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異世界ぬいぐるみおじさん  作者: フジコ


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第11話 工房のはじまり


「ホワ、今日は紅茶に砂糖も入れてくれるか」

「ホワ~」


 ホワが小さな手でスプーンを持ち上げ、カップに入れる。最初の頃はこぼしそうになっていたが、今ではすっかり慣れたものだ。


「ありがとう」

「ホワホワ」


 誇らしげに胸を張る姿が可愛い。

 自分で作った犬のぬいぐるみ、ホワを使い魔にしてから1週間が経った。

 この1週間、おっさんひとりとモフモフいっぴきの生活は思いのほか順調に進んでいる。

 ホワはお茶を入れたり、洗濯物を畳んでくれたりと、日常の細々とした家事を積極的に請け負ってくれている。最初の数日は、洗濯物を畳む途中で力尽きて昼寝してしまったり、紅茶をこぼしそうになったりとハラハラする場面もあったが、今ではすっかり一人前だ。

 毎日、こうして作業前にホワに入れてもらった紅茶を飲むことは、すっかり俺の日課になった。


「うん、うまい」


 この世界に来る前はコーヒー派だったが、残念ながらここでコーヒーはかなり高価だ。貴族や富裕層の嗜好品らしく、庶民が毎日飲むようなものではない。

 仕方なく代わりに紅茶を飲み始めたんだが、これが結構いける。最初は物足りなかったが、今ではすっかり気に入っている。


「そうだ。今日は大工さんが来るから、お行儀良くな」

「ホワッ」


 ホワが元気よく返事をする。

 いよいよ今日から、家の1階部分を工房兼店舗にするための改装工事が始まることになった。

 机の上に広げた図面を見て、思わず顔がニヤケてしまう。

 作業スペースが左手奥に配置され、右手の壁際には棚が並ぶ。完成品を並べるディスプレイスペースもある。入口には看板を掲げて、店内の様子が見えるショーウインドウは少し大きめ。


「うーん、一国一城の主って感じだな」


 成り行きとはいえ、まさか異世界で商売を始めるなんて。

 しみじみと噛みしめていたら、入口から「邪魔するねーぃ」と聞き慣れた声がした。


「シロちゃん、ホワちゃん、久しぶりねぃ!」

「ホワ!」


 入って来たネイネイに、ホワが嬉しそうに駆け寄る。


「おっ、ホワちゃんは気合十分だねぃ」


 ネイネイはあのあと、すぐに工房の図面を引いて業者さんを手配してくれた。本当に良い奴だよなぁ。


「いよいよだねぃ。豪華絢爛、キラキラのピカピカにしちゃおうねぃっ」

「ホ、ホワワ!?」


 ホワが慌てたように俺を見る。


「いやいや、図面通りで」

「も~、節約家さんねぃ」

「ホワ~」


 ホワがホッとしたように息を吐く。

 物件決めの時も似たようなやり取りをしたな。あの時も、ネイネイは「客間7部屋!」とか言い出して、俺が却下したんだった。


「ネイネイ、豪華絢爛って具体的に何を考えてたんだ?」

「金の装飾とか、大理石の床とか、シャンデリアとか!」

「却下却下」

「ホッワホッワ」

「ここは商店街の庶民向けの店なんだから、入りやすい雰囲気にしないと」

「むー、つまらないねぃ」


 ネイネイが頬を膨らませる。

 なんでも、今回の改装費用はお国が持ってくれるとのこと。


「召喚者への支援制度ってやつねぃ。異世界から来た人が自立できるように、国が生活支援をするのさ」

「ありがたい話だな」

「シロちゃんがちゃんと商売できるようになれば、税金も納めてくれるだろうしねぃ」


 うーん、税金か……できれば知りたくなかった概念だな……

 その時、入口がノックされた。


「毎度、ブラウン工務店です」

「どうぞ!」


 入ってきたのは筋骨隆々とした中年の男性。腰には工具をぶら下げ、いかにも職人さんという雰囲気だ。


「どうも今回工事を担当させていただきやす、ブラウンです。どうぞよろしくお願いしやす」

「ご丁寧に。ええと、まだ店の名前は決まっていないんですが、お針子のシロと申します。よろしくお願いします」

「ホワッ!」

「おお、これは……使い魔ですかい?」


 ブラウンさんが、ホワを見て目を丸くした。


「ホワ!」

「こいつはすごい。しゃべる使い魔なんて滅多に見られやせんよ」

「ありがとうございます」


 いやー、職人さんからこんなに手放しに褒められると嬉しいな。


「それじゃあ、図面通りに工事を進めますんで。2週間ほどかかりやすが、よろしくお願いしやす」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 2週間か。その間、1階は工事現場になるから、2階で作業することになる。ちょっと不便だが、仕方ない。


「それじゃあ、ネイネイちゃんはお城に戻るねぃ。何かあったら連絡してねぃ」

「お茶くらい飲んでったらどうだ?」

「ホワ?」

「こう見えてネイネイちゃんもお忙しくってねぃ~」

「そうか、いつもありがとうな」

「いいってことねぃ」


 ネイネイが帰り、ブラウンさんと他の職人さんたちが作業を始める。

 トントンカンカンと小気味よい金槌の音が響く。


「ホワ、俺たちは2階で商品の準備だ」

「ホワ!」


 ホワと一緒に2階に上がり、窓から下を見ると、商店街を行き交う人々が見える。何人かは、俺の家の工事に興味を示して覗き込んでいる。


「2週間後にはちゃんとした工房になるんだぞ」

「ホワワ~」


 ホワが嬉しそうに尻尾を振る。

 仕事もいよいよ本格始動。2週間後が楽しみだ。





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