vol.1 のちに続く者
※この物語はフィクションです
爽やかな春風がそっと吹く丘の上、
そこにはえる一本の変哲のない木。
そして、そこに寝転ぶ少年がいた。
アルデバラン・フォン・ユークリッドはエルフであった。白髪でちょっと癖毛な短髪で緑色の目をしていた。7歳児なのに大人のように達観していたと同じような精神をしていた。
ここはアストラリウム王国の南東に位置するユークリッド伯爵家の辺境伯の領地。この世界には他にも4つの大国といくらかの小国があるらしい
「アル、またここで寝ていたのかい?」
そう声をかけたのは僕の兄である、ハイル・フォン・ユークリッド。僕の髪は白色だが、兄さんの髪は金色で目の色も違った。僕たちは本当の兄弟ではない。ここの近くに住むのは僕以外はみんな人間。
「そういうハイル兄さんこそ、こんなところで僕に何のようですか?」
「ちょっと渡したいものと伝えたいことがあってね...でもちょっと話さないかい?」
雲は穏やかに動き、太陽は照りつけている
アルデバランは目配せをし、ハイルはアルデバランの隣にゆっくりと座り、木に背中をつけた。
「.......どうだい、ここでの生活は」
「はい、慣れてきました。とてもいいところですねここは、」
アルデバランはそう言いながら姿勢を正し、眼下に広がる辺境の街を見下ろした。
「こうやって落ち着いて生活することが初めてできたので、とても楽しいです。」
「そうかい、それはよかった」
ハイルはやさしい目で僕を見た。
「父様がこの地を治るようになってから随分平和になったそうだよ。」
「そうなんですか?」
「あぁ、お祖父様が初めてこの地に足をつけた頃はそれはもう魔物が闊歩していてね、お父様の代になってあらかた片付いたらしい」
へぇ、そんなに日が浅いんだなとか思った。
「さて、渡したいものがあると言ったね」
「はい」
「これだよ」
そういってハイル兄さんは僕にとある一冊の本を差し出してきた
「創造神と九神...?」
本を開き最初のページを見る
創造神アマルテウス、この世界を創造し命を生み出した我々がなることはできない、基本的には干渉することができない正真正銘の神。
それに対して九神は我々人族や半獣族、エルフや天使、悪魔や魔人など生ける全ての種族が実力さえあればなれるというものだった。
その本には他にも歴代の九神、世界地図、一般的な種族や敵対の意思を持つものが多いクリーチャーなどのことも書いてあった。
「兄さん...これは...?」
「それはアルへのプレゼントさ僕はもうそれを読んだことがあるからね逆にお古なのが申し訳ないくらいだよ。いつかアルが旅に出る時に役立つさ。まあアルが家を出ないってことは僕は許さないけどね」
ハイルは怖い笑みをして立ち上がった。
「じゃあ、日が暮れる前には帰ってくるんだよ」
「わかりました」
ハイルは家の方向に向かってゆっくりと歩いて行った。僕は本をまじまじと見つめ、本を開きなおした。ページをめくり、読み進めていく。
魔法には19種類もの属性がある。大雑把に数えてもだ。
基本属性魔法の炎、水、風、土、感覚、防御。
そして準展開魔法の雷、光、闇、爆発、結界、重力、霊術、そして簡易治癒魔法。
最後にこれらの圧倒的に上位的な魔法、展開魔法の神秘、因果、時間、空間、秩序、混沌。
展開魔法は使えるものが非常に少ないらしい。
基本的には全員が魔法を使え、準展開魔法は50人に1人で1属性、展開魔法は1000人に1人属性持ちが生まれれば運がいいらしい。それほどにも貴重だと本に書いてある。
さらにパラパラと読み進めるそこで1人の人物に目が入った。
霊と神秘の神セレフィア、霊術と神術の精霊神だ。種族はルナ、月との親和性が高い亜エルフのようだ。
「精霊術...か...」
空を見上げると、木と雲によって太陽が隠れて暗くなる。心なしか風まで冷たくなったように感じた。
「アル〜!おはよ〜!」
そのあたたまる明るい声が僕の耳に届いた。
「アリス、おはよう、フリードとみんなも」
その少女、アリス・シュナイダーは僕の友達だ。僕がこっちにきた時いつものようにここにいたら、初めて話しかけてきてくれた人だ。
もう1人の少年フリードリヒ・シュタイン。茶色の髪の毛をしている。彼もアリスと一緒に話しかけてきてくれた人だ。王国騎士団に憧れていて、元騎士の父に剣術を教わっているらしい。
クレール、彼の両親にはいつも面倒を見てもらってお世話になっている。
レオン、彼の目はすごく鮮やかな赤色の目をしていてすごくかっこいいと思った。
クララ、なんというかふわふわが似合う。お花畑に住んでいそうだ。
「ソフィ、きてくれたんだ」
「...アリスについてきただけよ...」
ソフィはアリスの双子の姉だ。2人とも金髪で、アリスの目は情熱に満ち溢れた夕日のような赤色をしているが、ソフィの目は少し太陽が出てない日の空色のように澄んだ瞳をしている。
「おい、みんな早く遊びに行こうぜ」
