55、ーーーNo.nullーーー
「やばっ逃げろ」
「お兄ちゃん、速い!」
コウとニコリは銃を持った男たちから逃げ、研究所の中を走り回っていた。
2人はいつの間にか鉄の床を走っていた。
靴の音が通路に響く。
疲れ果てて、コウが腰を下ろした所は一室にある椅子だった。
図書館、にしては狭く埃被っている。
薄暗い電球が部屋の中を照らしていた。
「やけに静かだな。」
「お兄ちゃん、これなに…」
本棚には訳の分からない言語の本と知っている言語の本がほぼランダムに置かれていた。
ニコリが指さしたのは「非公開研究記録第N群”。テレパシー…?」
埃被った革表紙に手を伸ばす。
コウは、とりあえずページを捲ってみるとした。
「1950年当時、No.nullは理論上存在する事は予測されていた。……これnullってあのヌルか?」
「そうなんだ…」
走り疲れたのか、ニコリは床に寝転んでいた。
コウが床に置いた紙を眺めている。
「『1953年、カナダ・アルバータ州にある小規模な施設で、初の移植実験が行われた。成功率は0.02%。最初の“能力者”は記録に残っていない』……これって、俺たちの最初の第の人達じゃない?」
ページ一面には、初期のナンバー1から10までの脳移植成功者の顔写真が並んでいた。
コウが聞いていたのは、1953年辺りに人間の脳を改造して超能力者にすると言う話だった。初めはカナダ、アメリカだけが被験者だった。だが、途中から全ての国から被験者を募った。そして日本人のコウも、ニコリも被験者にされたと言うわけだ。
それまでは知っていた。
本棚の右隣にある方が新しいらしく、余り埃を被っていない。
コウは、右隣の「非公開研究記録第N群Ⅲ」を手に取った。
そこにはコウ、ニコリの名前があった。
そしてーーーNo.nullの名前も乗っていた。
しかし、No.nullの説明はなかった。
コウはnullの正体が気になり本棚を見て回った。
ふと、後ろからニコリが声をかけた。
「これ、No.nullって書いてあるけど」
「ありがとう」
ひったくるように手に取り、nullの説明を読んだ。
破れていて見えない箇所や、黒いインクが零れていて見えない箇所もあったが、読める部分だけを探す。
「研究の結果、大多数の人間はこのテレパシー器官をうまく受け入れることができなかった。しかし、ごく少数ながら移植に成功した者も存在した。彼らは、通常ではあり得ないような「超能力」を発現させることがあった。」
「No.nullは、そのテレパシー器官を何の拒絶反応無く移植する事に成功した。彼のナンバーは何者にも当てはまらず、ゼロでも1でもないnullと付けられた。」
「彼がテレパシー器官を上手く受け入れたため、能力は未知数である。そのため、移植した12歳時点から隔離して管理している」
「お兄ちゃん!ヤバいかも!!」
コウの近くからは数人の足跡が聞こえる。
明らかに銃撃しに来ていると言うのが分かる。
ニコリが円を描き、入る。
コウも続けて入った。




