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お気に入り小説3

国王陛下として、役に立ったから愛していたのですわ。役に立たなくなったディエル様への愛は無くなりましたの。さようなら。ディエル様

作者: ユミヨシ

フェリーシア・アルデミーナ公爵令嬢は銀の髪に碧い瞳のそれは美しき令嬢だ。

歳は17歳。


幼い頃から、ディエル王太子殿下の婚約者として定められ、それにふさわしい教育をずっと受けてきた。未来の王妃に相応しい王妃教育、それと同時に高位貴族の娘に相応しいマナー、知識教育。


美しさにも磨きがかけられて、何もかも、ディエル王太子に相応しい女性になる為、それがフェリーシアの生きる道であり、フェリーシアは誇らしく思っていた。


幼き頃からの婚約者、美しきディエル王太子はきちっとフェリーシアの事を婚約者として大事にしてくれた。


「フェリーシア、そなたとこのガルド王国を治める未来が今から楽しみだ。君はとても優秀だからさぞかし、素晴らしい王妃になるのだろうね」


お茶の席で、そうディエル王太子に言われるだけで、胸がドキドキする。


「そうですわね。わたくしもディエル様が国王陛下になる未来がとても楽しみですわ」


そう、全てはこのガルド王国の為に。そして愛するディエル様の為に。


人生の全てを捧げて生きるのがフェリーシアの幸せであり、生き方であったのだ。

ディエル王太子殿下の事はことのほか愛しくて。


真面目で、努力家で、いつも王国の事を考えているディエル王太子殿下。

この方の婚約者でなんてわたくしは幸せなのかしら。


そう、いつも思っていたのだけれども。


そんな幸せは、脆くも崩れてしまった。





隣国クエル王国が同盟強化の為に、ソフィア第三王女を、ディエル王太子の結婚相手にと、勧めてきたのである。


隣国との平和はガルド王国にとって大切な事。


国王陛下は結局、その申し出を受ける事にしたのである。


その話を聞いて、フェリーシアは涙した。

王妃になる道が閉ざされたのだ。愛するディエル王太子殿下との結婚が無くなったのだ。


どうして?なんで?わたくしはその為に幼い頃からずっと努力してきたのよ。

愛するあの方を支える為に頑張ってきたのよ。


だから、公爵令嬢として許されない事だとしても、国王陛下に直談判した。


「ソフィア王女様に今から、このガルド王国の王妃となるための教育を施すのは無理があります。ですから、わたくしをディエル王太子殿下の側妃にして下さいませ。ソフィア様の助けになりとう存じます」


どんな形であれ、愛するディエル王太子殿下の傍にいたい。

王国の為に役に立ちたい。それがたとえ、正妃という立場でなかろうとも。


そう、フェリーシアは決意したのだ。


ディエル王太子殿下を独占したい?


