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Act2 メッセージカード&メッセージソング 【怪文、そして現代社会の闇に迫る】

今回の『メッセージ』は、メッセージカードとメッセージソングです。

一体どんな依頼なのでしょうか。

2つの難事件(?)に迷探偵赤岩タルトが挑みます。

「所長、メールでの依頼っすよー」


RR探偵事務所の午後。

青山スフレが、事務所宛てのメールをプリントアウトしたコピー用紙を持って、赤岩タルトの定位置であるデスクに近づいてきた。

RR探偵事務所では、ホームページやSNSを介しての依頼も受け付けている。

そばにいたエ・クレア助手も駆け寄ってくる。


「どんな依頼だい?」

「結婚祝いで貰ったプレゼントに添えてあったメッセージカードが意味不明な文面だったと」


「誰から貰ったのニャ?」

「それが、差出人の名前がなかったそうです」


「宅配便か何かで届いたの?」

「いいえ。出かけようと家から出たら、ドア横に箱が置いてあったそうで。配達伝票は貼ってなかったので、置き配とかではなくて差出人が直接置いていったもののようっすね」


「怪しさ満点だねぇ」

「差出人の名前のない、そんな危なそうな箱を開けちゃったのかニャ?」

「はい。箱に宛名として依頼人の名前が書いてあったみたいっす。手書きじゃなくて印刷したものを貼ってあったようですが」


青山スフレが持ってきたコピー用紙には、依頼人の名前、住所、依頼内容が書かれたメール文書の他に、メールに添付されていたメッセージカードの画像もプリントされている。

カードはごくごくありふれた、結婚祝いに相応しい装飾のされた二つ折りのものだったのだが・・・


「これって・・・」

「ええ」

「ウニャ~」


「文面以前の問題だよねぇ・・」

「はいっす」

「ムニャ~」


メッセージカードには新聞や雑誌から切り抜かれたと思われる、大小さまざまな文字紙片が貼り合わされている。


【こんにちは ノエルちゃん 結婚おめでとう 今度 は ノエルちゃんも ロックは止めて 我と 手を取り いっしょに ルンバしよう】    


「依頼人の名前は保手戸ぽてとノエルさんです」

「なんだか、ムスバーガーが食べたくなってきたな」

「ムスバーガー、今キャンペーン中でセットのポテトが無料でLサイズになるのニャ!ポテトのLニャ!」


「とりあえずこのメッセージカード、なんのこっちゃって感じだね」

「“結婚おめでとう”のところまではよかったんですけどね」

「いニャ。メッセージカードの冒頭に“こんにちは”は違和感ありありなのニャ」


「ロックをめてルンバしよう・・・音楽の事かな?」

「でしょうね。ノエルさんは“ロックンロールだ、シェケナベイベー!”だけど、差出人は、“ロックよりもルンバを踊ろうぜ!ツー・スリー・フォーー!”・・・的な?」

「“ルンバしよう”も不自然な表現ニャ・・・」


赤岩タルトはメッセージカードの画像をじっくりと観察した。

“こんにちは”の部分は1文字ずつ切り取られた紙片を少し端が重なるようにくっつけて貼っているが、その次の“ノ”の文字は少し離して貼ってある。

同じく“ノエルちゃん”も隙間なくぴっちりと貼ってあるが、次の“結”の文字との間にはある程度の空白がある。


「・・・見やすくするために文節ごと・・・いや、意味がわかる程度に区切っているのだとしても、助詞の“は”1文字だけ独立しているのは怪しいな・・・・まてよ。これはもしかして・・・・・ああっ!!!!!!!」

