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雛霧の書  作者: 雛霧
23/49

カンショウ《Side B》

“立ちどまらずに歩き続けなさい”

僕の頭の中で声が響く


その声に促されるように

僕は止まりかけた足を動かす

歩けるだけ歩いたら

少しだけ速度を緩めて一息をつく


世界の真ん中でうずくまっていた僕が

初対面のあの人にかけられた言葉


その時僕は足を踏み出すのが怖くって

まったくそこから動けなかった


足を踏み出した瞬間に

そこには道がないんじゃないかと

足を踏み出しても前に進んでも

どこかで途切れているんじゃないかと


恐怖で不安で動けなかった


そんなとき

僕の傍で動きを止めた一つの姿


僕と目線の高さも合わせずに

上から聞こえてきた静かな声


“そんなところで何をしてるの

どうして立ちどまってなんかいられるの”


その人は心底不思議そうに

うずくまったままの僕に聞いてきた


なんて答えたかは忘れたけれど

その人の言葉だけは覚えている


“歩きだすことが怖いだなんて

その感情は分からないけど

歩いてることは怖くはないわ”


その言葉にひかれるように

思わず立ち上がった僕の背中を

その人はぽんと軽く押した


大した強さではなかったけれど

僕の体は前に向かって傾いて


あれほど怖がっていた前への一歩を

いとも簡単に出していた


そこにはちゃんと地面があった


“怖いなら立ちどまらずに歩き続けなさい

大丈夫 私はずっと歩いて来たわ

道はどこまでも続いていたし

苦しいこともそうなかったわ”


その人の声に押されるように

僕は次々と足を出す


あの人の言葉は真実とは言えなかった

なぜなら僕は歩きながら

たくさんの苦しいことに出会ったから


それでも僕は

もううずくまろうとは思わなかった


歩きださなければならないのに

歩き出せない苦しさを

僕はもう味わわなくてもよかったから


歩いてぶつかった苦しさを

乗り越えた時の心地よさ

それを知ることができたから



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