いえ、本当ならば、わたくしだけを、見つめてくれて、わたくしだけのディエル様でいて欲しかった。


でも、ディエル様はガルド王国の国王になるお方。

それは儚い望みだったのだわ。

だったらわたくしはどんな形であれ、ディエル王太子殿下の為に役に立ちたい。

彼の傍にいたい。王国の為に尽くしたい。


そう、強く思ったの……


ディエル王太子が、フェリーシアに会いに来て、


「本当にいいのか?君は側妃で。私は正妃を優先させねばならない。君に悲しい思いをさせてしまう。それならば、君は君で他の男と結婚して、新たな幸せを探して欲しい」


ディエル王太子殿下の手を握り締めて、フェリーシアは訴える。


「わたくしの愛は貴方にしかありません。わたくしは貴方の為に、ソフィア様の手助けをしたいのです。ですからどうか、わたくしを側妃にして下さいませ」


「そこまで言うのなら、解った。私としても、ソフィアの手助けをしてくれると言うのなら、それはとても有難い」



とても、幸せを感じた。

父である公爵も、反対をしなかった。


「是非とも次代の男子をお前が産むのだ。そうすれば、我がアルデミーナ公爵家は次代の国王を輩出した家として、権力を更に得ることが出来る」


アルデミーナ公爵はこのガルド王国の宰相である。


権力欲の塊だった。


フェリーシアは父に向かって頭を下げて。


「わたくしは、この王国の為に役に立ちたいのです。それに子を産むことが含まれるのならば、必ず子を産んで見せますわ」



こうして、フェリーシアは側妃として、ディエル王太子に嫁ぐことになった。




二月後、ソフィア王女が隣国から嫁いできた。

王国中が祝う豪華な結婚式が行われた。


美しい金の髪のソフィア王太子妃。


銀の髪のこれまた美しいディエル王太子とは一対の絵のようであった。



そんな似合いの二人を見て、寂しさを感じる。

本当なら王国中に祝われて、ディエル王太子殿下の隣にいるのは自分だった。


美しさだって、ソフィア王太子妃と変わらないと自信を持って言える。

お似合いだって、皆に言われているのは自分だったのだ。


悔しい……悲しい……サビシイ……


でも、それは覚悟をしていた事。

必ずや、男の子を産んで見せる。


あのソフィアよりも、ディエル王太子殿下に愛されて見せる。


あああ……わたくしはなんてことを。ソフィア様の助けになる為に側妃になったと言うのに……


嫉妬の心と、使命と、色々と複雑なフェリーシア。


そんなフェリーシアの元に、ソフィア王太子妃が挨拶がしたいと、わざわざ侍女と共に訪れたのだ。


「貴方が長年、ディエル様の婚約者であったフェリーシアね。これからは、わたくしの力になって頂きたいの。どうか、わたくしが立派な王太子妃になる為に、導いて頂戴」


手を握り締められて、頭を下げるソフィア王太子妃。


フェリーシアは驚いた。


「頭をお上げ下さいませ。ソフィア様。わたくしなどに頭を下げられては……」


「側妃と正妃が協力して、夫を支える事こそ、良い国が作れると父に習って参りましたの。わたくしは貴方と争いたくはない。我が祖国と、このガルド王国と末永く平和である為にも力を尽くしたい。そしてこのガルド王国の為に役に立ちたいの」


あああ、なんてお方。

この方もわたくしと同じ、ガルド王国の為に役に立ちたいのだわ。


フェリーシアはソフィア王太子妃の手を握り締めて、


「わたくしはその為に側妃になったですわ。ですから、ソフィア様の為にお役に立ちたいと存じます」


「ありがとう。フェリーシア」


ディエル王太子は、夜の方は、一日おきに互いの部屋を行ったり来たりして、平等に二人を愛してくれた。


女としてはずっとディエル王太子殿下の傍にいたい。

そんな女としての心に蓋をして、ガルド王国の為にと心の中で言い聞かせて。


今まで習って来た事を、ソフィア王太子妃に助言して、色々な行事にも付き添って手助けをした。


ソフィア王太子妃は感謝してくれて、


「フェリーシアがいてくれたからこそ、わたくしはこのガルド王国で役に立つことが出来るのだわ。有難う。貴方はわたくしにとって無くてはならない人だわ」


「ソフィア様。そのような有難いお言葉、とても嬉しく思いますわ」


ソフィア王太子妃はとても良い方だ。共にいて、心が洗われるようで、真剣に公務に励む姿は尊敬の念を抱いてしまう程である。

それでも、フェリーシアはソフィアよりも、早く男子を授かりたい。そう思っていた。


女としての嫉妬の心……それを捨て去る事はどうしても出来ない。

必ず子を、男子を、ソフィアより早く……



しかし、フェリーシアもソフィアも、5年経っても子が出来る様子は見られず、


ソフィア王太子妃に呼ばれて、フェリーシアは相談された。


「ディエル様に跡継ぎがいないのは、非常に不味いのではなくて?わたくしも貴方も子が出来る様子がない。貴方のお父様の、アルデミーナ宰相が言っていたわ。派閥から側妃になる娘をディエル王太子にと……」


フェリーシアは泣きたくなった。


ディエル王太子と共に過ごす時間が減ってしまう。

ソフィア王太子妃だからこそ、王国の為にと、我慢出来た。


あああっ……普通の夫婦ならば、ずっと一緒にいられるのに。


ガルド王国の為にディエル王太子殿下と、ソフィア王太子妃の力になっていると自信を持っていえる生活。


それでも、時には望んでしまう。


ずっとずっとディエル王太子殿下の傍にいたいと……


ディエル王太子殿下を女として望んでしまうのはとても悲しい事?わたくしは、ガルド王国の為にならない、女だという事?


