。メゾンドールのこと。フェルト人形が真似されたこと。シアンに言われっぱなしで、何も言い返せなかったこと。
「それで、どうすればいいのか分からなくて……」
情けない話だ。
30過ぎのおじさんが泣き言ばかりもらしている。
「ん~、面倒な相手に目を付けられたねぃ。遅かれ早かれと思ってたけどねぃ」
ネイネイが紅茶のカップを置いて、小さくため息をついた。
「面倒な相手?」
「ゴールディ商会はこの街で一番の大商会さ。シロちゃんの店が成功すれば、いずれ目を付けられるとは思っていたんだよねぃ」
「そうだったのか……」
だからネイネイは初めてシアンと俺が会った時、俺のことをシアンに紹介しなかったんだな。
「でもまあ、起きてしまったことは仕方ないねぃ」
「ネイネイ、助けてくれ。このままじゃうちは先が見えてる。フェルト人形を取り戻すことはできないか?」
「資本主義って知ってるねぃ? オン?」
「え?」
「資本主義ねぃ。より良い商品を、より安く。それが市場の原理」
「でも、フェルト人形は俺が考えた商品で」
「自分でもわかっているだろぃ? ゴールディの坊ちゃんの言う通りさ」
「そう、だな……」
改めて今回のことを言われて、胸がぎゅっとした。俺は頭のどこかでネイネイなら何とかしてくれる、慰めてくれると思っていた。それを見透かされたみたいで、恥ずかしい。
「これが現実ねぃ。シロちゃんが悪いわけじゃないし、坊ちゃんのやり方は美しくない。だけど、それがビジネスってもんさ」
「手詰まりだな……」
俺は頭を抱えた。諦めるしかないのか。このままシアンにやられっぱなしで。
「シロちゃん、質問ねぃ」
ネイネイが背中を伸ばして椅子に座り直す。
「シロちゃんは、何がしたいのさ」
「何が、って?」
「商売を続けたいのか。それとも、職人として腕を磨きたいのか」
「俺は……」
俺は何がしたいんだろう。
最初はスキルがお針子だからこれしかないって思って、生活のために商売を始めた。
でも、きっと今は違う。ルルやホワと一緒に店を続けて、お客さんに喜んでもらいたい。
「商売を続けたい。もう、あの店がこの世界での俺の居場所なんだ」
「なら、商売を学ばないとねぃ」
「商売を学ぶ?」
「そうさ。シロちゃんは職人としては一流だけど、商売人としてはまだまだねぃ」
ネイネイがニヤリと笑って立ち上がる。
「修行、行っとくねぃ?」