「所長!何か気付いたんっすか?!」


「ああ。この区切れが重要なんだよ。ちょっと見てて」


赤岩タルトはデスクの上のメモ用紙を1枚破り取り、ペン立てから1本のボールペンを取り出して、メッセージカードの文面を、区切れで改行しながら書き出していく。


こんにちは 

ノエルちゃん 

結婚おめでとう 

今度 

は 

ノエルちゃんも 

ロックは止めて 

我と 

手を取り 

いっしょに 

ルンバしよう


「ニャニャッ!!オレっちも解ったのニャ!スフレよ!最初の文字だけ縦に読んでみるのニャ!」

「はい。えーと。こノむすびいまはノロがしゅいル・・・わかりました!『ちょうど今ここにあるおむすびからノロウイルスが発見された』って事ですね!!」

「全然違う・・・てか、“しゅいる”ってなんだよ」


「漢字を元の読み方で読みニャさいよ。何故わざわざ別の読み方するのニャ。『このけっこんはのろわれている』ニャよ!」

「この血痕はノロ割れているですってーー?!ノロウイルスって割れるんっすか?!」

「一切合切違う」


ちなみにアース星人は、口から発した言葉の文字種(ひらがな・カタカナ・漢字等)や文字そのものを認識することが可能なのである。


「『この結婚は呪われている』・・・この不穏な切り抜き文字のメッセージを見た時の直感は当たっていたようだね。これは脅迫状だよ」

「誰かがこの結婚を良く思っていないという事ですか?・・という事は、ノエルさんが結婚生活を進めてしまうと、世にも恐ろしいあんな祟りやこんな厄災が・・・」

「ニャニャ!!ニャニャニャ!!!呪い!祟り!厄災!凶禍!!ニャヌーーーーン!!」


エ・クレア助手は優秀な探偵ではあるが、ホラーが大の苦手だ。


「いや、祟りとかの超常現象に見せかけて、誰かがノエルさんを攻撃する可能性が高い。エ・クレア君、落ち着きなさい。・・・あっ!まさかプレゼントの中身は爆弾だったとかないよね?!」

「いいえ。大丈夫です。中身は普通の家電だったそうです。何か内部に仕込まれている様子もなく、普通に使えているようです」

「だ・・・誰から送られてきたのかわからないものをよく普通に使えるのニャ・・・呪いがかけられてるのかもしれないのニャ・・・」


「でも、どうしましょうか、所長!」

「とりあえず依頼人の保手戸さんとコンタクトをとろう」

「ニャニャニャ・・・呪い・・・祟り・・ブルブル」


カランカラン


その時、喫茶店風のドアベルが鳴り、事務所のドアが開かれた。

入ってきたのは中年の強面男性。

男の顔に見覚えはない。どうやら初めての客のようだ。


「すまないが、審査をお願いしたい」


開口一番、こう宣言する男性。

何故か青山スフレが対応する。


「審査ですか?わかりました。では名前、年齢、職業、自己PRと、それから課題曲の『初音ミクの分裂→破壊』を歌って下さい」

「何の審査ニャッ?!」


「もちろんミスコンっす」

「せめてミスターコンにしなさいよ。てか、ミスコンに歌の審査あったっけ?」


「なら、新人歌手オーディションっすね」

「うちが何の事務所かご存知かニャ?」


いつものようにお客さんそっちのけのドタバタを展開する探偵陣だったが、直立不動の男性客は意外な台詞を口にした。


「うむ。当たらずとも遠からずというところだな。さすが名探偵と噂されるだけのことはある」


「・・・え?どういうことっすか?」

「“名探偵”などと噂された覚えはニャイのだが」

「ツッコむ所そこじゃないよ。エ・クレア君」


強面男性客はスーツの胸元にすっと手を入れる。


「け、け、拳銃っ?!」

「ま、ま、待ってください!落ち着いて!!」

「ニャニャニャニャーー!!」


慌てふためく探偵陣を尻目に、男性が取り出したのは・・・


「・・・ハーモニカ?」


青山スフレが、銀色に光るその楽器を凝視する。


「うむ。実は今ヤングに流行のメッセージソングというやつを作ったのだ」

「へえー。メッセージソング・・・・って何すか?」

「歌詞の中に社会問題とか、聞いている人に訴えかけたい事柄を盛り込んだ歌の事だよ」

「ヤングに流行してるかニャア・・・?」


「それでは聴いてもらおう。『♪理不尽なこの世の中♪』」

「いやいや!誰も聴くとは言ってないっす!」

「強引すぎる!」

「だから、うちは芸能事務所じゃニャいんだってば!」


必死で止めにかかる探偵陣をガン無視し、男性は手に持ったハーモニカを傍らのテーブルに置いてアカペラで歌い始める。


♪君はいつもそこにいる~ 赤いキャップを目深にかぶり~

♪寒さに震えた白い顔~ そうさ君はマヨネーズ~マヨネーズ~

♪冷蔵庫の扉の近く~ 僕は君の行く末を~ 見届けたいと思うんだ~

♪なのに君はいじわるで~ キャップに隠れたネジ頭~

♪いつもそこに隠してる~ 微妙にマヨを隠してる~ 

 

♪出ない出ない! マヨが出ない!

