橋の影
あれを最後にして、と言うより最後にしてしまったのだろうか、寒かった季節は今でも寒い。だけれどほんの少し枯れ木だった草木が生い茂る様にも感じる。生命の吹き込みを感じる。そんな時期。
俺はまた君のことをこの多摩川で思い茂っている。
「元気?」「俺はね」「今多摩川にいるよ。」
紫を施した髪留めを君に渡したこの橋は。君が大丈夫かと心配してくれた、この橋は思い出を刻むには充分すぎる。
「寂しいよ」男ながら女々しいことを送った様に思う。
橋の下では走る人がいたり、自転車が駆け抜けたり、家族団欒で過ごす親の姿が愛らしい。そんな街並みは平和そのものの様に思う。なんか、正月を感じるなこの平和さは、その中で空いてしまった心の穴だけは、鮮明にあってさっきまで見ていた、走ってる人を見てもむしゃくしゃしてる様に走ってる人に見えたり、家族の愛らしさもまた、表面だけじゃないのかとか、他人と自分を一体に重ねている。
そんな最中、ふとスマホに君のお父さんのLINEアカウントが目に入った。あの後ライン交換したんだっけ。何も話してないけど。「小説できたら見せてね。」とだけ綴られていて。スタンプで返し会話は終了していた。
「なんか意外だよな」あの子があんなに
大雑把そうな親から生まれたと思うと。
今何してるかな。何で逃げたんだっけあの場から
あぁ、最後な気がしたのか、誕生日ケーキが誕生日なだけじゃなくて、それ以上の意味を含んでる様に思えたのか。
君から既読がつく返信が来るんじゃないかと思うより先に電話をかけた。返信はなかった。
もう一度かける。返信はない
けれど既読だけつく。
スマホを閉じ
そして数分が経ち電話がかかってきた
君かと思ってすぐに応答の文字にスマホをスライドした、「もしもし?」低い声に裏切られた
「いやーあのね今日、訳あってかけたんだけどー今大丈夫?」裏切って出た低い声の主は君のお父さんからだった、無責任に小説の価値観を押し付ける編集者と共通点のある。思い出すイメージは最悪に近かった。
「はい?1人なんで大丈夫ですけど?」
「え、1人なの?あの子家から出ちゃって君といると思ったんだけど」
「え、」また僕によからぬ事が起きる様な気がする
この前だって、そうだ君のお父さんが来てから、流れが
君へのイメージが変わった気がする
「いやね、君に相談があって」
正面を見て返答した
「は、はぁ?何でしょうか」
正面奥車道用の大きな橋が目に入る。そこによからぬものを見た、逸脱した、いてはいけない何か、それは紫色をしていて――
キラキラと――
君だ。それは咄嗟に口にだしてはいけないものの様な気がして言葉を発するのをやめた
それを監視するように見つめ、君のお父さんからの言葉を伺う
「いやね相談というのもあの子に関してなのだが」
「と、言いますと?」僕が返答する
「最近ね。よく外出するんだよ。しかも夜中によく抜け出してさ」
まぁ年頃の女の子だし、それくらいのことあってもいい気もするが。
お父さんから僕の名前が出るそして続けられた
「君あの子のことどれくらい知ってるの?」
その言葉を聞いて不審に思う。知ってるって何をだろう
「あの子の友達のことくらいかな?」
「あーそれ以上は何も知らないのか。」
「はい」「まぁ本人もそれでずっと悩んでるからねー」
その言葉は知っていたけど予感通りの、もう言葉にしているのと何ら変わりはなかった。
あの子には病気があり。もしかしたら長くないのかもしれない。そうやって悟る他なかった。
「今度会いに来てやってよ。」
「うちにでもいいからさ、そうだこの前の小説の話を一緒にしようじゃないか。とても楽しいと思うよ。」
はい。俺がそう答えるなか彼女はなぜあの場所にいるのかが気になった。花見をするには早すぎる気もするが。
「ねぇあの奥なら死ねたかもね」そんな言葉が僕の頭に響き渡る。そうこの橋は僕が飛び降りた橋で、
君が一緒になって入ってくれた橋で、
君が奥の橋なら死ねるかもしれないと、感じたこの橋で
ぼくが初めて、自殺を踏み出したこの橋だ
生きることにも活力が必要で死ぬこともまた、活力が必要でその活力がない俺は一体何なのだろうと。思っていた。彼女はあるだろうかそんな活力が、死ぬ勇気があるとはどんな感覚なのだろうか、生きることに絶望したからだろうか、あるいはもし、俺が死ぬことを選ぶならこれから先に絶望するのならばどう死ぬだろうか。
