34、能力者達
時刻は午後8時だった。
ファミレスを後に、週刊グー編集者は暗くなった夜空を揺れるように直進していた。ファミレスから事務所まで徒歩で帰れる距離だ。
「なあ、超能力者を調べてるのか?」
編集者の後ろに2メートル近い男が、黒くコートを靡かせていた。右手には何か、金属製の物を引きずっている。
「誰だ」
編集者は、冗談を流すように抑揚の無い口調で返した。まるでネタにならない物は何の価値もない、と言うような口ぶりだった。
「俺は超能力者だ。見せてやろう、本当の超能力をさ」それをきっかけにするように、男は彼の後頭部にそれをぶつける。
金属製の棒だった。バットでは無い。
強い衝撃が頭部に当たり、何の抵抗もなく地面に倒れ込む。頭から流れた血は、アスファルトを赤黒く染めた。
男はその棒を持ち上げると一瞬でそれは小さくなる。そして、細長く短い金属の棒になった。正確には、釘だった。
「俺はナンバーシリーズを調べるヤツを殺す。次は川島……後はなんだ?あのジジイ」
男はポケットから、小さい金属の塊を取り出した。
種をまくような感覚で下にそれを落とすと、ガシャンと音を立てて大きな金属の塊へと変化した。
男はそれを立て、またがる。
「俺のバッドは釘に、自転車はポケットの中に。俺はなんだってできるんだよ!」
そして、自転車を漕ぎ始める。
ーーー
「うーーん!もうちょっとだ。あと少しでとどくんだ。」
「どこにですか?」
研究室で、氷山が宝島の顔を覗きこむ。
「なぜ、その原理だと思う?氷山」
「へ?」
「分かってきたんだ。だが、それだけじゃ他の説明がつかない。」
「ごめんなさい、ぜんっぜん分からないです!」
氷山は本当に何の話か分からないと伝えた。
宝島は分かった説明しよう。と、立ち上がった。
「俺の考えた原理はこうだ。あの燃えた遺体の原理は解明された。お前も聞いただろうが、酸素濃度が一定よりも高いと、少しの炎や静電気だけでもよく燃えるんだ。」
「もし仮に、彼、ガビ・ゾディアックの能力が周囲の酸素濃度を高めるという能力であり、周囲に静電気を発生させる能力者がいれば、高酸素濃度と静電気で燃える条件を作り上げ、燃やす事が出来る」
「はい。それは聞きました。てっきり高酸素濃度では物がよく燃えるくらいにしか思ってなかったですけど、静電気でも燃えるなんて…凄いですよね」
氷山は1人で感心して呟いている。
「お前の感想はどうだっていい。それより本題だ。酸素濃度を高める能力であればそれは可能だ。だが、それ以外の即死効果や凍結させる能力は付かないハズ」
「それは、アレじゃないですか?」
「アレ、とは?」
「超能力者がいっぱい来て、氷の超能力とか風の超能力とかで殺すんじゃないですか?」
「分かった。お前の言う通り、超能力者が居るとするのは認めよう。だが、それは非現実的だ。あそこに何人も超能力者が居るとは思えない。偶然警察に会ったのに、そこに都合よく仲間が駆けつけると言うのか?」
「それは…超能力は1人で何個も掛け持ち出来るって事だと思いますよ。」
それは筋違いだ!と言うかのように、宝島は机から雑誌の1ページを開いて見せた。
「能力者は1人1つしか能力を所持できない。と書いてある」
その1ページには大きく「ナンバーシリーズとは」と書いてあった。超能力者を生み出す研究所では、能力者は能力を掛け持ちできないという研究結果が出ていると言うのだ。
「あ!その雑誌どこから…私のじゃない!?宝島さんもついに…オカルト好きに!?」
氷山は茶化すように言った。
「それは違う。オカルト……つまり嘘だ。それで言うと、嘘を「嫌い」と言うのはまだ分かるが「好き」と言うのは荒唐無稽だ。」
「嘘って……」
「もういい。コレは噂どころかウソでもない。列記とした事実。この研究所があるのは調査済みなんだ。だから、ガビ・ゾディアックもそのルールに則れば能力の掛け持ちはできない」
「じゃあ……何で、ガビ・ゾディアックは酸素濃度を高めるという能力ってだけなのに、人を即死させたり凍らせたり出来るんですかね?」
「そう。俺はそれについて考えているんだ。ガビ・ゾディアックの能力を突き止めなければ私は気が済まない。それに、俺はガビ・ゾディアックの能力を解明して逮捕に手伝う役を任されたんだ」
「酸素濃度を高めるにはどんな方法があるんですか?」
「さっぱり分からん。だが、実際に化学的な反応はあるんだから絶対に原理は存在する。」
そうとだけ言い、宝島はまた頭を悩ませた。
と思うと宝島寿限無は立ち上がってドアを開ける。
「どうしたんですか!?」
「ちょっと行ってくる」
ーーー
宮崎もまだ解明途中だった。
宝島寿限無は宮崎に会釈するように部屋に入る。
「凄く臭いな。これが腐敗臭か?宮崎君、状況は?」
「気の所為かと思ったけど、やっぱりですか。変死事件の全てが腐敗臭が強い。この炎症、おそらくガビ・ゾディアックが犯人でしょうね。」
「肌が炎症起こしていて全身が赤くなっている。炎症部分のDNAは全て壊れてたか?」
「え、何で分かったんですか?」
「なるほど、そういう事か。」
「な、何がなるほどなんですか?」
「この全員は即死した。そうだろ?」
「話では…そうですね」
「現実的では無い。だから分からなかったんだ」
「何言ってるんですか?」
「この全身の炎症、即死……」
後ろには背の高い、黒いコートの男が立っていた。
「博士、後ろ!」
宮崎が言った直後だった。宝島の脇腹に鉄の棒が当たり、宝島が壁に飛ばされる。
「な……何を」
「殺さない程度に痛めつけてやるよ…」
男は数回宝島を棒で殴った。
「おい、宮崎って言うんか?お前。通報したりガビ・ゾディアックについて詮索したら次殺すよ?マジで」
「は、はい」
男は宝島を引きずって階段を上り、警察署から出た。
そして、男は黒い軽自動車の前で足を止めた。彼の車だろう。
「な、何でこんな…警察もいる…のに」
「うるせぇ!クソじい!!この世界は俺達の物なんだ!!いいか?てめえら無能力者如きに俺らは止められねぇんだよ」ロープでぐるぐる巻きにして後方の座席に押し込んだ。
車を潜り抜けるようにしてハンドルを切る。
時速は200キロを超えていた。




