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冒険者と資本の論理  作者: 無虚無虚
社畜軍師
3/11

社畜軍師パウラ 前編

 パウラです。実は転生者です。転生特典(チート)はもらえなかったので、冒険者ではなくギルドで受付嬢をやっています。

 冒険者ってアクの強い人が多いんです。そのせいかパーティー内で内輪もめを起こす人も多いんです。この前も〈竜の心臓〉というパーティーでクーデター騒ぎがありました。リーダーだった人が追い出されたんですけど、その人がパーティーのお金を出していたので、追い出した方も散々な目に遭いました。

〈竜の心臓〉は金等級という高ランクのパーティーだったので、ギルド長もこの件は問題視していました。そこでギルド長はギルドの主要なメンバーを集めて、再発防止策を検討する会議を開いたんです。

「事前に通知した通り、今日の議題は〈竜の心臓〉の再発防止策の検討だ。あのような事件がたびたび再発しては、ギルドとしては困る」

 会議の冒頭でギルド長は、そう議題を説明しました。

「あの事件はかなりのレアケースだと思いますが」

 事務員のトップのランツェルさんがそう答えます。

「親方でもないのにベルトールが一人で赤字を被っていて、そのことを他のメンバーに伝えていなかったのが原因でしょう。そんな酔狂な代表なんて、他にはいないでしょう」

「そもそもベルトールが金等級の代表をやっていたのが間違いだ」

 こちらは冒険者の代表のレゴールさんの発言です。

「実力に見合わないパーティーの指揮をとれば、おかしくなるのは当然だ」

 レゴールさんは〈天使の翼〉という金等級パーティーの親方で、実力のある冒険者です。

 お二人とも一見もっともらしい意見ですね。でもギルド長の意見は違うようです。

「なるほど。パウラくんはどう思うかね?」

 なんで私に話を振るんですか! まあ、お二人と直接バチバチやりたくないのは分かりますよ。お二人ともギルド長の椅子を狙っている実力者ですからね。ここで関係をこじらせると、ギルドの運営に悪影響が出そうですからね。でもバチバチしたくないのは、私も同じなんです。

「まずレゴールさんにお伺いしたいんですけど、金等級の代表に相応しいのはどういう方なんでしょう?」

「そりゃ、強い冒険者に決まっているだろう」

「では、ベルトールさんの後釜になったヘルムさんはどうだったんでしょう? 実力はあったと思いますけど、〈竜の心臓〉を潰しちゃいましたよね」

 私がそう訊いたら、レゴールさんは不機嫌な顔になりました。レゴールさんに嫌われるのは嫌ですけど、今のギルド長に干されるのはもっと嫌なんです。

「……ヘルムは金がないのに親方になったのが間違いだ」

 それは間違ってないと思いますけど、共同経営方式でもヘルムさんが代表になったでしょうし、やっぱり〈竜の心臓〉を潰しちゃった気がします。

「パーティーの代表と仕事中のリーダーは、一致した方がいいかもしれませんけど、人には向き不向きがありますから、必ずしも一致しなくてもいいんじゃないでしょうか」

「それはどういうことだ?」

 レゴールさんに凄まれちゃいました。パーティーの名前は〈天使の翼〉ですけど、レゴールさんは凄い強面なんです。対面で対応しようとした新人の女の子が泣き出したこともあるんです。私は視線でギルド長に救いを求めましたが、ギルド長には冷たい視線を返されました。自分でなんとかしろということです。

「戦闘の指揮と運営の両方が得意な人って、そんなに多くないと思うんです。それならパーティー内で分業してもいいんじゃないでしょうか」

「パウラくんの言いたいことは分かるがね、〈竜の心臓〉はベルトール以外のメンバーが運営に無関心だったのがいけなかったのだよ」

 私に話を振ったギルド長にもダメ出しされちゃいました。ギルド長の言いたいことも分かるんですけど、前世の記憶では、それは必ずしも上手くいかないんですよね。社員にも経営者の感覚(センス)を求めた経営者がいましたけど、そういう経営者にもなれるスーパー社員ばかり集めても会社は上手くいきませんし、そもそもスーパー社員を集めること自体が難しかったんです。

「運営に関心を持つということと、直接運営に携わるということは、必ずしも同じではないと思います。メンバー全員がパーティーの状況を知ることは必要ですが、全員が運営に口出ししたら、かえっておかしくなりませんか」

