出会
すごく長いスピーチを聞いていた気がする。
耳で聞いていただけなのに謎の疲弊感があるのは立って聞かされているからなのだろうか。スピーチをしていた「ヤツ」の顔がチラつくたびに疲弊感以上の苛立ちを感じさせた。立って聞いていることが原因で貧血で倒れる人が頻発しているんだぞ。あの時間絶対に無駄だろ。
生産性のカケラもありはしない。むしろ倒れたことが原因で頭などを打ち後遺症が残るリスクすら抱えている
感情を抑えきれない俺は多摩川の大きな橋の真ん中で柵に腕をつきながら憎たらしい顔面に唾をつける趣で自殺を考えていた、なにもヤツのスピーチだけが自殺を促進させる原因ではないのだが、その柵についている腕には原稿用紙の入った封筒が握られていて「ソレ」が最も自殺を踏み込むきっかけに他ならなかった。
高校2年の俺は小説家を目指してやまない普通の一般男児であり、一般男児以上に行動力と文章力には自信があり
幾度となく出版社に持ち込んでいた
そして担当者との打ち合わせの日その自信が崩れる事となる、
「君の作品はなんと言うかありきたりというか、ねぇ」
「似てるって感じかな」
「まぁでもまだ年齢も若いんだし、これからいくらでも」
それを聞いて間が上がるたび俺は「まぁ」とか「はぁ」とか右頬を釣らせながら軽蔑を含み相槌を打つことしかできない
あまりいいタイミングとは言えないタイミングでカフェの店員さんがケーキを持ってきて机に置く、
「こちらチョコケーキです」
担当者の目の前に置かれたそれを返事も何も返す事なく彼は一口食べ、話を続けた「その感じあんまりピンときてないでしょそこもあんまりカリスマ性みたいなの感じないよね。」と、切り出す、その意見にもあまり納得のいかないし腑に落ちない俺自身には才能がないと言うことなのだろうか、担当者の上がる発言はどこか他人の愚痴を聞かされている気分に近かった。
きっと彼は俺の作品に対して興味がなく、自分の抱えている問題の多さや不満に対処しきれず当たる対象を探しているように思う、そして俺の作品はそのターゲットにされたわけだ世の中の真理に高二ながら近づいた気がするし、絶望した
それでも担当者の作品に対しての悪評という名の愚痴が止まることはない、かれはチョコケーキにフォークを横にして切り込みをいれ適当なサイズに切り、頬張る。そしてクリームがまだ喉を通っていない状態で彼は続けた
「いやそもそも中身が薄いんだよね。君の人間性というか人生経験みたいなのの薄さがよくわかると言うか、引きに弱いよね」彼の喉でクリームが引っかかっる音と発言が合間って不快感のみを俺は感じとっていた。
早く終わってほしい、
ため息を押し殺しその代わり深呼吸に切り替えなんとかストレスを発散させまいと担当者から目を逸らす
机に置いてある二つのコップに目が入った
俺の手前に置いてあるご馳走してくれるであろう
コーヒーは手付かずで、氷が溶け、コーヒーと水でグラデーション状に層が出来ている、それと相反する様に担当者の手前に置かれている空であろうコップに彼はゴゴゴっと最後の一滴まで残さずに飲み干した、そしてそれらの互いにはある程度の時間の経過を意味している
彼が立ち上がり「まぁまた何かあったら連絡して」とだけ言われ僕も立ち上がり頭を下げた「ありがとうございました」何故感謝を述べなければいけないのか、内心をよそに自分から出る言葉は柔らかい口調だった
「いいえなんかごめんねまた!お金だけ置いていくから」じゃらっと二人分であろうコーヒー代と自分だけ食べたチョコケーキ代を机に出し去って行った
お会計の時100円少なかった。
店を出るためドアを開けるおそらくドアの上に置いてあるであろうベルがチリンと鳴り、瞬間外気がもわっと、身体を包んだ外の太陽が強い光で俺を指している
「学校行く気ねぇ」太陽がおれの光と熱を許容できる数値を大幅に超えその熱量は俺を学校登校拒否する理由には十分過ぎた。
しかし、それは叶わなかった何故なら今日は夏休み前の終業式の日だ義務感は俺の足を進ませた
そして学校に行くと「ヤツ」のあのスピーチが俺を襲う
(行く必要マジでなかったな)
頭はまだ混乱の渦にいた、自殺をするには十分な理由が出揃っていたのだがそれを食い止める要因が一つだけあった「今日どうだったの?ずっとボケーってしてるけど」
君が横で何度も声をかける事によって、自殺に踏み切るタイミングをみすみす逃している。
「ねぇねぇ、聞いてるの?」隣からする声に嫌気がさし
なんだよもうと反論しても「感想聞かせてってば」
埒が開かない「もう五月蝿いダメだったんだよ!!
