第23話 忍び寄る影
「やった! やっと買えた!」
ぬいぐるみ工房シロの前で、若い女性ふたりが嬉しそうに声を上げた。
「本当、今日こそ買えるって信じてたのよ」
「朝から並んだ甲斐があったね」
ふたりの手には、それぞれフェルト人形が握られている。
白くて丸い、手のひらサイズのぬいぐるみ。ホワをモデルにした可愛らしいデザインだ。
「これ、妹の誕生日プレゼントにしようと思って」
「私は自分用。ずっと欲しかったの」
ふたりは楽しそうにぬいぐるみの話をしながら、笑顔で帰路につく。
そのまま商店街を外れ、少し人通りが少なくなったところで、声をかけられた。
「すみません」
振り向くとそこには若い男性が立っていた。
金髪碧眼、爽やかな笑顔。仕立ての良い服に身を包み、姿勢も立ち振る舞いも洗練されている。まるで絵画から抜け出してきたような完璧な容姿だ。
「はい?」
「そのぬいぐるみ、買い取らせていただけませんか?」
「えっ……?」
見た目の良い男に頭をさげられて、二人は顔を見合わせる。
「実は、どうしても手に入れたくて。でも、仕事が忙しくて並ぶ時間がなくて……」
男が困ったように笑う。その笑顔は完璧でどこか作り物めいていた。
「ええ、でも……」
「私たちも並んでやっと買ったので……」
ふたりが言いよどむと、男は懐から金貨を取り出した。
「もちろんタダでとは申しません」
差し出されたのは金貨3枚。フェルト人形の定価は銀貨3枚。金貨3枚なら、その10倍の価格だ。
「き、金貨……!?」
「おひとつにつき金貨3枚でいかがでしょうか」
目を見開く女性たちに、男は穏やかに微笑む。
「そんな……そんなに欲しいなら……」
女性のひとりがぬいぐるみを差し出した。
「私も……妹には、別のものをあげるわ」
もう片方もぬいぐるみを手放す。
「ありがとうございます」
手渡された金貨を握りしめ、ふたりは複雑な表情で立ち去っていった。
一人残された男は、手に入れたフェルト人形をじっくりと観察し始めた。
手のひらサイズの小さな体。フェルトを丁寧に縫い合わせた作り。綿の詰め方、糸の使い方、縫い目の細かさ。
「なるほど……」
フェルトという素材は扱いやすく安価に作れる。
デザインも単純で量産しやすい。
男は満足そうに微笑むと、フェルト人形を懐にしまう。
そして、何事もなかったかのようにその場を後にした。
完璧な笑顔のまま。誰にも気づかれることなく。
昨日予約投稿をミスってしまいました……。今日は2話更新です!24話は今夜20時に!




