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Act3 姉のラストメッセージ 【まだらの紐】

姉の残したラストメッセージ”まだらの紐”とは一体?!

早朝、恐怖に震える依頼人の女性が現れます。

双子の姉を襲う、不気味な夜の口笛。

姉の残した謎の言葉”まだらの紐”の正体に、探偵とその助手が立ち向かいます。

「起きたまえ、スフレ君」


赤岩タルトの声だ。

4月初めのある日曜日の早朝、RR探偵事務所のソファでうたた寝をしていた青山スフレは、その声に目を覚ました。


「むにゃむにゃ・・・なんですかぁ?火事ですかぁ?それともモニュマミュニュ星人が侵略してきたんですかぁ~?・・う~ん・・・むにゃむにゃ・・」

「寝ぼけてる場合じゃニャいのニャッ!」


バリバリバリバリバリバリ

エ・クレア助手の必殺☆猫ばりばりが炸裂する。


「いや、依頼人だよ。若いご婦人が僕に依頼したい、と。君が来客用ソファを占領してしまっているから玄関先で待ってもらっているんだ。さっさとどきなさい」

「むにゃむにゃ・・・もう5分だけ・・・あと、そこの河原で拾ってきた変な形の石を1つ頂上に乗せたら、サグラダファミリアが完成するんですぅ・・・140年余りの長い戦いにやっと終止符が・・・むにゃむにゃ・・」

「一体どんな夢を見てるんニャ」


バリバリバリバリバリバリ


「はい、起きましたっす」


青山スフレは目を覚まし、上半身を起こす。

赤岩タルトの言う通り、玄関先には黒い服に身を包み、顔には厚いベールをかぶり、大きなキャスター付きスーツケースを引きずった1人の婦人が立っていた。


「おはようございます」


赤岩タルトは婦人に向かって朗らかにあいさつをする。


「僕がここ、RR探偵事務所所長の赤岩タルトです。こちらは助手のエ・クレア。おしゃべりにゃんこで優秀な探偵ですので、彼にも私と同じように自由にお話して頂いて結構ですよ」


婦人はちらっと、顔中傷だらけでソファから立ち上がりよだれを服の袖で拭いている年若い女性の方を心配そうに眺めたが、所長からは彼女の紹介は何もないようなので、視線を所長と猫探偵の方に戻した。


「あ・・はい。よろしくお願いします。ホームズさんと・・それとワトソンさんですね」

「違います」

「何を聞いてたのニャ?」


また変なのが来たな、と思った赤岩タルトだったが、ふと婦人の様子が気になった。


「ふるえていらっしゃいますね。ペチカを焚きましょうか」

「いいえ。寒くてふるえているのではありません」

「まあ、うち(RR探偵事務所 )にペチカなんて小洒落た物はニャいけどニャ」


「ほぅ。すると?」

「怖いんです、ホームズさん。おそろしくて」

「だからホームズ違うのニャ」


婦人はエ・クレア助手のツッコミにも我関せず、といった様子でベールを上げたが、彼女は実際に気の毒なほどに動揺していた。


「ご安心を」


赤岩タルトは優しく声をかけ、婦人の手を取ったが、


「あ、ワトソンさんの方がいいです」


と、婦人はその手を振り払い、エ・クレア助手の手を取って、その肉球を堪能した。


ぷにぷにぷにぷにぷに


「・・・ま・・まあ・・落ち着いて下さったのなら何よりです・・・とにかく、僕たちがすぐに解決して差し上げますよ。今朝の地球発のハイパースペースシャトルでいらっしゃったのですね」

「え?何故ご存知なのですか?」


「地球人には猫の肉球狂信者が多いと聞いています。あなたが地球人だとすると、こんな朝早くにアース星まで来ることができるのは、地球とアース星を20分で結ぶハイパースペースシャトルに乗るしか方法がありません。前日以前からアース星に滞在しているのならば、そんな大きなスーツケースは宿に置いてくるのが普通で、持ち歩いたりはしないものです。故に、あなたは今朝シャトル駅から直接ここにやって来たと推理しただけですよ。ふっ」

「また始まったっすね。所長のドヤ顔推理」

「いつも通り放っておくのニャ」


青山スフレとエ・クレア助手がささやき合う。


「おっしゃる通りです。わたくしはもうこれ以上耐えられません。頼れる人もなく、このままではおかしくなりそうで。そんな中、全宇宙タウンページ(インターネット版)でこちらの事務所を見つけて・・・ホームズさん、どうかわたくしを助けて下さいませ!」


