5 魔石の罠 - 血染めの計画
夜のアルダナ市は、霧と影が一体となり、道行く者の足音すら闇に吸い込まれるかのようだった。
街の高台にそびえるギルド塔の光は、いつもより暗く鈍い輝きを放ち、その光がまるで血に濡れたように赤黒く染まって見えた。
冷たい風が窓を叩く音が、塔の中に不気味な囁き声のように響き渡る。
俺はギルド長ガルドルと対峙する準備を進めながら、その裏に潜む更なる闇を掴むための手がかりを求めていた。
だが、直接彼に挑む前に、確認しなければならない事実があった。
この事件は単なる魔石の盗難ではない――そう確信するには十分な状況証拠が揃っていた。
夜更け、俺はギルドの魔石研究室へ向かった。
その扉は古びた鉄製で、魔法陣が淡い光を放ちながら侵入者を拒むように輝いている。
扉を押し開けると、室内に漂う魔力の濃密な空気が肌に絡みつき、思わず息を飲んだ。
中央には大きな台座があり、その上には赤黒く変色したダイヤモンドの魔石が据えられていた。
魔石はかつての純粋な輝きを失い、不穏な魔力を放ちながら脈動しているようだった。
俺は近づき、指先をかざすと、まるで魔石が抵抗するかのように魔力の波が押し返してきた。
「これは…暴走ではなく、操作されている……」
俺がつぶやいた瞬間、背後から鋭い声が響いた。
「そこまでだ、一条」
振り返ると、そこにはギルド長ガルドルが立っていた。
彼の目は冷たく、薄く笑みを浮かべながらこちらを見下ろしている。
「やはりあなたが裏にいるのか」
俺は鋭く問いかけたが、彼は答える代わりに魔石を指さした。
「これを見ろ、この魔石こそが、真の力を解き放つ鍵だ」
ガルドルの声には熱狂が滲み、冷徹さを超えた狂気すら感じられた。
「この世界を救うには、現状の枠を超えた力が必要だ。そのためには、この魔石を進化させなければならない」
「進化だと?ただの暴走だ。街を破壊するだけの…」
俺が言いかけたその瞬間、ガルドルの手が動き、魔石から不穏な光が放たれた。
台座からほとばしる魔力が空間を歪め、室内に凄まじい圧力が充満する。
「暴走などではない。これこそが制御された力だ。この魔石を通じて、私はすべてを掌握する」
ガルドルが呪文を唱え始めると、魔石の輝きはさらに強まり、室内の影が踊り狂うように揺れた。
俺は黒炎の霊刃を引き抜き、目の前の異常な光景に対峙した。
「力に取り憑かれた者の末路は決まっている。お前も例外じゃない」
俺の言葉に、ガルドルは哄笑を響かせた。
「後悔するぞ!」
彼が放った
魔法の光弾が
空間を裂き
俺に
迫る
俺はその一撃をかわし
素早く
間合いを詰めた
霊刃が
輝き
黒炎が空間を包む
だが、ガルドルの魔力は予想以上に強大で、その一撃一撃が床や壁を砕き、研究室を破壊していく。
俺はガルドルの動きを見極めた。
彼の狙いは明白だった――魔石の力を完全に引き出すこと。
だが、それが完成する前に止める必要があった。
室内の一角に制御装置があるのを見つけた俺は、そこに向かおうとした。
だが、ガルドルが鋭い声を上げた。
「お前にそれを壊させるわけにはいかない!」
彼の手から放たれる魔法の刃が俺を遮ろうとするが、俺はそれをギリギリでかわし、装置に辿り着いた。
「これで!」
俺は霊刃を振り下ろし、制御装置を一刀両断した。
その瞬間、魔石の暴走が止まり、室内に充満していた不穏な魔力が霧散していった。
赤黒く輝いていた魔石は輝きを失い、ただの石塊のように静かに沈黙した。
膝をついたガルドルは、力を失い呆然とした表情を浮かべていた。
俺は霊刃を収め、彼の前に立ち、静かに言った。
「お前の計画はここで終わりだ。だが、この事件の裏にいる者はまだ残っている。俺はそいつを追う」
ガルドルはかすれた声で呟いた。
「……お前には分からない…この世界を守るために……」
俺はそれ以上聞かず、研究室を後にした。
夜空に広がる霧は濃さを増し、街全体がさらに深い闇に飲み込まれていくようだった。
次なる手がかりを求め、俺は静かに歩き出した。