48、川島
太陽は真っ直ぐにキャスターを照らしている。
カメラの向かう先は、豪邸の屋上だった。
赤茶色の屋根の上に男は10歳前後の子供を人質にしていた。大きな豪邸で、門から屋根までは少なく見積っても10メートル。
赤髪の男も汗を拭った。
マイクを持ち、地面にあるスピーカーから声を出す。
「はいはーい!皆さんこんちゃす!!!!!!!」
大音量で地面まで音が響く。
カメラを持った黒い人々の塊が少しだけ動揺した。
後ろには警備隊がゾロゾロと現れ、いつでも銃撃できるようにガビの方向へ銃撃が向けられていた。
警察は、これ以上騒ぎにならないように野次馬達を追い出していて騒がしい。
「カメラさん回してますか?警察さーん?」
彼は、右手にマイク。左腕は子供を逃げないように掴んでいる。
「え、どういう事ですか?これは…」
川島は豪邸の屋根を双眼鏡で覗いていた。
編集者は川島と同時に大豪邸付近で、報道陣や野次馬の後ろに立っていて、メモをしていた。
「彼は、ガビ・ゾディアックで間違いないか?」
「もちろん。彼はガビだ。死んだ筈だが、あれはガビで間違いない!」
川島は、自信ありげにフッと笑った。
最近2人には妙な友情のような連帯感がある。
「でさー、こういう人質やってみたかったから殺すつもりはない。言うこと聞いてくれるならね?」
川島は完全にガビだと分かった。
口調をランダムで選ぶようなキャラのブレ、鼻につく話し方、信念の無さ。スピーカーから出るこの声はガビそのものだった。
彼の言い分としては、1億円を用意してくれればこの息子を返すという事だった。
本来1億円という大金であれば時間が経つが、1時間もせずに1億円が用意され、ヘリコプターが屋根の上へ向かった。キャスターが「流石!大富豪!!」と大声で騒いでいる。
ヘリのハシゴからボディーガードが降りて、1億円の入ったジュラルミンケースを屋根の上に置いたのが見えた。
「サンキュー!」とスピーカーからガビの声が聞こえた。
ガビが子供を抱え上げ、そのボディーガードに預け後だった。彼はマイクを持って言う。
「重い!どっちも重いじゃん!飽きた!もうやめだやめだー!」
その言い方はまるで幼児のような単純さもあったが、同時に何かしらの高揚感もあるように聞こえた。
シャッター音が鳴り響いてうるさかった。
野次馬の声も、蝉の声もうるさかった。
だが、マイクからボオというものが燃える音は鮮明に聞こえた。
まさかと思ったが、案の定。
ボディーガードが預けとった大富豪の息子は、真っ黒になっていた。
次に、彼はジュラルミンケースを開いた。
「いえーい!いえーい!」
腕いっぱいに札束を抱えたと思えば、それは中に舞い、火花を散らしながら黒く焦げた。
文字通り、ほんの数分も経たないうちに1億円が使えなくなった。
空になったジュラルミンケース屋根から蹴り落とした。野次馬の1部は帰り、1部はスマートフォンで動画を撮っていた。
屋根にガビとボディーガードのみになった。
文字通り、数秒もかからないうちにボディーガードは屋根の上に倒れ込んだ。




