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10 封魔の刃 - 最後の戦い

アルダナ市は、不吉な静寂に包まれていた。

霧はさらに濃さを増し、月明かりさえも完全に飲み込んでいる。

街を覆う闇は、ただの夜ではない。

それはまるで、この世界そのものが何かに飲み込まれようとしている前兆のようだった。


俺はギルド塔の最上階に向かっていた。

そこに待ち受けるのは、このすべての事件の黒幕――黒い手袋を操る者。

手に握られた魔石の脈動はさらに激しくなり、封じられた災厄が解き放たれようとしていた。


塔の最上階。

そこには、赤黒い光が渦巻く異様な空間が広がっていた。

壁一面に刻まれた古代の魔法陣が赤く輝き、空気を震わせる低い唸りが響いている。

その中央には、闇の中から現れた一人の男――黒い手袋を操る真の支配者。

彼の姿はローブに包まれ、目元だけが不気味な輝きを放っている。


「来たか、一条零」

男の声は深く冷たく、部屋全体に染み渡るように響いた。


「お前が黒い手袋を操り、この魔石を奪った張本人か」

俺は霊刃を握り締めながら問いかけた。

男は薄く笑みを浮かべながら頷いた。


「奪った?いや、取り戻したのだ。この魔石は、人間の手で管理できる代物ではない。この世界の根本を変える力を持つ。それを封じたままにするなど愚行に過ぎない」


彼は手を広げ、魔石を掲げた。

その瞬間、赤黒い光が部屋中に広がり、激しい風が吹き荒れる。

「さあ、力を解放し、新たな秩序を作り出そうではないか!」


男の呪文が部屋中に響き渡ると、魔石がさらに強烈な輝きを放ち始めた。

その光は空間を歪ませ、目には見えない何かが部屋全体を満たしていく。

俺は霊刃を構え、低く言葉を投げた。

「それが秩序だと?ただの破壊にしか見えない」


男は笑いながら答えた。

「破壊の先にこそ、新たな創造がある。お前もその力にひれ伏すのだ!」


その言葉と共に、彼は魔石の力を解放した。

赤黒い光が具現化し、部屋の中に巨大な影を生み出す。

それは人ならざる存在――災厄そのものだった。

長い腕と爛れた肉体、無数の目が光を宿し、こちらを睨んでいる。


「これが、封じられた災厄か……」

俺は息を整えながら霊刃を握り直した。

「だが、どんな力だろうと俺は止める」


災厄の影が咆哮を上げ、巨大な腕を振り下ろしてきた。

俺はその一撃をかわし、黒炎の霊刃を振りかざす。

刃が赤黒い肉体を切り裂くと、災厄は一瞬たじろいだように見えたが、すぐに形を修復していく。


男は遠くから声を響かせる。

「無駄だ。この力は永遠だ。お前の小細工では止められない!」


だが、俺はその言葉に動じることなく、災厄の中心――魔石の輝く場所を狙い続けた。

「無駄かどうかはやってみないと分からない」


戦いは激化した。

災厄が吐き出す闇の波動をかわしながら、俺は霊刃を振るい続けた。

そのたびに、災厄の体が削られていく。

だが、それ以上に消耗しているのは俺自身だった。


「諦めろ。この力は止められない!」

男の声が部屋中に響くが、俺は静かに呟いた。

「諦める?そんな言葉、俺の辞書にはない」


最後の力を振り絞り、俺は霊刃を高く掲げた。

その瞬間、刃に黒炎が宿り、眩い輝きを放つ。

「これで!」

俺は渾身の力で災厄の中心に霊刃を叩き込んだ。


刃が

魔石を貫いた瞬間

赤黒い光が

爆発し

部屋中に

衝撃波が広がった



災厄の影が一瞬叫び声を上げ、そして霧のように消えていく。

同時に、男もその場に崩れ落ちた。

彼の目から輝きが消え、ただの人間としてそこに倒れていた。


俺は霊刃を収め、静かにその場を見渡した。

部屋には再び静寂が訪れ、魔石は完全に輝きを失い、ただの石塊となって転がっていた。


外に出ると、霧が晴れ始め、月明かりが街を照らしていた。

鐘の音が遠く響き、街には再び平穏が戻りつつあった。


俺は立ち止まり、静かに呟いた。

「すべてが終わったわけじゃない。だが、今はこれでいい」


冷たい風が外套を撫でる中、俺は歩き出した。



次なる闇が待っている――だが、それはまた別の話だ。



「元勇者 シリーズ1」 で続く。




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