クレールが急かした。..しょうがない
「今日はどこで遊ぶの!?」
アリスはとても元気そうだ。
「今日はな...グリーンリーフの森の探検に行くぜ!」
「よっしゃあ!行こう行こう!」
フリードもか。それにしてとグリーンリーフの森か。初心者冒険者が薬草採取や資源を採集するような安全な森だけど...大丈夫かな。今日は街が静かだ。木も風に揺られてないている。
―――
木々が生い茂っているこのグリーンリーフの森、多少の凹凸はあるが歩きやすい場所だ。
僕は左脇にハイル兄さんからもらった本を挟みながら歩いた。
彼らを見守るように少し離れた位置から見る。
ねむい...とてもねむい...あくびをする。
でも急だな眠気なんて、いつもは大丈夫なのに。
「おい、アルも見てみろよ」
「わぁ!かわいい〜」
僕が眠掛けしている間にクレールたちは何か見つけていたようだ。どれどれ
「うげっ!」
つい口から漏れ出てしまった。なんでかって?こいつら妖精に可愛いっていってるんだぞ!?
エルフにとって妖精は、とても重要な存在であり、妖精にとってもエルフは重要な存在である。
双方、お互いの力を借りあって生きているのだ。
森の中で、生き抜くためにはエルフは妖精に力を借りる。そして妖精は自分が仕えると決めたエルフに寄り添って生きていく。なんでも契約しない妖精はいつか死んでしまうらしい、らしい...
「もぉー!アルの妖精嫌いはわかってるけど、よくないと思うよ!」
「だって、こいつら露骨に僕だけ避けるんだよ」
「言い訳しない!」
「へへっ、かわいそうなやつ」
アリスに怒られてしまった。クレールやレオンやソフィも、フリードでさえも笑っている。はぁ、油断していたせいか気が緩んでしまった。妖精にも顔をしかめられている。こういうところなんだよ。
「僕、もう眠いし帰るよ、妖精にも会いたくないしな」
妖精の方を見て、しつこいように言う。
えー、と皆口々にするが、僕は気にしない。
「じゃあね、また明日」
「うん、バイバイ」「じゃあな」「またねー!」
それぞれ口にする。僕は今まで歩いてきた道を振り返り、歩き出した。
―――
しばらく歩いて、森の出口に差し掛かったあたりで、とある人とばったり会った。ロウ爺だ。
ロウ爺は、クレールの両親夫妻と一緒によく僕たち6人の面倒を見てくれる。
ロウ爺は自称魔法使いだと言うが...
誰も魔法を使ってるのを見たことがないそうだ。でも、こうやって僕たちの世話をしてくれるから悪い人ではないし、むしろいい人だ。
「ロウ爺さん、どうかしましたか?」
「おおアル、別にどうしたってことはないんじゃけどな。お前らの姿が見えなかったから」
今日は用事があるといっていたが済んだのだろうか。
「して、あいつらは?」
「アリスやフリードたちですか?」
「うむ」
「みんなはグリーンリーフの森に探検に行きましたよ」
そういった瞬間、とてつもない悪寒が全身を巡った。体の細胞一つ一つが悲鳴をあげているような。
その雰囲気を醸し出しているのは他でもないロウ爺だった。
僕は驚いた。普段はあんなにふざけて僕たちと遊んでいるロウ爺がこんな..恐ろしく。
「あっ、アルすまぬ」
元に戻ったようで安心した。しかし、空はまだ曇り空で春にしては冷たい春嵐が吹いている。するとロウ爺は焦ったようにいった。
「と、とりあえずあやつらの場所を教えてくれ」
「?、ここをまっすぐ行った先にいましたよ?」
「なんじゃと!?アル、ついてくるんじゃ」
え?と思った瞬間にはロウ爺は走り出していた。
その老体からは考えられないスピードで走っていったため僕はかなり置いてかれた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
僕が息切れしていてもロウ爺は息切れしている様子がない...ほんとになんなんだこの人。
僕が追いついた時、そこにいたのはアリスとレオンだけだった。まぁ、いつもと同じようにかくれんぼでもしていたんだろう。アリスは隠れるのが下手だからな。
「お前たち、、他のは?!」
「フリードやクララたちはここの森に隠れていますよ。」
レオンが丁寧に受け答えした。さすがだ。
アリスは誰にでもフワーッと話すからな
「そんな急いでどうしたの〜?ロウ爺、あっ!アルもついてきたの?!へへぇっ、やっぱり寂しくなっちゃった?」
「いや、そんなことはないけど...ロウ爺さんどうしたの?」
「実はここらに盗賊団がいると言う情報があったんじゃ、1、2年前にウォンタリオン公国であの大事件を起こした盗賊団じゃ。」
ウォンタリオン公国は大陸の南に位置する小国だ。南に広がる山岳地帯のシブル山脈と、オンドラ山脈の間らへんにある湖、ウォンタリオン湖の辺りに造られた公爵の国だ。ここからだと南西になる。
でも、ここからウォンタリオン公国となると片道に1.2ヶ月以上はかかると思う。
じゃあなんでここまできたんだ?
