茜色
「お前さ、俺らみたいな奴が可愛い子と付き合うならさどうしたらいいと思う?」男2人はファミリーレストランの大きなソファーで向き合う形で食事を袖にやり話している
「いやそんなの決まってるやん。整形するかー整形するかやろ。」
「おいー!真面目に考えろって」
「ある種真面目ではあるし正しいだろ」
「まー確かに」
「ま!結局は顔だって事よ!」
「俺はそうは思わないかな!」
「ほう。お前の意見を聞こうか」
「ほら芸人とかでもさ、あんまりカッコよくないなに綺麗な人と付き合ってたりすること多いじゃん?例えば○○とかさ」
「なるほど確かにね」
「つまりモテと面白いは紙一重なんだよ芸人オタは決まって女の子って相場決まってるんよなー」
「そんなこともないだろ」
「いや!そうだね!間違いない芸人がモテるって証明だってできる」
「ならしてみろよ」
「ほう聞きたいかね、モテのロジック」
「まー仕方ないからね聞いてやろう」
「なら、思わないかい?この会話“漫才の冒頭”に似てるってさ」俺はコソコソしたように口にする
「漫才とモテで大切なのはコミュニケーション能力だと俺は思う、そしてそのコミュニケーション能力というのを深掘りしていくと漫才にたどり着く」
「冒頭はこうだ僕に合わせてさっきの会話を漫才風にするんだ」男は声をワントーンあげる「はいどうもー、いやー僕最近気になることがあってですね」
戸惑いながらも相方はついてくる「そう言いますと?」
「いやー僕らみたいなインキャがどうやったらモテるのかなーーなんてねだから君にはどうやったらモテるかを一緒に考えてもらいます!!」「いやそれは整形するかー整形するかでしょ!?」「いや、なんでやねん!今モテたいって話をしてるのー!!」店内に響き渡る僕ら2人の声
くすくす笑う人もいれば、何故かこの話し方をすると足先をこちらに向かせ目が合う人がいる、そうこのコミュニケーションの仕方が僕の思うモテのロジックだ。
コミュニケーションを取る上で1番大切なのは関心を持ってもらうこと、関心を持つには大衆の場で大きな声で話すことに躊躇をしないこと。その行動自体には恥を感じるかもしれないだがしかし、第三者目線では余裕のある人間として認識される
そして一つの関心を引き起こす。
そしてその関心は興味に移り変わり、この人は余裕のある人と誤解を招き、あろうことかモテに結びつくのである。
その人を離さないように目を合わせその人にだけ向けて語り出す「いや!僕はトルネードのにののみやさんとか結構モテると思うんですけどねー正直イケメンではないじゃないですか!」「トルネードのファンに今すぐ謝れ」
分かるフレーズを言うとウケるらしい
「いや僕が言いたいのはそうゆうことじゃなくて結局はコミュニケーション能力って話」
「あーなるほどね」
「でな!ここで気づいたんだけどな」
「ほうほう」
「コミュニケーション能力が必要なのはなんだと思いますか!?みなさんそう!漫才師、芸人なんですねー!すごいでしょ!モテなさそうな男がモテるでしょ!!これ!発見ですよ!!」
「ネットで叩かれろお前!!」
正面の女の子にウケたらしい顔を隠してる姿は実にキュートだ
「じゃあ僕ら漫才師になるために予行練習したいから
お前ツッコミやって?俺ボケやるから」
「うんいまと何も変わってないね!おっけー!」
ピピピッピピピッ
朝の目覚ましが勘なき起こされる。
その中で憂鬱になりながらも一度ボタンを押すと勘なくカラスは止む記憶の奥にあるうっすらとした記憶の断片を拾い上げ今日みた夢を思い出す。
確かあのあとあの目の前にいた女の子と仲良くなってー
漫才師がモテることを証明したんだっけ
そしてある発想で目が覚めた。
「あ、そういえば」
「あの時面白いって言ってくれた子Kirinさんに似てるな」
彼女が俺のライブを観てくれてから数年が経ち
彼女と僕は交際を始め二人暮らしも計画中だ。
そして彼女とのライブを共有する衝撃の出会いは、のちに知ったのだが、俺が彼女を知るより先にKIRINさんの方がもっと前から僕を応援してくれていた。
そしてそのきっかけは夢で見た、あのファミリーレストランで偶然ぼくらと出会い会話も果たしていたと言う、運命と名付ける他に例えようがないほど強固な縁結びであった。
そういえば昭和パラダイスという名前も、あの会話から生まれたのだなと思うとより感慨深くなるものだ。
僕自身も芸人として売れ始め生活環境も整ってきた。
今日はたまたまお互いの休みが合い、デートを約束してプロポーズも計画している。
おれはいつも通り、1時間早く集合場所につきカフェによる。そこで漫才の台本の仕上げ部分と、相方と擦り合わせた箇所に訂正を加える。
いつも通りの毎日。「早く会いたいよ」君にそう送りスマホを閉じた。何故かいつも会うのにも関わらず、
少しドキドキとワクワクを含んだこの感情だけは決して消えることのない。心地の良いものである。
