5、バーテン
理解するのに時間がかかった。
「お前は、あの時のバーテンだー!?」
そう言う俺に、彼は極めて冷静に、お会計お願いします。と返した。
「ところでお前、なぜ宙に浮いているんだ?」
「念能力を使っているのです」
「念能力?あの、漫画とかである超能力?スーパーパワー?」
「そう、それです。」
「現実にあるわけない。我々宇宙人は、最先端の技術でやっと1時間人間が受けるようになったと言うのに。」
「知りません。」
お会計を、といいバーテンはポケットからナイフを取り出した。
「おいちょっと待て、俺らがいるのを忘れるな!」
階段の下から、男達が叫ぶ。
「今、このバーテンと話してる所だ!ちょっと待て!」
その時、バーテンの声色が変わった。
「あれ、ボク何をしてるんでしょうか?なぜナイフを?」
まるで今、誰かに取り憑かれたように、様子が変わった。
いや、憑き物が取れたと言うのに近い。
「教えてやる。そのバーテンはNo.ゼロ。名前は「ハラグチ」。そいつの取説は彼の腰に押し込んでる。今日は引っ込むよ。お前のレベルが弱い事が分かった。戦うのも時間の無駄だ。」
「なぜ教える?お前らにメリットは何も無いはずだ」
「上がそう言ったんだからだよ。俺も何で取説までわざわざ入れてんのかわかんねーよ」
そう言って男達は帰って行った。
その後、そのバーテンは自分がバーテンだった事すら知らなかった。どうやら、彼ら宇宙人を殺す集団の洗脳だろう。
「なに」
ドアを開けるとユウはパソコンをいじっていた。
「入れていいか?あのバーテン。いやもう入れてるんだけど」
「は?入れていい訳ないでしょ?バカなの?お前が強すぎると認めた奴でしょ?」
彼女が眉間に皺を寄せて振り返る頃には、ドアは閉まっていた。
「実はーーー」と、ピイ、小鳥について暴露し、強いからと言うよりピイを守る為に逃げたと言おうと思ったがやめた。
あと、彼女に黙ってる話があった。
「あのさ、あの。。。」
「何?言い訳?」
「やっぱり何でもない。気にしないでくれ」
そういうと、沈黙が流れた。
その沈黙を破るようにして、バーテンいや、No.ゼロ「ハラグチ」が口を開く。
「ボク〜、全て思い出しましたよ。会計の事とか謎の組織とかは目を瞑りましょう。でも、エイさん貴方は私を殺し掛けた。だから貴方を殺しますよ」
No.0「ハラグチ」は、ナイフで俺の正面から斬りつけた。
風を切る音が鳴った。
最先端の技術を使った、それも、丈夫なスーツが破れた。
ナイフが切った所が綺麗に切れ目がついて、下に着たシャツが剥き出しになっていた。
彼のナイフの威力はおかしいと分かった。
このスーツの耐久性は、歩いていて電柱が落ちてきてやっと傷が付くレベルなのに。
幸い皮膚に怪我は無かったが、もし普通のシャツだったりしたら致命傷を負っていたのは言うまでもない。
「なぜ、そんなに威力の高い攻撃をナイフ一つで?一振りで出せるのだ?」
「ボク、強いんですよ。念能力って浮くだけじゃないんです」
「まさか、お前」
次の瞬間、そのセリフに返答するように首にナイフが刺さった。
「中々硬いですね。でも、そろそろ壊れるんじゃないですか?」
No.0は、俺の首からナイフを抜いた。
スーツからは、重低音の電源が切れる音がして「スーツが破損しました」と聞こえた。
そして、スーツが壊れた分、俺の身体が軽くなった。
「クッソ」
「丸腰になりましたが、因果応報でしょう。私は一生頭が無く生きていく事になるんですからね。」
机に置いてあった無音銃で彼の手首を狙う。
彼は宙に飛ぶようにジャンプをし天井に張り付いた。
「何で、そんなことができる」
「撃ってみろ」
撃つ度に素早く右往左往に逃げられる。
それも、天井、壁、床、と何処にでも移動して攻撃を避ける。
一発も当たらない、、、。
数発撃つと無音銃が弾切れを起こした。
「そうだった。俺の銃は残量の少なかったんだ」
「一発も当たっていない。殺し屋の端くれにもならないな?」
攻撃はしないものの、定期的に相手を煽るような事を言う。
端にいたユウは机に銃を置き、手にとってくれと指示をした。
ありがとう。と俺が机に手を伸ばすその矢先、机が曲がった。
正確には、大きな物が落ちてきたようにグシャグシャになっていた。
案の定、受け取るハズの銃は壊れていた。
「お前、、、大事な銃を破壊しやがって!」
「へへっ!ザマァ見ろだ!!!!」
「何が起きたんだ。意味が分からない」
「俺が豪速球でナイフを投げただけだよ。知った所でと言う話だが」
床に立ちながらそう言った。
彼はさらに3本、腰からナイフを取り出した。
「1っ本目はそうだなぁ、、、」
彼が投げると、ユウの使っていたパソコンが粉々になった。室内に部品が飛び散る。
「2本目は、そうだ!」
まずナイフの矛先を俺に向けた。
その次にユウへ矛先を向ける。
どっちにしようか迷った挙句ユウの方向へナイフを投げる。
ナイフが投げられる。
「危ない!」
幸い、彼女の耳元を掠めたが、ナイフは壁に刺さった。
「くっそ〜!じゃあ後、エイ君だけね。これで終わり!」
「分かった!ユウ!緊急ボタン、黄色!」
次の瞬間、部屋の照明が消えた。
電気が走る音がして、照明が戻った。
バーテンは床に張り付けてあるようになってビクとも動かなくなっていた。
「痛い!痛い!辞めてくれ!」
「お前の取説、少し読ませてもらった、最初の5ページには、念能力で物の動きを強化すると書いてあった。つまり、お前は浮いていたと言うよりは、「飛んでいた」状態に近い。」
「例えばロケットを打ち上げる際、多くの燃料で発射しなければ飛ぶ事はできない。だが、お前の能力を使えば、少ない燃料でも、そのエネルギー、効果を増加させ、十分に空に発射できるのだ。お前はその効果を浮遊する(見せかける)のに利用した。足を微細に動かすとそこに風のエネルギーが発生する。そのエネルギーを増加させれば、足を何回もバタバタしたのと同じエネルギーが発生する。さらに増加させれば、ヘリコプターのように巨大な風のエネルギーを発生させる事ができる。なぜか風は発生しなかったが、お前は局所的にそれを使い分けられるのだろう。そう、お前長所はエネルギーを増幅させることだが、逆に言えば少しも元となるエネルギーが無ければ意味が無いという事だったんだ。」
「だから、動けないように黄色の「静止」システムを使った」
「じゃあ最初からそうすれば」
「いや、これは割と電力を使う。あと、照明が消えてタイムラグが起きると、下手すればそこを読まれるかもしれない。特に宇宙人の間では、銃には銃用のエネルギー吸収スーツがあるし、無闇に使う訳にはいかないんだ。」
その後、彼を「静止」システムから解放した。
ーーー
弱ったバーテンは言う。
「もう何も悪い事はしない。だから仲間に入れてくれ。」
「いやだ。」
俺はハッキリと突き放した。
その瞬間、頬に鈍い痛みが走った。
「エイ、仲間に入れてやりな。それに、人体回復技術で十分に頭部を再生成できるわ」
ユウは笑顔をバーテンに向けた。
「ありがとうエイ、ユウ。」
俺はその後握手したが、その笑顔には、何処か意味深な意図がある気がした。