♪ギザギザ部分の マヨが出ない!

♪絞り口にひっかかり 残ったマヨが出てこない!

♪酢を入れて振る? そんなの味が変わっちまう!

♪ハサミで切って掬い取る? ハサミが汚れてめんどくさい!

♪ネジの部分を押して押して 無理矢理出そうとしたならば

♪硬くて指の骨折れた!!


♪こんな腐った世の中~ 俺の心も腐りきる~ あゝ食品加工メーカー~


「どこが社会問題なんっすか?!」

「僕に聞くなよ!」

「ハーモニカ吹かんのかいニャ!」


♪俺はしがない企業戦士~ きしんだ体に鞭を打ち~

♪車走らせ 会社へと~


「まだ続くの?!」

「まさかの2番」

「もうやめてニャーーー!」


♪俺の通勤ルートにゃ~ 110メートルおきに信号が~


「信号の間隔短くないっすか?」


♪青が2分で黄色が5秒~ 赤は40秒点灯~

♪どの信号も同じタイミングで切り替わる~

♪赤信号で止まった俺は 青になったら 即フルスロットル~

♪次の信号 赤で止まる~

♪青になったら 即フルスロットル

♪再び信号 赤で止まる~


「青は2分点灯なんっすよね?フルスロットルで飛び出して、110m先の次の信号を青で通過できないって事あります?」

「うーーん。どんな自動車に乗っているのか・・」

「“車”とは歌っているけど“自動車”とは歌ってないのニャね」


♪全ての信号ひっかかる~

♪理不尽なこの世の中~

♪チャリチャリチャリリ~ チャリチャリリ~


「“チャリ”って言ってますね」

「自転車だったか」

「にしても速度遅すぎやしニャいか?」


♪こんな腐った世の中~ 俺の心も腐りきる~ あゝ国土交通省~


「ご清聴ありがとう」


強面男性客は、やりきった感を全面に押し出した顔つきで、テーブルの上のハーモニカをスーツの胸ポケットにしまった。


「やっと終わったっす」

「メッセージソングとは」

「ハーモニカ、なんだったんニャ?!」


「いかがでしたか」


男性は探偵陣に向かって問いかける。


「・・いかが・・と言われましても・・そうっすね・・・」


と、青山スフレは逡巡していたのだが、赤岩タルトの方は余裕の笑みを浮かべ、男性の方へ1歩近づいて話しかける。


「ご依頼の方、確かに承りました。RR探偵事務所所長の僕、赤岩タルトが華麗に解決してみせましょう」


男性客は、ぱあっと表情を変え、


「よかった。メッセージソングの傑作を生みだしたものの、家内も娘も音楽が分かっていないんだよ。誰か第三者の審査を受けてみたかったんだ。それで、どうなんだ、この歌は」

「はい。まずはですね、信号の距離の間隔が110m、信号の時間の間隔は青・黄・赤で合計2分45秒です」


「・・・は?」

「あなたは毎日全ての赤信号にひっかかる事でストレスがたまっているようです。よって、全ての信号を青で通過できれば、あなたの心が腐る要因が1つ減るわけですね」


「・・・は・・はあ・・?」

「家から会社までの間に信号がいくつあるかは存じませんが、最初の信号が青になった瞬間に車を発進させて、全ての信号を青で通過するためには、110mを2分45秒で走ればいいわけです。これが時速何kmにあたるかは・・・まず110mは0.11kmですね。では2分45秒を“時間”に直すと・・・」.


