第15話 不遇
「待って!」
男の手がかかる瞬間、狭い路地に大きな声が響いた。反射的に男の手が止まる。
「ルル……」
「ホワ!」
声の持ち主は、俺たちが探していた人物、ルルだった。
建物の隙間からの光を背に立つルル。逆光でシルエットしか見えないが、肩で息をしているのが分かる。ここまで急いで駆けつけたんだろう。
「そのっ、私を探してる男がいるって聞いて」
ルルが一歩前に出る。
「そいつ、私の知り合いなの」
嘘だ。
俺たちは知り合いなんかじゃない。俺たちを助けようとして嘘をついているんだ。
「ふーん。それじゃ売り飛ばすと後がめんどくせぇな」
大柄な男が舌打ちする。
「兄ちゃん、さっさと有り金置いて出て行きな」
「っ!」
男が俺を突き飛ばす。俺はとっさにホワを両手で庇い、受け身を取る余裕もなく後ろへ転がった。背中にドンと衝撃が響き、強い痛みが広がる。
「ホワァッ!」
「なんだぁ、この!」
怒ったホワが俺の腕の中から威嚇の声を出し、それに反応した男がさらに手を上げた。
「やめてよ!」
ルルが駆け寄り、両手を広げて俺たちを庇うように間に割って入る。
「金は盗っても乱暴しないって約束でしょ!」
「はぁ? 金を盗ったのは俺じゃなくてお前じゃないか」
「そうそう、俺たちは何もしてないぜ」
男たちが下品な笑い声を上げる。
「何をっ……私にあんな仕事をさせたのはアンタたちじゃない!」
ルルが声を張り上げた。
「私はっ、私は、あんなことやりたくなかった!」
涙声で叫ぶ、その背中が震えている。
「ルル……」
ルルは、こいつらに脅されていたのか。
「ああ、もう面倒くせぇ。やっぱりこいつらまとめて売り飛ばそうぜ」
男の一人が、ルルに手を伸ばす。ダメだ、こうなったら俺がおとりになって、ホワとルルどちらかだけでも先に逃がそう。俺がそう覚悟を決めた瞬間
「そこまでねぃ」
低く、響く声が路地に響いた。
「全員両手を上げて大人しくするねぃ」
いつの間にか、路地の両端に警備隊が詰めている。そして、その先頭に立つのが
「ネイネイ!」
銀髪褐色肌のダークエルフ魔導士、シルビア・ネイネイ。
いつもの柔らかい雰囲気はなく、鋭い目で男たちを睨んでいる。
「チッ、警備隊かよ」
「逃げるぞ!」
男たちは逃げようとしようとするが、当然逃げ場は無く、警備隊に取り押さえられた。
「くそっ、離せぇ!」
「大人しくしろ」
あっという間に男たちは捕縛される。
「ルル・アンバー、お前もだ」
警備隊の一人が、ルルの腕を掴む。
「はい……」
ルルは抵抗せず力なく頷いた。
「シロちゃん、ホワちゃん、無事かねぃ?」
ネイネイが俺たちに駆け寄る。
「ネイネイ、どうしてここに……」
「その話は後でゆっくりねぃ」
ネイネイは汚れた俺の姿を見て眉をひそめた。
「ああ、もう怪我してるじゃないか」
「これくらい大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないねぃ。まったく、取り調べよりもお説教が先かねぃ……」
ネイネイがため息をつく。
その時、連行されていくルルが俺の横を通り過ぎた。一瞬、目が合うが視線はすぐにそらされる。
「ごめんなさい……」
それでも去り際、ルルは俯いたまま小さな声で呟いていった。
警備隊に連れられて、路地の奥へと消えていく。
「ルル……」
「ホワワ……」
俺たちは、ただそれを見送ることしかできなかった。