婦人は話を続けた。


「わたくしは平連へいれん 素都菜すとな、地球の日本人です。今は母の再婚相手である義理の父の路井ろい 郎斗ろうと博士と暮らしています」

「ヘレン・ストーナー・・?」

「ロイロット博士・・・?」

「ニャんだかどこかで聞いたことがあるようニャ・・・」


「いえ、平連素都菜と路井郎斗です。路井家は日本でも古い得川とくがわ家系の末裔で、一時は一族も裕福でした。領地の広さは・・・」

「ちょっと待って、ちょっと待って」


依頼人、平連素都菜は赤岩タルトに話を遮られ、一瞬眉をひそめた。


「なんでしょうか」

「え・・と、失礼ですが、その話・・・・長くなりますよね?」


「ええ、まあ。それなりには」

「すみませんが、190文字以内(句読点・記号含む)でまとめて下さいますか?」


依頼人、平連素都菜は赤岩タルトに無茶ブリされ、あからさまに眉をひそめた。


「わかりました。では簡潔に。路井家は現在落ちぶれています。郎斗は開業医で、私の母と再婚したのですが、下着泥棒をして懲役20年の刑に服し、財産も失ってしまいました。母は元々大金持ちで、亡くなった今でも月々一定の額の収入があります。そのお金は、私と私の双子の姉が継父ちちの郎斗と一緒に暮らしている間は郎斗の好きなように使えるのですが、私たちが結婚して家を出たら、お金は姉妹のみに分配されるという契約になっているのです」

「やっぱりどこかで聞いたような話なのニャ」

「そのようだね、ワトソン君」

「私は聞いたことないっすね」


素都菜は話を続ける。


「母が亡くなってから継父の様子が変わってきたのです。人と付き合うのを異常に嫌がり、駅前で煙草の吸殻ゴミを1万本拾う事を条件に懲役20年ところを20時間に短縮されて出所してきたことを喜ぶ近所の人たちにも関わることなく、引きこもりニートになってしまい・・」

「ちょっと待って、ちょっと待って」


「なんでしょうか」

「え・・と、2度目ですが、その話・・・・長くなりますよね?」


「ええ、まあ。それなりには」

「すみませんが、次は230文字以内(句読点・記号含む)でまとめてもらっていいですかね?」


「わかりました。では簡潔に。2年前に姉が婚約しました。わたくしどもの家は1階に寝室があり、1番目が郎斗、その隣が姉、次が私の寝室、というように並んでいます。ある日姉が、『夜中に誰かが口笛を吹いているのが聞こえる』と言い出したのです。私には聞こえませんでした。郎斗は動物好きでして、自室でぬえと人面犬を飼っているので、私たちは寝室に必ず鍵をかけて寝ています。その夜更け、姉の叫び声が聞こえました。私が駆けつけると姉はひどくおびえていて、私に『素都菜!紐が!まだらの紐が!』と叫んで倒れたのです」

「ここまで聞いてみても、どこかで聞いたような話なのニャね、ホームズさん」

「まぎれもなくね」

「私は聞いたことないっすけど・・・それで、お姉さんはどうなったんですか?・・・も・・もしかして・・・」


青山スフレが身震いする。


「また、うち(RR探偵事務所 )では取り扱いのできない案件なのニャ」

「平連さん、ここまでお話しいただいて恐縮ですが・・・」


赤岩タルトはそう言って依頼を断ろうとしたのだが、その言葉を聞いてか聞かずか、素都菜は平然と語り続ける。


「姉は倒れた後すぐに立ち上がり、コサックダンスを踊りながら家を飛び出し、婚約者とは別のモニュマミュニュ星人の男性と駆け落ちして、今はモニュマミュニュ星で仲良く暮らしています。そのモニュマミュニュ星人は隣のゴボンガバンダン星でレアメタルの鉱脈を発見したことで莫大な財を成した人なので、姉は母の遺産相続を放棄したのです」