めちゃくちゃボロクソに言われたんだ。もういいだろ
人生観が薄いって言われたんだ。」口を開くと話したいことが増えていく「そんなにダメだったかよほぼ八つ当たりだと思ったよ」自分の情けなさは自分の行動に比例して
君に当たって、顔を疼くめて今の怒りを悟られまいと必死だし、通行人にも気が向いている、そして
当たってしまったことも後悔してまた情けなくなるの
悪循環こんな時まで俺は俺の思考がどんなふうに動くかを追いかけてて混乱と冷静が共存していた
それに戸惑ったのか「あ、でも」「えっと」
「いやでもこの前見せてもらったやつすごい面白かったし、内容の伏線の貼り方とか?スムーズに話入ってくる言葉選びとかすごいと思ったしー。でもー」もじもじしているのが少し腹立たしいと思ってしまった
それでも君は止まらず言う「ほらクラスでもさ!みんな面白いって言ってるし自信持とうよ!」
と自身の心情を隠す気のない君を見て、少し心が和んだし、笑えた
こんな風にいられたらなと思う
「そうなのかな?」女々しい僕が続ける
周りを気にする事なく行動できて発言できて
ちょっと身勝手な彼女は未だ戸惑っている、「いやでもまだ時間あると思うし」「今回はダメだったかもだけど次頑張ろうよ」となりふり構わない趣きである
その戸惑いは数秒間の間を作り出していて、俺が自殺を図るには充分な時間で
君みたいになれたらいいと言う感想はあえて自分を逆撫でした
下がりゆく夕日に目掛け柵に足をやり俺は踏み込んだ
俺を説得しようと必死のその目は俺が飛び込む助走を図ってるのに気づかず、俺が飛び降り足を前に突き出した時君は「え」と一言だけ加え、動くことはない
踏み込んだ俺はどんどんと地面と俺との距離は近くなる
川の均等に流れる波が鮮明に見えてきて
奥の透き通る地面が見えた時、バシャン!と音が鳴り
その音を追いかけるように水飛沫が上がった、バサバサハザと上がった水飛沫が雨のように降る、君の声が遠くで聞こえる様な気がする
俺は死んだのかと思ったし死ぬつもりだった、
だがしかし川は思っていたより深かった
ブハっと必死に水面から上がった俺は何をやっているんだと思う、死のうと思った俺の心境とは裏腹に俺自身の体は苦痛から本能的に逃れようとして水面に浮上していた
君の声が聞こえる
「何してるの!!」君が橋から走って駆け出し、川の方に来る、俺はまだ水面にいるこれからどうしようかと考えるもう一度死ぬ為に潜ろうか、そんな気力は果てていた。気づく、死ぬことにも気力は必要なのだと
必死に生きても上手くいかず、だから死のうと決心してもその死のためには気力が必要で、楽な道を選択出来ない自分、そんな自分がどうこれからやっていけばいいかわからないでいた
そうすると何故か君も一緒になって川に入ってくる、服装はそのままで最初は冷たそうにしてたし、今俺の身長からしても肩くらいはある深さの川、どうせ全部入るのにスカートの裾を上げて入ってくる君にそれは意味あるのかなと思う、だんだんと近づいてくるのをバシャバシャという音の大きさで実感した、君の方向は何故か照れ臭くて見れない、ピシャピシャという音からドシャッドシャっと重量感を帯始め君が近くに来ているのだと感じる、横に来て目が合う少し照れる俺をよそにきみはバシャと俺の顔に水をかけ「もう何してるの!?死ねるとでも思ったの?」君と心配する顔を見て初めて可愛いなと思う。水に浮かぶスカートが肌にあたり少しこそばゆい、
そして心配する水温は秋になってきて夏よりずっと冷たい、「風邪ひくよ?」俺が問いかける。「人の心配してる場合?」と君はいう奥の橋の方をゆにびさして「あっちなら死ねたかもね」と君が笑う少し遠くて駅から離れている、車道向きの大きな橋、
確かにここよりも数十メートルは高そうだ、
俺の頭が少し冷静さを取り戻した時、足と胸にひどい鈍痛を感じた。右足は秋の冷たい水温で気づかなかったが感覚を失いきっと折れている、胸の鈍痛は理解が追いつかなかった。うっすらと意識が遠のくのを感じる、君がすごい心配して声をかけてくれているのを感じる、
そんな顔を見て可愛いなと感じてしまっている、




