第1話:催眠アプリは最強のエロアイテム!?
「……なんだこれ?」
日曜日の朝、寝ぼけたままスマホをいじっていた相沢直也は、見慣れないアプリがインストールされているのに気づいた。
アプリアイコンには、やたらリアルな瞳が描かれており、名前は――《マインド・コントローラー》。
「へ? 催眠アプリ……? ま、まさかな……。そんな都合のいいものが……!」
いや、待て。最近のAI技術はすごいって聞くし、まさか本当に……?
直也の脳裏を、光速でよからぬ妄想が駆け抜ける。
(お、おっぱい揉ませろとか……命令できたりして!? そ、それとも膝枕……いや、耳かき!? うひょぉぉおお!!)
夢が広がるとは、まさにこのことだった。
早速直也は、ターゲットを決める。
「よし、今日は幼なじみのひまりに試してみるか……!」
その日の午後。
直也は、同じ町内に住む幼なじみ・中野ひまりを近所の公園に呼び出した。
「どしたの、直也くん? 日曜なのに、公園で待ち合わせなんてめずらしいね~」
小柄でおっとりした笑顔がまぶしい。天然で人懐っこい彼女は、昔から直也にだけ妙に懐いていた。
(今だ……ここで“おっぱいを強調してくるように”とか命令してみれば……!)
心の中で悪魔と天使が殴り合っていたが、悪魔が勝った。
「ひまり……えーっと、俺の話をよく聞いて……」
アプリを起動し、画面に浮かぶ「催眠開始」ボタンを押すと、スマホが微かに光を放った。
「眠くなる~眠くなる~、とか言った方がいいのか?」
「うーん……眠くなるっていうか、最近ほんとに……眠れないんだよね……」
「え?」
ひまりが突然、ぽつりとつぶやいた。
「なんかさ、最近夜中に目が覚めちゃって。変な夢見たりして……怖くて眠れないの」
(……え、まって、そんなん聞いてない!)
直也はうろたえたが、すぐに「催眠で不眠解消とかできるんじゃね?」と発想を切り替える。
「わ、わかった! じゃあ今からリラックスする催眠をかけてみよう!」
「うん。……直也くんなら、なんか落ち着くかも」
そう言われて、ちょっとだけ心が痛む。
(いやいや、これはあくまで“催眠実験”だから! い、いかがわしい目的じゃなくなったけど!)
アプリにある「安心・安眠モード」を選び、直也は言葉をかけた。
「……深呼吸して、気持ちがふわっと軽くなる……頭の中が、ふわふわして、眠くなる……」
ひまりのまぶたが徐々に重くなり――コテン、と肩に寄りかかってきた。
「……すー……すー……」
「寝たぁぁぁ!? マジで!? 本当に効いたの!? え、こわ……!」
興奮よりも驚きと混乱が先に来た。
これは、本物だ。催眠アプリ……マジで存在した。
だが、それより問題は――
「……うわ、ひまり……無防備すぎんだろ……寝顔、かわいっ……」
本来ならここで“大胆な展開”になるはずが、直也は目を逸らし、そっとブランケットをかけてやった。
「……はぁ。俺、なにやってんだ……」
数十分後。
ひまりはパチッと目を開け、びっくりしたように直也を見る。
「……えっ、すごい。ぐっすり寝た……! なにこれ、夢見なかった!」
「そ、そっか……よかったな」
「直也くんって、ほんとに不思議な人だよね。なんだか、落ち着くっていうか……。私、直也くんと一緒にいると安心するな~」
にこっと笑う彼女の顔に、直也はギクリとする。
(やばい……これ、完全に“いいことした流れ”じゃねーか……!)
「じゃ、またね~♪」
去っていくひまりの背中を見つめながら、直也は小さく拳を握った。
「……くそっ、次こそは……次こそはエロいことに使ってやるっ!!」
だが彼はまだ知らない。
これが“モテ伝説”の始まりに過ぎないことを――