「・・・そうですか」

「お元気そうで何よりですニャ」

「レアメタルって何っすか?」


青山スフレの疑問はこの場にいる全員が無視をして、素都菜は話を依頼の本筋へと突入させる。


「それで今回、私にも縁談の話が持ち上がりまして」

「それはおめでとうございます」


3人(正確には2人プラス1にゃんこ)が祝福の言葉を投げかける。


「お相手の方は裕福な家庭の方ではありませんが、私には本来姉の分だった遺産も入ってきます。なので生活には困らないのですが・・・ですが・・」

「どうぞ続きを!」


言いよどんだ素都菜に顔を近づけ、青山スフレが文字通り前のめりになって話を促す。


「先週、私の寝室にロケットランチャーが飛び込んできて、壁に穴をあけてしまったので、今、私は姉が使っていた寝室を使用しているんです」

「ロケットランチャー?!」


「それはまあ、隣の家の子供が照準方向を間違えてしまっただけの可愛い失敗だったのでいいんですけど」

「よくないですよね?!」

「そんな至近距離からロケット弾撃ち込まれたのに、1部屋の壁だけで済んだの奇跡じゃニャイ?」


「いえいえ。ロケット弾ではなくてロケットランチャーが飛んできたんですよ」

「まさかの本体?!」


「それよりも問題は、今、私が姉の部屋を使っているという事なんです」

「そうかなあ・・・?」


「この前の晩、あの悲劇の前触れとなった口笛が!あの口笛が私にも聞こえたのです!!!ああ!何という事!!」


突如、平連素都菜は舞台女優のような大げさな言い回しと身振りで訴えかける。


「突然どうしたニャ」

「・・・悲劇ってあったっけ?」

「ロケットランチャーの件じゃないっすかね?」


「あの、姉の最期の夜の・・・」

「駆け落ちして出ていった最後の夜ですよね」

「“期”ではニャく“後”なのニャ」


前にも述べたが、アース星人は、口から発した言葉の文字種(ひらがな・カタカナ・漢字等)や文字そのものを認識することが可能なのである。


「姉が発した『まだらの紐』が何なのか・・・もし姉が駆け落ちをせずにあの家で過ごしていたらどうなっていたのか・・・そして、この先、私の身に何が起きるのか・・・心配で心配で、いてもたってもいられず・・・床下収納に隠していたらあめんババアと5/8チップとチェルシーを食べながら、初回から全話録り貯めしていたサザエさんを見て、今度ピアノ発表会で披露するエリック・サティのヴェクサシオンを通しで弾いて、それからインターネットで相談できそうな探偵事務所を調べてここに来たんです」