その日の夜、フェリーシアはベッドの中で、愛しのディエル王太子殿下に抱かれながら、謝られた。


「側妃をそなたの他に娶ろうと思う。私だって子が欲しいのだ。ソフィアもお前も子が出来る気配がない」


「王国の為、解りましたわ。男子が必要ですものね……」


ディエル王太子殿下に抱き着いて、その整った顔を正面から見つめる。


愛しい人……ずっとずっと独り占めしたかった人……


「覚えておりますか?貴方は初めて会ったわたくしに、婚約者が君で嬉しいと、微笑んでいって下さいましたね。その頃から、わたくしはずっとあなたの事を愛しているのですわ」


「解っている。そなたの心は。だが、私は王太子、いずれは国王になる身だ。そなただけでなく、ソフィアや新しい側妃にも愛を注がねばならない。解ってくれ。私の本当の心はそなたにある」


「そう言って下さって嬉しいですわ」


信じたい。その言葉を信じたい。


でも、このお方は……


「でも、貴方様が大事なのは、わたくしではなく、王国ですわね」


「私は国王になるのだから、それは仕方がない。解っているだろう?」


「ええ、勿論ですわ」


ディエル王太子殿下の逞しい胸に顔を埋めて。


つい思ってしまう。


この方の婚約者なんてなるのではなかった。

いえ、側妃になるのではなかった……


でも、側妃になることを望んだのはわたくし。わたくしはどうしようもなく、この人を愛しているわ。愛しているのよ……


心に吹く隙間風、どうしようもなく、寂しく辛かった。






結局、アルデミーナ公爵派閥の伯爵家の娘だという、アリンデという女性が、新たなる側妃として加わった。

アリンデは、フェリーシアの従妹で、幼い頃から顔見知りでもあった。


「フェリーシアお姉様ぁ。お久しぶりですっ。わたくし、とても嬉しいですわ。お姉様と一緒にいる事が出来て。派閥の為、王国の為にも立派な男子を授かって産んでみせますっ」


ニコニコしてそう言い切るアリンデ。


わたくしの複雑な気持ちが解らないのかしら。この子は昔からそんな感じだったわね。


ソフィア王太子妃が侍女と共に現れて、


「貴方が新しい側妃のアリンデね。わたくしは王太子妃のソフィア。立派な男子を王国の為に授かって産んで頂戴」


「ソフィア様っ。本当にお美しいですね。解りました。頑張って男子を授かるように、精進しますっ」


幼い顔立ちの金の髪で、目が青くてくりっとしているアリンデ。

アリンデは、ソフィア王太子妃やフェリーシアにも甘えて、人懐こい性格で。


本当は憎くて憎くてたまらないはずなのに、どこか憎めなくて。


当然、ディエル王太子殿下はアリンデを事の外、可愛がり、閨へ向かう日が、ソフィアやフェリーシアより多くなった。


フェリーシアとしては面白くない。

子を授かる為とは言え、自分との時間が減ってしまったのだ。


本当に寂しくて寂しくて。


もっと、わたくしの寝室に来てよ。

わたくしはディエル様ともっと一緒にいたいの。


ある日、耐えきれなくなって、ソフィア王太子妃に泣きついた。

みっともないと解っていても、愚痴を言いたかった。


ディエル王太子殿下になんて泣きつけない。


ディエル王太子はアリンデとの子を授かる為にも、頑張っているのだ。


それをヨシとしないだなんて。自己嫌悪で苦しむフェリーシア。

ソフィア王太子妃に慰められた。


「貴方は本当に、愛しているのね。ディエル様を。わたくしは謝らなくてはなりません。わたくしが政略で、貴方がいるべき場所を奪ってしまった。本当にごめんなさい。でも、わたくしは、貴方に随分と助けられた。貴方と過ごした時間はとても楽しかったわ。そんな風に思うわたくしを許して頂戴」