 私がそう答えたら、ギルド長は「ふむ」と言って考え込んじゃいました。

「パウラくんは戦闘中のフォーメーションのように、パーティーの運営も分業体制を築くべきだと言うのかね?」

 私のボスのボスのランツェルさんに訊かれました。

「全てのパーティーがそうする必要はありませんが、そういうパーティーもアリではないでしょうか」

「君の言い分も、もっともらしく聞こえるな」

 そう答えたランツェルさんは、チラッとレゴールさんの方を見ました。ギルド長の椅子を狙うライバルへの牽制のつもりでしょうか。そういう争いに巻き込まれたくないんですけど。

「話を元に戻そう」

 ギルド長が仕切り直しを試みます。

「〈竜の心臓〉の問題は、代表だったベルトールが原因だというのが二人の意見だな。私もそれは否定はしない。運営のやり方が問題だというのがランツェルの主張だな。それに対しレゴールは、クーデターを許した力量不足が問題だと考えているわけだ」

 さすがはギルド長、まとめと仕切りが上手いです。私に話を振るのをやめてくれると、もっといいんですけど。

「その通りだ。さっきも言ったがレアケースだから、再発のおそれはないし、再発防止策も必要ない」

「ベルトールがきちんと後継者を指名して育てていれば、あの追放劇はそもそもなかったんだ」

 お二人の言うことはもっともですが、ギルド長の意図を正しく読み取れていない気がします。そもそも読む気があるのか怪しいですが。

「私としては、全てのパーティーが健全な運営をしなければならないような、新しい制度を創りたいと思っているのだ」

 出席者が自分の意図を汲んでくれないことに焦れたのか、ギルド長が説明しました。最初からそうしていればよかったと思いますけど、下っ端の私はそんなことは口に出せません。

「どうやったら、そんな制度ができるのかね?」

 レゴールさんが半分バカにしたような調子でそう言います。

「そのための知恵をみんなに出して欲しいんだ」

「そう簡単に言われましてもね」とランツェルさん。「誰か知恵を出せるかね?」

 全員下を向いちゃいました。

「やはりそんな制度を創るなど、無理だな」

 レゴールさんがダメ押ししようとしたのですが、ギルド長はまたとんでもないことをしてくれました。

「パウラくんは何かアイディアがないのかね?」

 だからなんで私に話を振るんですか?

「……全くないわけではないんですが」

「話してみたまえ」

要点(ポイント)は二つあります。出資のルールの変更と、返金のルールの変更です」

「それで?」

「まず返金のルールですが……」

「返金? まずは出資ではないのかね?」

 レゴールさんにツッコまれちゃいました。

「返金のルール変更の方が簡単なので、そちらを先に説明します」

 そう答えて一拍置きましたが、レゴールさんを含め誰からも異論が出なかったので、説明を続けます。

「出資したメンバーが脱退する時に返金する金額は、出資した金額ではなく、現在のパーティーの資産に出資比率を掛けた金額にするのはどうでしょうか?」

 私がそう言っても、すぐには誰も発言しませんでした。みなさん私の提案の意図を考えているようです。

「その変更にはどのようなメリットがあるのかね?」

 ちょっと経ってから、ギルド長が質問しました。

「パーティーが赤字になりますと、出資したメンバーは潜在的に損をします。パーティーを脱退するときに、返ってくるお金が減りますから」

「ふむ、パーティーに在籍している間は損をしないが、辞めなければならなくなったときに損をするから、『潜在的な損』というわけか」

「はい。誰でも損をするのは嫌ですから、出資したメンバーは赤字を回避しようとするはずです」

 私がそう言ったら、出席した人たちのほとんどは腑に落ちたようです。

「それに大口の出資をしたメンバーが急に辞める場合でも、パーティーの資産を処分すれば必ず返金を捻出できますから、残ったメンバーは借金をしなくてすみます。パーティーが続けられなくなるほど、苦しくなることは避けられます」

「だがヘルムのやつは資産を処分しなかったせいで破産したな」とレゴールさん。

「さすがにそれは判断ミスによる自業自得でしょう。制度でそこまで救済するのは無理があります。無能なリーダーが無謀な運営をしたパーティーは、素直に潰した方がいいと思います」

 前世でいうところのゾンビ企業ですからね。

「それが金等級でもかね?」

 レゴールさんのこの発言には、〈竜の心臓〉の破綻を回避できなかったギルド長への当てつけが混じっているような気がします。

「金等級でもです。金等級なら優秀なメンバーが揃っているはずです。そういうメンバーこそ、健全な運営をしているパーティーに移籍してもらうべきです」

 そう言ったら多くの出席者が納得した顔をしてくれましたが、レゴールさんには嫌な顔をされちゃいました。私は悪くないですよ!

「なるほど。パウラくんが言いたいことは大体分かった。誰か質問はあるかね?」

 ギルド長がみんなにそう訊きましたが、誰も質問はしませんでした。

「では出資のルールの変更について説明してくれ」

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