こんな辺境の地に訪れるのは決まって商人か冒険者だ。ここらへんで値が高そうなものがあるとは聞いたことがない。物を盗みにきたわけではないのろう。
ロウ爺やアリスはをしていた、いやアリスはすごく驚いている。まさかな。レオンは驚いてはいるが深く理解はできていないようだ。
「じゃから、とりあえずあやつらを探すぞ!お前らは3人であっちを探しに行け、わしはあっちを探す。」
「わかりました」
ロウ爺はそういって反対の方向を指差して、やがて走って探しに行った。
「僕たちも行こう」
僕たちは森の奥へと走って向かった。
―――
ここ、グリーンリーフの森はかなり広い。
森は広いが魔物は強くないので初心者がよく採集や討伐の依頼をしに来る。来るといっても立地が悪いのでかなり少ないが。
ここの森に出る魔物は最低ランクの魔物ばかりだが僕たちにとってはとても大きな脅威だ。油断してはいけない。
「ソフィ〜!フリード〜!クレール〜!クララ〜!でてきてよ〜!」
アリスが呼びかける。レオンもアリスと同じように大きな声を出して呼びかけている。でもちょっとまずいかもな、大きな声を出すと見つかりやすいかもしれないが、魔物にも見つかりやすくなる。それに、あいつらがここに僕たちがいるとわかって移動して隠れてしまうかもしれない。
「アリス、レオン、魔物が出るかもしれない。気をつけよう。」
「あっそうだね!」
アリスは気付いたのか声を出すのをやめた。
木の枝や葉をかき分けて森の中を進んでいく。歩き始めてから30分くらいだっただろうか。しかし、人の気配は一切感じられない。エルフは森との親和性が高いと聞いていたが、意外とそんなことないのかも。
右の方を見ると大岩が構えている。この森にはいろんなものがあるな。古小屋や小川やそれに通ずる滝まで、森といっても山みたいなものだと思った。
そして左の方を見ると、なんだか顔みたいな樹木目がある。少しびっくりした。
アリスが見たら泣いてしまいそうだから黙っておこうか。
いやでも...それも見てみたいかも...
その瞬間、この先になにかいることに気づいた。
魔力を持った四足歩行の、狼?
サイズ的には僕たちの胸より下くらいの生物だ。戦うのは無謀だ。やめておこう。
しかし、迷っている間にも時は進んでしまう。その間にアリスとレオンはもうその生物があるところに進んでしまっていた。まずい。
「アリス!レオン!止まれ!」
2人が困惑した顔をする。え?と言うような。レオンが前は振り返るとそこには狼、ウルフがいた。
「うわぁーー!!!」
レオンが地面へぽすんと座り込んでしまった。驚きで腰が抜けてしまったのかもしれない。アリスも気づいて悲鳴を上げる。ウルフはこちらに気付いたようだ。
僕も正直とても怖い、でも僕がここでおじけてしまったら2人を助けられず僕も死ぬかもしれない。
そんな思いで僕は足を進めた。自分にできる精一杯の速さで。
落ちている木の枝と小石をひろう。たぶん、すごく情けない叫び声を出しながら、小石を投げていた。
僕の中ではめっちゃくっちゃ勇敢な叫び声だったと思う。
小石に当たって怯んだ隙に足元の砂を蹴って、目眩しをする、気分程度だが。
「レオン!立ってアリスと2人で街に戻れ!ここは僕が足止めする」
レオンはなにも言わずに立ち上がった。よし、そのまま逃げてくれ、3体1だとしても傷を負わずに勝てる気はしていない。
「アル...」
「俺たちがそんなに情けなく見える?」
え?
予測外の言葉だった。あぁそうか、こいつはあいつらとは違うんだ。
「ここまできても怪我しないで帰れると思ってないよ。最後まで一緒に戦おうぜ!」
「そうだよ!私たちだって戦えるもん!」
お前ら...よし、僕たちならできる。
「2人ともごめん。あと、ありがとう。一緒にこいつを倒そう!」
僕たちは決意を固めてウルフに立ち向かった。