9、脱出
No.7.77は、協力して欲しいと言って、まくし立てるように急いで言った。
「俺は、この研究所から出たい。変な痛めつけられる実験とか、よく分からんの食わせられる実験とかもうコリゴリなんだよ。お前は、何か分からんが殺し屋なんだろ?丁度心強い味方が欲しかった。」
「俺も、この訳分からん場所から出たいのは同意する。」
俺は、No.7.77「ラッキー」に動けない効果を解除してもらった。
しかし、相変わらず研究員達は金縛りにあったように動けないままでいた。
ラッキー曰く、やっぱり今いるここは研究室だという。
金属製の階段を登った先にはドアがあった。
「やった。出られるじゃんか。これで訳分からん研究所から出られる。」
「待て、見ろ」
彼の指さしたのは、パスワードを入力してくださいと言う文字だった。
0ー9のボタンが並んでいる。
「これってなん通りあるんだ?」
「順当に行けば4桁のみなら0000から9999まである。つまり1万分の1の確率。よっしゃ押すぜ!」
No.7.77「ラッキー」は腕まくりをした。
慎重にボタンを吟味しているようだが、それで何か変わるのだろうか?
「無闇矢鱈とパスワード打ったとしても1万分の1の確率だ。相当運が無いと……」
「知らん。俺は運が良い。絶対大丈夫だ!君は念の為、室内を見渡しててくれ!」
俺は言われた通り室内を見渡した。
セメントでできた床と壁。
所々鉄の床がある。
俺が瞬間移動した円柱の水槽がど真ん中にあった。
中にはスイカ程の大きさの黒い球体があった。
俺が瞬間移動した時は無かったよな?
少し見渡して、研究員を見張った。
本当に大丈夫なのか?コイツ
このNo.7.77「ラッキー」
ケーキをおぼんで受け止めたのも、所長の腰痛を治したのも全部、奇跡を起こしたんだ。
それに本人も大丈夫だと言っている。
そう自分に言い聞かせた。
実際そうだと思っている部分もあるし。
今もきっと、運良く、奇跡的にパスワードが合ってるハズ……
だが、振り返った「ラッキー」は額に汗をかいて、焦っている様子だった。
「ごめん!無理だわ!お前変わってくれ」
「は?無理無理。運良くないのかよ」
遠くから警報の音がした。
ウイーンウイーン
押したパスワードを表示する画面が赤く点滅した。
きっと、何回もパスワードを試したから、システムに怪しまれたのだろう。
「ラッキー。お前、何回パスワード試したんだ?」
「10回だ」
そりゃ警告もなるわ。
「お前の思考を読ませて貰ったが、お前は殺し屋と言う経歴があるじゃないか。銃で撃ち殺してくれ」
「無音銃は今電池切れで、使えないんだ。」
「都合の悪いヤツだな〜」
「お前が言うな!」
そんな事を言い合っても仕方ない。
考えろ。きっと最適解か最善の手はある筈。
しかし…考えても、どうすれば良いのか検討もつかなかった。
そもそも、無計画に脱出を始めるのはオカシイ話だ。
やってみるしかない。
俺は思い切ってドアの前に立つ。
11回目はどうか、当たってくれ。
ラッキーに打った番号を聞く。
これで10パターンは減った。
運が良ければ開くだろう。
「あ。」
俺が4桁を押すと、自動ドア特有の音を出しながらドアは開いた。
「よし行くぞ!早く。パスワード当てたんだから上手く何とかいい感じにしろ!」
そう言われても仕方ない。
プランなんて無い。
とりあえず、物理的に強いラッキーが先頭になって、俺は周囲を確認しながら進むと言う事にした。
「計画完了!行くぜ」
「絶対無理だろ…」
でも今はとにかく逃げるしかない。
もう少ししたら、異常を確認しに、この研究室に誰か来るはずだ。
「そうか、ラッキー君。逃げるのか?そして研究所から出るという計画なんだな?」
「そうだ!俺はここから脱出……」
ラッキーのつい後ろには、所長が立っていた。
そのまた後ろには研究員がいる。
1人はメモを取っていた。
「……えっと」
No.7.77は口を噤む。
かと思えばこういった。
「逃げるぞ!お前!」
勢いよくラッキーは1歩を踏み出す。
「待て、離さないぞ」
所長がラッキーの黄色いマントを握って居た。
しかし、それも振り切って逃げる。
所長を先頭にして研究員達は追いかけてくる。
ドアを開けると通路があって、右側と左側に別れていた。
「よし右側だ!右側は良い」
爺ちゃんに迷った時は右側を選べと言われたとか訳の分からない事を呟いている。
後ろから声が聞こえた。
「アイタタタタ…」
所長が転んだのを始めとして、研究員達も躓いて転んだ。
「なんだ、腰痛がぶり返した!」
運がいいのか、右側左側、或いは真っ直ぐを繰り返して行くうちに、大きい広間へと出た。
ーーー
宇宙警察がやってきた。
「エフさんですね。誰が撃ったのでしょうかね」
警察はまじまじと遺体を見る。
「私、ユウって言うんですけど私じゃないです」
「と言うと、?」
「無音銃のエネルギーが切れてて、物理的に撃てるはずないんです。」
シイも続ける。
「私も、朝はグッスリ寝すぎてて、あの時は朝日を浴びようとバルコニーに向かったの。あの時は寝てたから殺せる筈が無い」
警察は笑った。
「2人ともアリバイの典型例だ。ひとまず署えまで来てもらうよ。」
その日は、ユウとシイは半日、尋問を受けることになった。