第14話 人探し
詰め所で調書を取られ、家に戻ったのは昼前だった。
「はぁ……」
風呂に入らなきゃいけないのに、何もする気が起こらず汚れた服のままベッドに倒れ込む。体も心もヘトヘトだ。
「ホワ……」
ホワもヨタヨタとベッドに上がってきて、隅で小さくなった。明らかに元気がない。
「ホワ、お前のせいじゃないからな」
「ホワァ……」
ゆっくりとホワの頭を撫でる。いつもなら尻尾を振って喜ぶのに、ぐったりと動かない。ルルの誘いにのってしまった自分を責めているんだろう。
「相手はプロで、俺たちはこの世界の初心者だ」
自分に言い聞かせるように呟く。あの子は犯罪のプロだったんだ。警備隊も手を焼く、眠り魔法を使って金を盗んでは姿をくらます常習犯。
ここはこの間まで暮らしていた日本じゃないんだ。警戒無しの俺たちなんか良いカモだっただろう。仕方ない。
仕方ない、けど……
「おかしい……」
けど、納得できない。俺にはどうしても、昨日嬉しそうにホワを撫でていた姿が全部嘘だなんて思えなかった。
それに、そう、服装だ。警備隊の話だと、ルルはここ最近で相当額を盗んでいたはず。なのに昨夜見たルルは、色あせて擦り切れたワンピースを着ていた。袖口はほつれ、裾には泥か何かのシミをつけて、ツギハギもあった。年頃の女の子が盗んだ金で新しい服の一着も買わないなんて変じゃないか。
「よし、ルルを探しに行こう」
「ホワー!?」
俺の言葉にホワが驚いて顔を上げる。
「財布だけじゃない。ルルがどうしてあんなことをしてるのか、お前も納得できないだろ? それに、このままだと次の被害者が出る」
「ホワ……!」
ホワも腹を括ったように力強く頷いた。
ベットから立ち上がり軽く屈伸する。倦怠感が強いが、公務員時代の年度末進行を思い出せばこのくらいどうってことない。
「ルルを探して、話をする。それで」
それで、どうしよう。
財布を返してもらう? 警備隊に突き出す?
分からないが、このままじゃ終われない。
「行くぞ、ホワ」
「ホワッ!」
ホワが俺の肩に飛び乗った。
「ありがとな」
礼をすると「当たり前だ」とばかりに小さな胸を張る。
開店、もしかしたら延期になっちゃうかもな。
商店街を抜け、さらに南へ40分ほど進むと移民居住区、警備隊が「入り組んでる」と言っていたエリアが見えてきた。
目的の場所に近づくにつれ、だんだんと街の雰囲気が変わってくる。
木造の建物はどんどん古く、小さくなってゆく。
手入れされていない壁はところどころ崩れかけ、道の舗装も無くなった。
土埃が舞い、道端にはゴミが散乱している。お世辞にも安全とは言えない環境だ。
普段俺が暮らしている商店街からたった数キロしか離れただけで酷い差じゃないか。異世界の公共衛生は現代日本並みだと思っていたが、こんな場所があるなんて。
「この街のどこかにいるはずだよな……」
エリアの奥へと続く細い路地に立ち入ると、目が合った住民が俺とホワを見て露骨に警戒の表情を向けた。
「ホワ……」
「大丈夫、大丈夫だ」
ホワが俺の肩にぎゅっとしがみつく。
路地は警備隊が行っていた通り、かなり複雑に入り組んでいてどこを歩いているのか分からなくなる。子どもたちは路地で元気に遊んでいるが、大人たちは家の中から不審そうにこちらを見ていた。
「あの、すみません。茶色の髪の女の子を探してるんですが。琥珀のような目の」
通りかかった年配の女性に声をかけるも、女性は俺を一瞥すると何も言わずに立ち去った。その後も数人に声をかけたが、無視をされるか言い終わる前に「知らない」と即答されるだけ。
「くそ……どうすれば……」
「おい、兄ちゃん」
途方にくれていると背後から声がかかった。振り向けばガラの悪そうな男がふたり、こちらを見ている。
「よそ者が何の用だ」
大柄な男が頭上から俺を覗く込むようにしてすごむ。
「あ、いや、人探しを……」
「人探しぃ? こんなところで」
「おいおい、それなら俺が探してやるよ。先にチップをくれるんならな」
「ホワッ!」
もう一人の男が俺の服装を値踏みするように近づいてきて、警戒したホワが大きく鳴いた。
「おお、使い魔まで連れていやがる。こいつは高く売れそうだな」
やばい。男たちが、じりじりと距離を詰めてくる。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「はは、こっちには待つ理由がねえんだわ」
男の一人が笑って俺の腕を掴もうと手を伸ばした。
異世界に来て初めて窮地に立つシロ。
続きが気になったら、評価やブクマで応援してもらえるととても嬉しいです。
ありがとうございます!




