カンショウ《Side G》
“疲れたのなら立ちどまりなよ”
私の頭の中で声がこだまする
その声に促されるように
私は無理矢理動かしていた足を止める
荒い呼吸が戻るまで
じっとそこで休み続ける
世界の中を歩き続けていた私が
初見のあの人に言われた台詞
あの時私は止まることが怖くって
まったく休むことができなかった
足を止めたその刹那に
誰かが私においついて
誰かが私をおいこして
誰かが私をおいていく
恐れと憂いで止まれなかった
そんなとき
私の傍にうずくまる一つの影
私と視点の位置も合わせずに
下から聞こえてきた穏やかな声
“そんなに急いでどこへ行くの
どうして歩き続けていられるの”
その人はとても怪訝そうに
歩き続けようとする私に尋ねてきた
なんて返事をしたかは覚えてないけれど
その人の台詞だけは記憶している
“止まることを恐れるなんて
そんな気持ちは知らないけど
休むことには恐れはないよ”
その台詞に驚いて
思わず振り返った私の腕を
その人はきゅっと引っ張った
そんなに強くはなかったけれど
私の体は後ろにひかれ
あんなに恐れていた立ち止ることを
ごく単純にやってのけた
誰も私をおいてかなかった
“恐れてないで 疲れたら立ちどまりなよ
平気だよ 僕は今までここにいたんだ
誰にも置いていかれなかったし
大変なこともそうなかったから”
その人の声に包まれるように
私は地面に腰を下ろす
あの人の台詞は本当のことではなかった
なぜなら私は休んでいる時
歩き出すのが大変だったから
それでも私は
もう休まず歩き続けようとは考えなかった
疲れてぼろぼろになっていても
休めない辛さを
私はもう感じなくてもよかったから
辛い体を休めた後に
ゆとりができることの重要さ
それを理解することができたから