間髪いれずに青山スフレが手をあげて答える。


「はい!0.245時間っす!」

「違います」


「分数にした方がいいのニャ」

「ぶ・・・分数っすか・・・分数・・え・・と1ぶんの2.45で・・・」


青山スフレは現役女子大生である。


「わかりやすいようにまず“秒”に直すと・・・」

「はい!245秒っす・・・ぐぼっ!!」


エ・クレア助手が青山スフレの口の中に夏みかん大福を突っ込んだ。

ちなみに夏みかん大福とは、夏みかんを丸ごと1こ贅沢に包み込んだ、近所の商店街の和菓子屋で好評売り出し中の大福である。


「うん、165秒だね。1時間は3600秒だから3600ぶんの165時間、これを約分すると240ぶんの11時間になる。0.11kmを240ぶんの11時間で進むんだから、時速は0.11km÷240ぶんの11で2.4。つまり時速2.4kmで進むと、ストレスなく会社に到着することができるのですよ(ドヤ)」

「遅っ!!歩くより遅っ!!こっちの方が余計にストレスかかるっすよね?!」

「青信号になった瞬間に出発して、自動車で時速50kmで突っ切ったとしても、青信号1回の間に信号15個分通過できるのニャ」

「・・・・・・」


依頼人の男性は呆気にとられている。


「いやあ。僕の華麗な推理に言葉が出なくなるのも無理はありません。解決を急ぐあまり、少し早口になってしまったようです。ご要望とあらば後日、今の内容をまとめた調査報告書をお送りするとしましょう。では、新規登録料・出張料(自分のデスクから来客用ソファまで)・調査員人件費(3人分)・資料作成料・調査員のおやつ代(夏みかん大福、その他)もろもろ含めまして、締めて15万2525イィエンとなります。ああ、今キャンペーン中ですので、調査報告書の郵送料はサービスしておきますよ」

「安心・安全・お得で親切!のRR探偵事務所を今後ともよろしくお願いしますなのニャ」

「まいどありーっす」



~~~~~翌日 RR探偵事務所~~~~~


「所長。保手戸ノエルさんからメールが来ています」


青山スフレが赤岩タルトに報告する。


「ああ、そうだった。彼女にはこちらから連絡しようと思ってたんだけど」

「あの後、ストレス蓄積メッセージソング事件の報告書書いたり、早速貰った15万2525イィエンを持って、滞納していた家賃やら光熱費やらの支払いをするために走り回ったりと忙しくしていたからニャ」

「いや~。調査料15万2525イィエンの収入、助かったっすね~」


「それはともかく、保手戸さん、何だって?」

「はい。どうやらあのプレゼントとメッセージカードは、彼女の3歳の甥っ子が贈ったものだという事です」

「ウニャッ?」


「甥っ子はまだ字が書けないので、甥っ子のお母さんにあたるノエルさんのお姉さんが、『新聞や雑誌から切り抜いて貼ればいいよー』って教えたそうっす」

「いや、お母さんが代わりに書いてやれよ」


「何事も挑戦させることが()()という教育方針だそうです」

「もう少しで()()()になるとこだったんだが?」


「にしても、あの文面はニャンだったのニャ?」

「ああ、あれはですね。甥っ子がノエルさんの家に遊びに行ったとき、いつも鍵がかかっている部屋があったそうなんです」


「鍵かい?」

「はい。甥っ子が勝手に入っていたずらしないように、入ってほしくない部屋にはノエルさんが鍵をかけていたらしいんですが、甥っ子はそれが不満だったんですって」

「だから『ロックはやめて』ニャンだな」


「差出人である自分の名前は、単なる書き忘れのようっすね。で、プレゼントの事なんですが・・・」

「家電だって言ってたよね」


「ええ。ロボット掃除機だったようです」

「ロボット掃除機?自動で動いて床掃除してくれるアレだよね?」

「最近、地球からたくさん輸入されて、ジャペンでもどんどん普及してきたアレですニャ」


「ノエルさんはそのロボット掃除機の名前を知らなかったみたいで」

「ロボット掃除機の名前・・・ね」

「ウニャ?!」


「・・・ルンバ・・っす」

「ルンバ」

「でしょうニャ」


「3歳児が自分の事を“我”と表現するのもなかなか渋いっすけど、今回の事件、呪いも脅迫状も関係なく、3歳児が、大好きな叔母さんに一生懸命メッセージカードを作ったっていう、微笑ましいエピソードで終わって良かったっすね!」

「微笑ましい・・・かなぁ・・」

「ニャンだかニャア・・・」

”推理”ジャンルとして大丈夫なのだろうかという一抹の不安が明確な恐れへと変わりつつありますが、この小説は”推理小説”の服を着た”三文コメディ小説”ですので、ご覚悟のうえお楽しみいただけたら幸甚に存じます。

次章もよろしくお願いします。

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