そう言って、優しくフェリーシアの背をさすってくれながら、謝罪して下さったソフィア王太子妃。

フェリーシアは恥ずかしくなった。


「わたくしこそ、ソフィア様のお役に立てて、こうして仲良くお付き合いして頂いて、本当に幸せで。それなのに……わたくしの我儘で」


「独占したい。愛する人を。当然の気持ちだわ」


「ソフィア様はディエル様を愛していないのですか?」


「ディエル様とは政略。わたくしね。嫁ぐ前に他に好きな人がいたのよ。わたくしに勉強を教えてくれた先生。でも、叶わぬ恋だったわ。ああ、でも政略と言っても、わたくしもディエル様が好きよ。でなければ、王太子妃なんてやっていられません。でも、アリンデと子が出来るといいわね。子が出来なければ、ディエル様の次代は、とんでもなく、上の世代からたどらなければならないのでしょう?」


「はい。国王陛下も姉君しかおらず、その上の代からたどらなければなりませんから」




しばらくして、アリンデは懐妊した。


ソフィア王太子妃やフェリーシアに嬉しそうに報告したのだ。


「頑張った甲斐がありましたっ。絶対に男の子ですっ。頑張って産みますね」


そして、宣言通り、男の子を産んだのであった。


その頃、国王陛下は身体を壊して、ディエル王太子が、ディエル国王へ即位した。

アリンデの産んだ男の子はブラドと名づけられて、ソフィア王妃の子として育てられる事となった。


唯一の王位継承者。


皆の期待を一身に背負い、ソフィア王妃やアリンデからの愛情を、勿論、フェリーシアも、ブラド王太子を可愛がった。


皆、必死だったのだ。


甘やかすだけではなく、一流の教師もつけて、ブラド王太子を幼い頃から教育をした。

ガルド王国の為に、ブラド王太子を必死になって育てた。


だから、彼がやらかすとは思わなかったのだ。




ブラド王太子が、17歳になった頃、彼にはすでに婚約者がいた。アルデミーナ公爵、フェリーシアの兄の娘である、レティシア・アルデミーナである。


二人の仲は良好で、フェリーシアも安心していたのである。

父の跡を継いで、宰相になる予定の兄、アルデミーナ公爵家は王家と密接に関わる事で、更に権勢を強めていた。


王国の貴族が行く王立学園ももうすぐ卒業するブラド王太子。


産みの親のアリンデは涙を流して、


「フェリーシアお姉様。卒業式にはわたくしも行ってよろしいですか?ぜひとも、ブラド王太子殿下の晴れ姿を見たいのです」


「勿論、良いに決まっているわ。当日は国王陛下も王妃様も出席なさるそうよ。わたくし達も是非、ブラド王太子殿下の晴れ姿を見る事に致しましょう」



楽しみに、アリンデと共にフェリーシアは先に出かけたのだ。

ディエル国王とソフィア王妃は所用で少し遅れるとの事。


しかし、突如として、卒業式の式典が始まる前に、皆の前でブラド王太子が宣言したのだ。


「私はレティシア・アルデミーナと婚約破棄をし、マリー・フェッシル男爵令嬢と婚約をする。いや、結婚する」


皆が驚いた。


アリンデが涙する。


「どうして?なんで?レティシア様を捨てて、あの女と?」


フェリーシアが進み出て、問い詰める。


「どういうつもりですの?ブラド王太子殿下」


ブラド王太子は叫んだ。


「皆が私に期待する。ガルド王国の為に立派な人になれと。未来の国王陛下なのだからと。息が詰まる思いだ。フェリーシア。お前だってそうだろう?いつも私に理想ばかり押し付けて。冗談じゃない。私は真に愛するマリーと結婚する。国王になんてなるつもりはない」


