30、No,7.77記憶の断片
◾︎山田壱人は目覚まし時計を止めると、コーヒーを飲んだ。
しっかりと目覚めてから、身支度を整えて会社へ向かう。
その日は運が悪かった。
車に乗っていると、聞いた事のあるような、しかし生活音では無い轟音が聞こえた。
彼が乗っていたその車は丁度、飛行機が落ちた場所だった。
彼は身体こそ怪我していたものの、四肢は損傷を受けていなかった。
意識が無くなり、脳死かどうかという話にもなった。
ただ、一命は取り留めたというのが、唯一の救いであった。
彼の母がその事を聞きつけ、病院に寝ている山田壱人の前で泣いた。
横に居た山田二郎は研究者だった。
彼は山田壱人の父方の祖父にあたる。
彼に泣きつく母に対して、言った。
「良いでしょう。彼を無傷で生き返らせましょう。ただし、彼を実験体とするというのが条件です」
母は迷った挙句、分かりましたと承諾した。
◾︎研究機関では、彼がベッドに寝かせられていた。
だが、もちろん意識は無い。
山田二郎は彼の腕に、黒い液体を注射した。
その瞬間、山田壱人は意識を取り戻した。
「俺は…死んだのか?」
「孫よ。私が分かるか?」
「そうか、爺ちゃん。俺は死んだんだな?」
「勝手に殺すな!まだ生きとるわい。全然健在だわ。死んだのではなく、逆にお前は生き返ったんだ(正確には意識を失っている状態から回復した)」
「どうやって俺を生き返らせたんだ?」
「ああ、私の研究している最先端の技術を先取りして、孫。君の意識を取り戻させた」
「最先端って……それは、つまり俺をモルモットにしたという事か?」
「そうだ!」
山田博士は自信たっぷりに答えた。
「そんな自信たっぷりに言われるとは思わなかった。まあいいや。爺ちゃん俺を固定しているこの紐?を外してくれ」
「ダメだ」
「なんでだよ」
「お前は、今日からモルモットになって貰う」
「もう既にモルモットやないかい!っって、俺ツッコミ担当なの?爺さんは独り寂しくボケるのが相場だろ…」
◾︎おーい
起きたかな?
意識ある?
おーーーい
おーーーーーーーーい
ねえ
おーい
目を覚ますと、俺の目前には爺ちゃんの顔があった。
俺は鉄で床に拘束されていた。
ボードを持った女が俺をジロジロ見ながら何か書いている。
「今日も検査しましょうねー」と、白衣の男が機械的に言った。
俺はある一室に連れられ、椅子に座らされたと思えば、そのまま拘束された。
目の前には鏡があるが、おそらくマジックミラーだと思われる。
しかし、「今日も」検査しましょうね〜。とはなんだ?
まるで昨日も検査を受けたみたいじゃないか?
だって昨日は……あれ?
思い出せない。
でも思い出したのは丁度1週間前の出来事だった。
俺は椅子に拘束されたまま、電流を流され、その後水と共に黒い飴玉のような物を飲まされるのだ。
それを飲むと吐き気がして、頭痛がした。
◾︎「No.7.77。君には今日からそう番号付ける。本名は忘れてくれ。そして、ここでの出来事も殆ど忘れてもらう。」
知らない男が俺に言った。
ここはどこだろう?
真っ黒な部屋の中、俺とこの男がスポットライトに当たっていて、それ以外は存在しないような感じだ。
主観と同時に俯瞰しているような感覚もある。
「君の能力は……」
◾︎宇宙人の脳内に共通する物があった。
彼らはテレパシーを使えるが、特にテレパシーを使う頻度が高い個体程、脳内にある黒色の分野が大きく発達していた。
ある日俺は、その脳の一部分を手に取った。
火で炙ると萎み、水に入れると膨らんだ。
俺は、それを水に入れて見ることにした。
1週間した頃、それは2倍に膨れ上がった。
あるいは成長と言うのだろうか?
水分は随分減っていた。
毎日水を注いでいるのに、1日1リットルも吸うようになった。
初めは少しの水で良かったのに、今では水槽か浴槽でないと育てられなくなった。
それは次第に、ボール型から卵型になって言った。
1ヶ月後、ついに大きくなり始めたので、研究所の水槽に預ける事にした。
それから3日後だった。
それは「孵化」した。
俺が研究室に入っておどろいたのは、卵にヒビが入っていたという事だ。
卵が割れる瞬間を見ることができた。
それが研究所内で話題になり、研究所にいる半数以上が、その部屋に集まった。
浴槽の中で、その黒い卵型の何かにヒビが入っているという景色は異様な雰囲気を醸し出していた。
そして、その卵の殻はボロボロと崩れ始めた。
中から出てきたのは、異様に大きな目をした胎児のようなモノだった。
それは、目を四方八方に動かし、その後ある一点を見つめた。
「うわぁぁあああああああ!」
1人の研究員が雄叫びをあげる。
彼は宙に浮いた。
そして、唖然とした人々の目の前で、脳に直接話しかけた。
「あーあ。もう少し塩が足りないし、もう少し砂糖も足りない。次のNo.はランダムに能力をあげるよ。今回は、孵化して貰ったのに残念だった…」
そう言い終わると、その研究員は意識を失ったまま、地面に落ち、死ぬほどの怪我をしていないにも関わらずそのまま死を迎えた。