「私も」と返信が届くため、人目を気にせずクスッと笑えてきてしまう。と気づくと1時間過ぎてしまって集合時間ギリギリに差し迫っていた。カフェで購入した、コーヒーを余すことなくゴゴゴッと飲み干す。勿体無さや貧乏性は売れ始めお金の大事さを気付かされ、癖になっていた。そして急足で、デートに向かうため、少しつまんだチョコケーキとコーヒー代を置き、お釣りはいらないです。と一言添える彼女の待ってる場所に急足で向かう。
が向かおうとした時、足止めを食らった。
いやあの。気のせいかと思い。もう一度足を踏み出すとあの!!と声が大きくなる。振り向くと店員さんと目が合い。「100円足りないんですけど」と続けられた。
ぼくとしたことが何をやっているんだ、最近になって芸人として売れ始めたのはいい。そしてそれだけではなくメディア露出が増えてきたり本も出版が決まり、
これから上に上がっていく準備段階にいるのも頷けるがそれと同時に落ち着きもなくなってきてしまってる気がする。「最近忙し過ぎて困っちゃうよ、全く売れると大変だよ君にも体験させたいな」俺がそう送り
「いいなー私も頑張らないと」と返信が来る。
君はいい女だだから必ず売れる僕以上に
優れている人間は優れた形跡を残すべきだと個人的におれは思うのだが。世間はそれを全く理解してないと思う。
「君は優れているから大丈夫さ」と僕が送ると
そういうと君から「ありがとう」と来る
これが当たり前の日常、当たり前の毎日。
がその最中いつもより時間が大幅に持ち越してると思いふと時計を見ると予定より2時間遅れていることに気づき悟った。
今日この日君はこの場所に来なかった。
「何故君は裏切ったんだ俺はお前のことこんなにも想ってやってたのに」この感情はおれを虚空に怒りを置き続け
数ヶ月経った夏になってもなお、収まることは無かったそれどころか、怒りが増しているとすら思う。
君は何故裏切ったのだ俺はこんなにも応援していたのに
君は何故裏切ったのだ俺はお前にこんなにも尽くしていたのに
君は何故裏切ったのだお前と出かける時幾度となく奢ってやったじゃないか。お金を払わせたことなんて一度もない。お前の笑顔を見るためなら何だってできたのに。
確かにお前は売れていなくて。俺は売れていて、
お前は進路が決まっていなかったけど俺はトントン拍子に仕事が決まっていて、妬む気持ちも分かるのだが、急にいなくなることではないじゃないか。
いいさ妬むだけ妬んでいればいいすぐに女なんて見つかるし、何せ俺にはモテのロジックがあるのだから。何故かそう思うと、途端に空を俺自身が欲しがり上を見上げた。
その欲は屋根に妨げられた。この俺が今立っている向ヶ丘遊園駅は屋根があり、電車の行き来が都心の方だと急行と各駅停車のみで快速が止まらないため、他の場所と比べても待ち時間が長くなる、
そしてその少しの待ち時間は俺との相性が最悪だった。通勤中の俺はスマホを見る癖があまりない音楽だけを耳に置き。思想を巡らせる。それはネタの制作であり、
小説の制作であり思想の循環である。その思想の循環は基本的にネガディブな方向に浮遊しがちで、その浮遊しがちな思想は最近起きた、彼女の裏切りに偏りがちだった。
そして、その思想はたちまち今いる周りにも向かった
あいつ汗くらいな。静かにしろよ。周りの迷惑も少しは考えろよ。あの扇風機小さいけど本当に意味あるのかよ。
荷物多。電車混んでることとか考えないのかな。
ベビーカーって車で出かけろよとかそんなのばっかりだ
あ、これを漫才のネタに置き換えたらどうだろうか。
こういった怒りはある種ツッコミだ。みんなは扇風機や
汗臭さベビーカーなどでボケていると考えればそこにツッコミを入れることで怒りもまた笑いに変わる。
そうだ今すぐにスマホに書き込んで、できたら君に見せよう!!それがいい君はそうゆう変換も難なく受け止めてくれるファンでもあるじゃないか。あ、もうきみはいないのか。そうしてまた絶望に誘われた。
「次は快速急行小田原行きが通過いたします。危ないですのでー」ッチ小田原かよ、しかも快速だし、
俺は新宿方面に行きたいんだよ
俺に面して正面手前を俺とは無関係な快速が通過する予定だ。
そう。正面手前を快速急行が通過する。
無関係なはずの危険な列車が――
俺もまた正面を見た。通過する予定の列車が過ぎていくのが何となく好きだったから。
とそこで1人の女性が目に入った
君に似ているKIRINさんにロングなところ少し目がキリッとしているところ黒い上着を羽織っていて、身の丈が小さくて、あの亡くなってしまった推しに似ている。でもそれは君ではない赤の他人だ、だけどその女性は僕に知り合いの様に見てくる僕は知らないのに、今にも手を振って「久しぶり」と言いたげなその顔を本当は知人じゃないのかと思うほどにニッコリとこちらに進んでくる。
こっちにくるには線路を跨がなければならない、そしてそこは――
その顔はにっこりとしているが、目が少し虚な気がする
なんか見たことあるな。確かそれは君と下北沢を歩いた時。僕が漫才を続けたいと思た日君が僕よりも前に応援してくれよ喜んだあの時、あの日、君はぽっかりと孤独を含ませ「辞めないで」と頼んできた。その日を思い出す。
青色が鮮明なこの夏、その思い出が飛沫をあげた
上がった飛沫は茜色だった――
。