第16話 反省
移民居住区で助けられた俺とホワは、それから警備隊の詰所に連れて行かれ簡単な治療を受けた。
「打撲ですね。危ない場所ですから、この程度で済んで良かったです」
治療担当の隊員さんが俺の背中を確認する。
「痛みはありますか?」
「まあ、少しは」
「湿布を貼っておきますので、今夜はご安静に。湯船には浸からずシャワーで済ませてください」
「ありがとうございます」
親身になってくれて、元ではあるが同じ公務員として頭が下がる。俺と一緒にホワも具合を確認してもらったが特に怪我はなかった。
「ホワ、よかったな」
「ホワ!」
「でも、帰ったらお前はお風呂だぞ」
「ホワワ〜……」
お風呂と聞いて途端にしょんぼりする。ホワは風呂が苦手なのだ。水に濡れるのが嫌らしい。
「我慢だ、我慢」
「ホワ……ホワッワワァ……」
耳を垂れて、不満そうにする姿が可愛い。
「お疲れのところすみません、少しあちらでお話をよろしいですか?」
治療が終わると、警備隊の隊員さんが俺たちを個室へ案内してくれた。取り調べ、というやつだな。うーん、鉄格子がはめられた薄暗い部屋と、カツ丼とデスクライトが思い浮かぶ。
「どうぞ、おかけください」
ところが、案内されたのは応接室のような部屋だった。
ゆったりしたソファ。テーブルにはお茶とお菓子まで用意されている。
「え、あの……」
「お話はネイネイ様より。では」
隊員さんは礼儀正しく一礼して部屋を出て行った。
「シロちゃん、ホワちゃん、お疲れ様ねぃ」
ソファに座っていたネイネイが手を振る。
「ネイネイ、どうして……」
「シロちゃんもホワちゃんも疲れてるだろうし緊張もするだろうからねぃ。ネイネイちゃんの方が話しやすいだろうと思って。それに、警備隊も忙しいからねぃ。ネイネイちゃんが話を聞けば、手間が省けるってわけさ」
なるほど。
確かに、知らない隊員さんに話すより、ネイネイの方が話しやすい。
治療をしてくれた隊員さんもそうだけど、ここまで気をつかってくれるなんて。警備隊の皆さんは職務熱心で親切だな。
「それじゃあ、今日のことを教えてくれるかねぃ?」
「はい」
俺は今日の出来事を話した。ルルを探しに移民居住区へ行ったこと。住民たちには相手にされず、気付けば男たちに囲まれたこと。最後にルルが助けに来てくれたこと。
「……というわけ、です」
話し終えると、ネイネイは深いため息をついた。
「シロちゃん、危なすぎるよ」
「すみません」
「ホワちゃんも、危ない時は止めるのが使い魔の仕事ねぃ」
「ホワァ……」
「あそこは、よそ者が一人で行く場所じゃないんだよ。もしネイネイちゃんや警備隊が来なかったら、どうなってたか……」
ネイネイの声が沈んでいる。本気で心配してくれていたんだ。
「本当に、すみませんでした……」
「次は、ちゃんとネイネイちゃんを頼りねぃ。約束だよ」
「約束します」
自分でも無茶をしてしまったと思っている。返す言葉もない。
「ん? そういえば、どうしてネイネイは俺の場所が分かったんだ?」
「警備隊から報告が来たんだよ。シロちゃんが盗難被害に遭ったって」
ああ、なるほど。
「それで探しに来てくれたのか」
「そういうことねぃ」
「それで……ルルは?」
「今、取り調べ中だねぃ」
ネイネイが真剣な顔になる。
「あの子、男たちに脅されてたんだよ」
「やっぱり……」
「男たちはスラムの子どもを売ったり、犯罪の手駒にしようとしてたらしいねぃ。それを止めようとして、その代わりにルルちゃんが盗みをさせられるようになったんだってさ」
「そんな……」
「嘘を見抜く魔法もかけたから、間違いないねぃ」
ネイネイが小さな鏡をを取り出して見せる。