ブラド王太子の隣にくっついているマリーという女は、


「えええ?私、王妃様になるの。うんと贅沢をするの」


「何を言っているんだ。私はマリーさえ、いれば何もいらない。頑張る必要はないと言ったのはマリーではないのか?」


「だってぇ。ブラド様って、勉強ばかりしているんだもの。だから、頑張る必要はないって言ったのに」


フェリーシアは、ブラド王太子に向かって、


「許しません。レティシアに謝りなさいっ」


レティシアは冷めたような眼差しで、


「王太子殿下が望むなら、わたくしは受け入れますわ。フェリーシア叔母様」


「レティシアっ」


「このような愚かな方とは知りませんでした。失礼致します」




ガラガラと、今まで積み上げてきたものが崩れていく。そんな気がした。





ディエル国王は、この騒ぎの報告を受けて、ブラド王太子を廃嫡して、マリーの家のフェッシル男爵家にブラドを婿入りさせた。


王家の血を引いている、レイド伯爵家の次男ユリドを、新たな王太子に立てて、なんとか形にし、レティシアはユリドと結婚することとなった。



アリンデは、今回の不始末をディエル国王とソフィア王妃に向かって、頭を下げ、


「わたくしの産んだ子が、とんでもない事を。申し訳ございませんっ。わたくしは責任を取って、死刑でもなんでも罰を受け入れるつもりですっ」


フェリーシアはアリンデと共に頭を下げて、


「アリンデだけの責任ではありません。わたくしもブラド様の教育に関わっておりました。ですから、わたくしも共に罰をお願い致します」


ソフィア王妃は、二人に向かって、


「皆の責任ではありませんか。わたくしだって、国王陛下だってブラドの両親として、彼を導いてきたのですから」


ディエル国王は頷いて、


「皆の責任……そして誰も悪くはない。これからはユリドをしっかりと導いてやればよい」



今回の事で、フェリーシアは疲れてしまった。


今まで、色々と頑張って来た。

王家の為に、国の為に……ソフィア王妃の力になってきた。


何だかもう、だから、ディエル国王陛下と、夜を過ごす時に申し出たのだ。


「わたくしは王宮を去りたいと思います」


「どうしてだ?私を愛しているのではなかったのか?」


「疲れましたわ。王国の為、今まで頑張って参りました。でも、今回のブラド様の騒動で、今までの努力はなんだったのかと」


「ユリドをしっかりと育てればよい。15歳。まだまだ発展途上だが、彼は優秀だ。良い国王になるだろう」


「わたくしは、貴方に愛して貰いたかった。本当は唯一になりたかったのです」


「だから、それは王国の為、謝ったではないか」


「わたくし、知っておりますのよ。隣国との婚姻の話、本当は隣国からの申し出ではなくて、あらかじめ内密に両国で話し合って決められていたという事を」


「何故?そのことを知っている?ソフィアが言ったのか?」


「いえ、ソフィア様は何も……お父様がわたくしにこの間、教えてくれたのですわ。ソフィア様を娶りたい話を内密に進めていたのは、貴方様の強い希望もあったとか。わたくしを捨てる予定だったのですね」


「いや、そんな事はない。そなたなら、必ず、私の側妃になって力になってくれると信じていた」


ディエル国王陛下の上に馬乗りになる。


「酷い人。わたくしなんて元々、愛されていなかった。ただ、利用するだけの女だったんだわ」


ディエル国王は、フェリーシアを見上げながら、


「そなたは感情の起伏が激しい。そんな女に王妃が務まるか。だから、内密に隣国のソフィアとの話を勧めていた。ソフィアは、王妃に相応しい器と威厳を備えている。私は間違ってはいなかった。ただ残念なのは、ソフィアに子が出来なかった事だ。更に隣国との絆が深まったはずなのにな。仕方がないからお前の派閥の娘の子で我慢したんだ。アリンデの血が悪かったせいか、息子もとんでもない事をしでかしたがな。私に必要な女は役に立つか立たないかだ。愛なんぞくだらない」


「わたくしは、それでも、貴方様とソフィア様と共にあった事は幸せでしたわ。飢饉があった時、皆で力を合わせて対策を考えましたわね。隣国とのいさかいがあった時、ソフィア様が懸命に説得して下さった。何もかもこのガルド王国の為……子が、ブラド様が産まれた時、この子に未来を託すのだと、皆で一生懸命、ブラド様を可愛がって導いた。そんな日々は、幸せで、わたくしは貴方と共にあった日々が、とても愛しくて……」