「結構余裕があったのニャ」


「あ、さくらんぼの詩も食べました」

「心底どうでもいい」


話を聞いた赤岩タルトは、この依頼を受けることを決めた。

スタッフ3人で打ち合わせをしてから依頼人の家に向かう事にして、依頼人平連素都菜は先に地球の家に帰り、昼過ぎに探偵達が邸を訪問する手筈を整えた。

地球行きのハイパースペースシャトルの運賃は高額だが、必要経費として依頼人に先払いしてもらった。


「・・さて、と。今の話、どう思うかい、ワトソン君」


赤岩タルトはエ・クレア助手に聞いた。


「私には非っ常~~に暗くて悲惨かつ邪悪で十分に凄惨な事件だと思います!!」

「君には聞いてないよ、スフレ君」

「今の話のどこが悲惨かつ邪悪で凄惨ニャのかね」


「自宅にロケットランチャーが突っ込んでくるなんて残虐極まりないっすよ!」

「そこはいいんだよ」

「依頼者本人も特に気にしてなかったのニャ」


「それと、所長がホームズなら当然この私、ハイパーキュートスマートピチピチ女子大生腕利き探偵助手である青山スフレさんがワトソンでしょうよ!」


「さて、エ・クレア君。話を戻すけど、君はどう思う?」

「ウニャ。答えはもうわかっているのニャ」

「ちょっと!!無視しないで下さいよっ!!」


「でもスフレ君。君、ホームズとワトソンは知っているのに、今回の謎についてはピンときていないようだしね」

「え?今回の謎ですか?」

「そうニャ。『まだらの紐』の正体についてなのニャ」


「・・・え・・・と。わかりません」

「だよね」


「スフレはシャーロック・ホームズシリーズ、読んだことあるのかニャ?」

「探偵が灰色の脳細胞で、その友人で大尉の助手がいて・・」

「それ、別の著者の別の話なのニャ」


赤岩タルトはふと、ある事実に気付いて後悔した。


「ついうっかり依頼を引き受けちゃったけど・・・・今思うとダメだよね、これ解決しちゃ」

「はいニャ。本家の盛大なネタバレになっちゃうのニャ」

「うーーん。著作権切れてるっぽいですし、無料公開されてますし、有名な話でオチはみんな知ってるみたいですからいいんじゃないっすかね?私は知りませんでしたけど」


青山スフレがスマホで調べながらつぶやく。


「わざわざ依頼者の家に行かなくてもこの場で真相を教えてあげても良かったのではニャイかな」

「まあ、そうなんだけどねぇ。交通費依頼者持ちでついでに地球観光できるからいいかなってね」

「私、ハイパースペースシャトル乗るの初めてっす!わくわくしますねっ!」



~~~~~~~~


そんなこんなで地球の日本に降り立った3人(正確には2人プラス…略)は、さっそく依頼人平連素都菜の家に向かった。


「博士が探偵事務所に乗り込んでくるくだりが端折られたね」

「あまり重要なシーンでもないからニャ」

「何の話ですか?」


「お待ちしていました」


素都菜は3人(正確には…略)に駆け寄り、すがるような面持ちで出迎えてくれた。


「継父は出かけていて、夕方まで帰っては来ません」


そう言って、探偵陣を家の中に案内してくれる。

家は苔の生えた石造りで、中央部が高い塔のようになっていて、左右の棟が翼のように伸びている洋風の建物だった。地球の日本にしては珍しい造りの家だ。

素都菜の話にあったように、1階には端から素都菜の寝室、今は嫁いで家を出ている素都菜の姉の寝室、現当主の路井郎斗の寝室といった3つの部屋が並んでいた。

なるほど素都菜の部屋の壁には大きな穴があいている。

応急措置としてサシャ・ジャフリ《The Journey of Humanity》(絵画)のレプリカをガムテープでくっつけて塞いであるが、これでは到底寝室として機能しないのも納得である。

今、素都菜は自室の隣、3つ並んだ寝室の中央にあたる元々姉の寝室だった部屋で過ごしているという。


早速全員でその部屋に入る。

部屋の中は質素で天井も低い。茶色の箪笥、化粧台、籐の椅子など、家具もシンプルだった。

青山スフレは、ごちゃごちゃした自身のおんぼろアパートの部屋と様相の違う、さっぱりとした部屋の様子に、きょろきょろと落ち着かない様子だったが、赤岩タルトはさっと視線を上に持っていき、明らかに何か目的の物を探している様子だ。


「所長、何を探してるんっすか?」

「・・・うん。呼び鈴をね」

「呼び鈴のロープを探してるのニャ」


「呼び鈴・・・ですか?」


素都菜が不思議そうに尋ねる。


「家政婦の部屋に通じている呼び鈴の紐ですよ。家政婦さんを雇っておいでですよね」


赤岩タルトはそう言ったが、


「はい。お手伝いの方は時々来てもらっていますが、家の中の連絡はこのインターホンでできますので」


素都菜は壁に備え付けられたコンパクトな機械を指し示して答えた。


「今時、呼び鈴って・・・ぷぷ。ないっすよ、所長。いつの時代なんっすか」

「そういえばそうニャのね、タルト所長」

「むぐぐぐぐ・・・・」


その時、床を眺めていたエ・クレア助手が、あるものに目を留めた。


「ンニャ?これは何かニャ?」


床の隅の方に、四角く縁どられた扉のようなものがあった。


「ああ、それは床下収納です。全員の寝室にあるんですよ。そんなに大きくはないのですけど、結構便利なんです」