「これで心の真偽を確かめるんだよ」
子どもを守るためにルルは自分が犯罪者になることを選んだのか。
俺から見れば、ルルだってまだずっと子どもなのに。
その時、外が騒がしくなった。
「ルル姉ちゃんを返して!」
小さな子どもたちの声だ。
「何事ねぃ?」
異様な事態にネイネイが部屋の外に待機していた隊員さんに声をかける。
「移民の子どもたちが、容疑者の釈放を求めて来ています。帰るように説得しているんですが、相手は子どもなので……」
「んー、分かったねぃ。ここはネイネイちゃんに任せてほしいねぃ」
そう言ってネイネイはこちらを振り向いた。
「シロちゃん、ちょっと行こうか」
詰所の入口には、子どもたちが5人ほど集まっていた。
年齢は様々。小さい子は4歳くらい、大きい子は14歳くらいだろうか。
「ルル姉ちゃんは悪くないの!」
「お願い、許してあげて!」
子どもたちが必死に訴えている。みんな粗末な格好で、中には裸足の子もいた。こんな格好で移民居住区からここまで歩いてきたのか……大人の足でも結構な距離なのに。思わず、鼻の奥がツンとする。
「大丈夫だよ」
俺が声をかけると、子どもたちが一斉にこちらを見た。
「きっと大丈夫だから」
「おじさん、本当?」
小さな女の子が、涙目で聞く。
「本当だ。約束する」
「ホワ!」
ホワが女の子を慰めるように駆け寄って行った。
「わあ、ぬいぐるみが動いてる!」
「可愛い!」
「ホワワ〜」
子どもたちに撫でられながら、ホワが嬉しそうに鳴く。
「ルル姉ちゃん、絶対助けてね」
一番背の高い少年が真剣な目で俺を見る。
「ああ、任せてくれ」
「さあ、あとはこのおじさんとお姉さんに任せてみんな暗くなる前にお家に帰りねぃ」
最後にネイネイが優しくそういうと、子どもたちはようやく安心したように帰って行った。
「んー、複雑だねぃ……」
子どもたちを見送って部屋に戻ったあと、ネイネイがそう呟いた。無理もない。あの子どもたちの姿を見れば誰だって同情してやりたくなる。
「それで、ルルはやっぱり逮捕されるのか?」
「それが、ちょっと複雑なんだよねぃ」
ネイネイは手元のカップから紅茶をひと口啜って話し始めた。
「ルルちゃんは、主犯格に脅されて盗みをさせられていた。証拠も十分にある。これは間違いないねぃ」
「ああ」
「同情の余地はあるけど、犯罪をしてしまったことは事実ねぃ。だから無罪放免というわけにはいかないねぃ。だから……」
ネイネイが指を立てる。
「一つ、盗んだ金を弁済すること。二つ、信頼できる保護者をつけること。三つ、月に一度地域への奉仕活動に参加すること。この三点がクリアできれば、明日にでも釈放できるってさ」
「それなら」
「でもねぃ」
ネイネイがとたんに顔を曇らせる。
「弁済額が、金貨100枚あるんだよ」
「金貨100枚!?」
なかなかの大金だ。
「移民居住区の住民が用意できるとは思えない額だろぃ。それに、ルルちゃんには身寄りもない。だから、残念だけど……」
「俺が出す」
「え?」
ネイネイが目を丸くする。
「金貨100枚、俺が出す。それと、保護者も俺がなるよ。もちろん、ルルが嫌がらなければだけど」
「シロちゃん、でも」
「国からもらった支度金が、まだ残ってる。ギリギリだけど、なんとか払える額だ」
本当にギリギリだけど、ここで使わないでいつ使うんだ。
「それに、子どもたちと約束したからな」
「ホワ!」
ホワも賛成してくれているみたいだし。
「やれやれ、シロちゃんは本当に仕方ない子だねぃ」
呆れ顔で笑うネイネイに、俺もつられて笑ってしまった。
予約投稿をミスって時間がずれてしまいました!慌てての主導投稿です。失礼しました……