涙が止まらない。


ああ、お願い、わたくしの事を否定しないで。わたくしの想いを否定しないで。



ディエル国王は一言。


「お前は役に立ってくれた。これからも役に立ってくれるのだろう?私の事を愛しているのだからな。当然だろう?」


ああ……この人は駄目だ……わたくしはもう……





「フェリーシアお姉様ぁ。良いお天気ですね。」


「本当に、久しぶりに青空を見たような気がするわ」



ゆっくりと走る馬車に乗るフェリーシア。

護衛の騎士達が周りを囲んで、安心できる道のりである。


馬車の窓から、空を眺めれば、透けるような青空で。



ソフィア王妃に相談したら、しばらく旅行をして来たらどうかと、勧められた。


そして、ソフィア王妃も何故か、一緒に馬車に乗っている。


「わたくし達は走り過ぎたのですわ。少しは休憩が必要ではなくて?」


アリンデも頷いて、


「そうですね。王妃様。ゆっくり温泉にでも入ってのんびりしましょう」



ソフィア王妃と、アリンデに愚痴を言ったらすっきりした。

ソフィア王妃は泣いて謝ってくれた。


両国の為にと言われたら断れる立場ではなかったと。


あの男は許せないけれども、ソフィア王妃に頭を下げられては、仕方がないとそう思えた。


王宮を出て行きたかった。でも、なんだかんだと言っても、まだまだやることがある。ソフィア王妃に引き留められて、王宮を出ていけなくなった。


ソフィア王妃は伸びをして、


「少しの間、仕事の事は忘れましょう。温泉楽しみだわ」


アリンデも頷いて、


「美味しいものも沢山食べましょう。ね?お姉様」


フェリーシアは二人に向かって、微笑んで、頷いた。




ユリド王太子は優秀で、レティシアとの仲も良好で、二人は程なく結婚した。



それから、数年が経った。ユリド王太子も大分しっかりして来た頃、ディエル国王が身体に不調が見られ、国王を退位した。

若いユリド王太子が急遽国王になったけれども、まだまだ元気な父や、宰相を務めている兄がいるので、王国の事は安心である。


ディエル国王が退位したので、フェリーシアは決意した。


フェリーシアは病床に臥せるディエル元国王に、


「わたくしの役目は終わりました。わたくし、役に立ったでしょう。有難うございました。ディエル様」


ディエル元国王は慌てたように、

「お前は私を見捨てるのか?私を愛しているのではないのか?」


「国王陛下として、役に立ったから愛していたのですわ。役に立たなくなったディエル様への愛は無くなりましたの。さようなら。ディエル様」


そう言って今度こそ、未練一つ残さずに王宮を去った。

しっかりと今後に困らないお金を貰って。


小さな家を一軒買って暮らしていたら、ソフィア元王妃と、アリンデが押し掛けてきた。


「わたくし達も役目が終わったので、一緒に暮らしてよろしいかしら?」


「女三人、楽しく暮らしていくっていいと思いますわ。フェリーシアお姉様」


三人で、色々な所へ出かけて、色々と経験をし、楽しく暮らした。



歳を取って死ぬ時にフェリーシアはソフィア元王妃とアリンデの手を握り締めて、


「恋は叶わなかったけれども、わたくしの人生で、ソフィア様とアリンデに出会えたことは大きな財産でしたわ。有難うございます」


人生に悔いはない。そう思えた。


病ではるか前に亡くなったディエル元国王、久しぶりに彼の事を思い出して、ばかばかしくなり、笑えた。


なんであんな男が好きだったのか。なんであんな男に尽くしたのか……

でも、ソフィア様やアリンデが一緒だったから寂しくなかった。

皆で走った人生は悪くはなかったわ。


わたくしの人生に悔いはない。


さようなら、好きだった人……

来世では絶対に貴方に恋は致しません。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 女の友情で救われました。 [一言] 面白かったです。
[一言] 尊い。
[一言] 国のトップとしては正しい判断なんですけどね。 ディエル元国王ちょっと可哀想かな? 愛情を受けるような生い立ちでは無かったのかな?
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