赤岩タルトは素都菜に許可をもらい、その収納を開けてみることにした。


「これは!!」


青山スフレが驚きの声を上げる。

中には、カルパス、ミックスナッツ、激辛柿ピー、あたりめ、小魚アーモンド、いかフライ、やきとり缶などなどがぎっしりと詰まっていた。


「あなたもお姉さんもお菓子好きなんっすね」

「姉は酒豪なので、お酒のつまみになるものばかりなんです。私は主に製造中止になったお菓子のストック用に床下収納を利用してます。姉は突然家を出て行ったので、ここのおつまみ類もそのままになっているみたいですね」

「・・・そうですか・・」


「ニャ?」


再びエ・クレア助手が目ざとく、あるものに目を向ける。

床下収納の中身は未開封のおつまみばかりだったのだが、1つだけ封を切られた袋が出てきたのだ。

おつまみの入っていた袋のようで、中身は残っていない。


「これはなんでしょうか」


青山スフレが袋をひっくり返してみると、そこにはラベルが貼ってあった。


『お徳用 高級 超ロングチータラ 1200g』


「チータラ?」


青山スフレが呟く。


「チーズ鱈だね。シート状にした鱈のすり身でチーズを挟んだ王道のおつまみだよ」

「オレっちも大好きだニャ!お魚バンザイ!!」

「姉はこれが大好物で、ストックを切らしたことがないって言ってました」


とはいうものの、中身のないこの袋以外にチータラのストックは見つからない。

よくよく調べると、開封された袋の中、隅の方に1本だけ丸まったチータラが残っていた。

青山スフレが取り出して伸ばしてみると、それは超ロングの名にふさわしく、1メートル程もの長さのチータラであった。


「長いっすね~。あ、これ結構お高そうなおつまみっすよ。ほら、パッケージに“厳選された北海道産の新鮮な真鱈をふんだんに使った香り豊かなチータラです”って書いてあります」

「・・・・ん?・・・新鮮・・まだら・・・?」

「超ロングな紐状のチータラ・・・ニャ?」


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・真鱈まだらの・・・・紐?」



その時、寝室のドアを開けて、黒いシルクハットにロングコート、長い脚絆を身に付け、手には狩猟用の鞭を持った大男が突然入ってきた。


「お義父とうさん!」


素都菜はその男の登場に驚き、思わず大声を出してしまう。

男は部屋の中の面々をぎろりと見回すと、


「おやおや、お客さんかい。こんなところでどうしたんだ、素都菜。客間でお茶でもお出ししなさいや。さあ、お客人、どうぞどうぞ」


と、相好を崩した。


「「「・・・え?」」」


あっけにとられる探偵陣。

その男、路井郎斗は探偵陣のうち、1人の女性の手許に目をやり、そこにチータラの空き袋を認めると、「あちゃー、見つかったかー」と顔を手で覆ってしまった。


「いえね、そのつまみはこの素都菜の姉の樹利亜じゅりあの虎の子でしてね。ほんのちょっとだけ拝借しようとこっそり食べたんですが、うますぎてやめられなくてですね、とうとう1袋全部あけちゃったんですわ。そしたら、チータラがなくなってることに気付いた樹利亜がショックで家を出ましてね。今は結婚して別の星で暮らしているのでなかなか謝る機会もなくて、どうしたもんかと悩んでいたところなんですわ」


郎斗の突然の自白に、素都菜が反応する。


「・・・じゃあ、姉さんの最期の言葉は・・」

「最“後”ニャね。樹利亜っちの最後の言葉は『素都菜!紐が!まだらの紐(チータラ )が!なくなってしまったの!』・・・って事なのニャ。・・・・ニャにがニャんだか・・」


郎斗は、義娘が隠していたチータラを勝手に食べてしまい、謝る機会をも失った事を相当悔んでいるようで、


「こういった相談ができるところをスマホで検索していたら、『どんなご依頼でもお気軽に!おしゃべりにゃんこ在籍の我がRR探偵事務所に今すぐご相談下さい!』というサイトを見つけたんですわ。猫のイラストに“探偵ニャイトスクープ”にお任せあれ!!“と書いてあったんで、今度連絡してみようと思っていたところでした」

「・・・うちのホームページ・・だよね」

「はい。私が管理を一任されているRR探偵事務所のサイトっすね」

「ニャんだかニャア・・」


脱力する一同。

その時、赤岩タルトが思い出したかのように声を上げた。


「あ!そうだ!口笛は?夜中に聞こえたという口笛は何だったんですか?」


赤岩タルトの問いに郎斗は、


「口笛ですか?・・・ああ、それもわしですな。今度、素都菜のピアノの発表会があるんですが、ヒューマンビートボックスで盛り上げようと練習していたんです。しかしこれがなかなかうまくいかないものでしてね。まいった、まいった、がはははは」


と答えたのだった。

全3章、推理らしい推理をしたかどうかは考えないことにします。

『私と猫と迷探偵と』の方も、同じ主要登場人物3人で似たようなドタバタコメディとなっていますので、もしよかったら読んでやってくださいませ。

最後までお読みいただき本当にありがとうございました。

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