29、悪魔
ドス、ドス…
鉄で出来た檻から出てきたのは角の生えた人間だった。ただ、それはただの人間では無い。
肌色は紫色、鬼のように頭部に角が生えていて、そして背にはカラスの翼を付けたような、黒い翼が2つ。
鉄の床に立つ彼は呼吸を荒くしていた。
「暑い。空調を管理してくれ」
ドスの効いた低い声が床に響いた。
天井から照明がつき、暗くて狭い部屋がガラスから見えるようになった。服は既に床に脱いでいた。上半身が露になり、紫の筋肉質な肉体が鈍く光っている。
シドはただ、腕を組みガラス越しに密室の彼に話しかける。
マイクを持ち、言う。
「冷房か…分かったよ。ただ、お前には役目がある」
「なんだ?」
「脱出しようとしている超能力者達を、つまりナンバーシリーズを殺してくれ」
「ふうん。それはこの部屋から出させてくれるということか?」
彼は、両翼をパタつかせながら鼻をかいた。
早くこの狭苦しい部屋から出させてくれと言わんばかりに、鍵のついた鉄のドアを殴った。それは頑丈で、壊れはしなかったものの、少しだけ鉄のドアに凹みが出来た。
シドは息を吸う。マイクを持つては微かに震えていた。
ヘタをすればこの人に殺されるかもしれない。部屋を覗くガラスは、予算を最低まで削減した普通のガラス。いつもは彼を、鉄の檻の中に入れているから使わないと判断していたからだ。
彼が怒ればこのガラスなんて簡単に割れてしまうのは火を見るより明らかだった。
「そうだ。」
「了解。帰ってきたら冷房付けとけよ」
幸いな事に彼は怒らなかった。どうやらここが自分の家と認識しているらしい。それならいいが、念の為ガラスを新調しないといけない、とシドは思った。
「頼むよ。No.101[悪魔]」
ーーー
エレベーターが音を鳴らし、地下に着いた事を知らせる。ドアを出ると、そこは今まで通り、迷路のような入り組んだ直線の道だった。ただし、違う部分もあった。今までの通路は1部以外はプラスチックだったが、この通路の壁は白く塗ってあるものの、壁は冷たく、歩く度に鉄の上を歩く軋む音が反響している。
俺たちはただ黙って進むのみだった。
コウが先頭を歩く。彼の能力によって、何処を歩けば何処に着くのかが分かるのだ。数回角を曲がったあと、誰かの足音が聞こえた。研究員だろうか?
声が聞こえた。
嗄れた男の低い声が道に響いた。
「おーい。No.20、No.15、No.7、77出てこい。お前らを……」
何度も曲がったと言うのにその男の足音はどんどん近づいてくる。まるで俺たちの場所を正確に知っているかのようだった。
「殺す!!!!」
「うわっ!」
気づけば、目の前には筋肉質な大柄な男が、そして全身の肌色が紫の男が目前にいた。まるで悪魔だ。
彼は軽々とニコリの片腕を掴み持ち上げ、お前らを殺すと大きく宣言した。
「お兄ちゃん!」
ニコリは掴まれてない方の腕で円を描く。
コウに目配せをするとコウは了解と言い、床に向かって風を起こす。その床には、ワープできる亜空間が存在していた。そうやってその風を男の方までワープさせる。
なるほど、そういう方法もあるのか。
「お、お前人間じゃないのか?宇宙人とはな。変な兵器とか持ってそうだし、弱そうだし先に殺しておくか?」
男は円から出る風、そしてニコリを払い除け、俺へ向かってくる。俺は反応するまもなく殴られてしまう。顔面から血が出て、止まらない。ぬるぬるとした床と漂う血の臭い。
壁に打ち付けられ、全身に痛みが走る。おら、おら、おらと2、3回殴られたあと、人差し指を出す。男はその指を1度俺から話した。どうやら腕を振り上げて俺を指で潰す気だろう。
「おら!」
その時だった。
「ラッキーさん!!!!!!」
そこには指を突き刺されたラッキーがいた。
俺を庇ったんだ。指はラッキーの腹部を突き、人間とは思えないほど勢いで身体にめり込んだ。まるで刃物でも刺したかのようにドバドバと腹部から血が溢れ出る。白い床が赤く染る。
「エイ……いや、エフか?」
「喋るな!今助けるから。」
俺は立ち上がり、ラッキーの傷口をみた。
ラッキーの息が弱くなってくる。俺は必死でラッキーの傷口に手を当てる。
「なあラッキー?なんで俺を助けたんだ」
手を当てても尚、血が溢れ出す。
出血が止まらない。
「……お前は俺の…家族…」
「………!!!」
彼が目を瞑る。
ただ、辛うじて息はあった。
「俺は……信じた。………お、前らが生き残る……確率………を」
「ラッキー?ラッキー!?」
見ると俺以外の全員は床に叩きつけられ、戦えそうに無かった。ただ、俺だけが無傷だった。
俺は立ち上がり、男へ向かう。
「なんで……こんな!!!!!!」
その不条理に、俺はただ、腹が立った。
丸腰で、武器もないのに、ただ俺は突っ走った。