きっとそれは、せめて思い出の中で死にたいと思うのではなかろうか、では君もあの日の思い出の中にいるのだろうか?僕の思い出は君の思い出でもあるんだろうか
そう思えた時スマホを耳に充てる手から力が抜けてきた
君は車椅子に乗っている、何故そこに来てどうやってそこまで行ったかはわからない。でも確かなのは君がそこにいる紫色を施した髪留めがそう語っている。
「あの子ね君のためになりたいって、小説を読み出したんだよ」
「そうだ今度その話をしようじゃないか」
「また3人で、あ、そういえばこの前君も写真に映ればよかったじゃないか」ああ、そうか君がライトに映されたり暗くなったりするたびに僕の孤独感も拍車をかけていた。あの時一緒に映っていればもしかしたら君も、病気のことを話してくれただろうか頼ってくれただろうか、信じたくない俺はその場から逃げることを選択した。
君のお父さんの声をただ聞き取ることしかできないでいる。
そんな矢先、
君が必死になって何かしているのがわかる。
遠すぎるがそれだけはわかる必死になって立ち上がって
一緒になってた車椅子を離すようにしているのがわかる。そして君が少し身長が高くなる時、
紫色の蝶が空に舞った。
一線の帆を描いてー――
飛び降りた瞬間、周辺の人が低い音を出したように思う
「おぉ」と驚きの上がる声は現実感をなくし、信じたくない気持ちと飛び降りたかもしれないという現実が混ざっているように思う
君の覚悟は本物だった。
そう思えた時僕は泣いた大きな声を上げて
「ぁああああぁぁぁあぁ。あぁ」
と君が死んでしまった悲しみで泣けているのだろうが
君がいなくなったことがしんどくてだろうか。そんなもの以上に僕は君のことが理解できていたからだと思う
死ぬことにはどれだけ覚悟が必要かを俺は知っている。
死ぬなら、きっと思い出を抱きしめて、死にたいというのも理解ができる
僕がもし、死ぬ覚悟を持てるならきっと同じことをする。だけど、それと同時に嬉しかった思い出で死んでくれることもあの日のぼくだけかもしれない思い出を君の思い出にもしてくれたことも。
けど助けてあげられたんじゃないかと思うと泣けた。
ただただ泣けた。
君はもういない今この世を去ったその中で
君のお父さんのこえがぼくに響続けている。
「どうしたんだい?どこが痛いのか?
すごい声聞こえたけど。ごめんね何か悪いこと言っちゃったかな?」「でも安心してくれ俺に何か話してくれるなら……」そっから先は何も入って来なかった。
後日病院に呼び出され知っていることを言われた。
昨日の午後3時、君の名前、死亡しました。何か知ってることがあるならばと
「僕は知らないです。」とだけ答えた。
君のお父さんが医者の隣に立っていた
君のお父さんは、泣いていたからだろうが目の下が赤く腫れている。
「何か知っているなら何でもいい話してくれないか」
「知らないです」
「何でもいいんだ」
「知らないです。」
「本当か?」
「はい」
病院の床に反射するライトの光が強く感じる
「じゃあ何で君はあの日泣いてたんだ!叫んだんだ!何か知ってるからじゃないのか!
君なら救えたんじゃないのか!」
そう攻め立てた病院の廊下は強く震えたように思う。
僕が黙り込む。
君のお父さん僕の肩を強く持ち、「何でもいいんだ何か知ってるなら話してくれ。」その目は僕を覗き込むような目をしている、その目にはまた目が潤んでいる合っていないように思う。
人の泣きそうな目はつられて僕までも目が潤いそうになる。
「知らないです。」
知らないです。君があの日飛び込んだことなんて
知らないです。君の病気のことなんて
知らないです。君があの場所を思い出にしてくれてるなんて。
知らないです。君の身長だけが思ってたより小さいなんて
知らないです。僕がこんなにも君を失うと、悲しいなんて
知らないです。知らないです。知らないです。何もかも
僕が続けて君のお父さんに告げる。「あの子のことなんて何も知らないです。」
知らない。何もかも。君のことなんて知りたくなかった。知らないままの俺でありたかった。。