ゆいこのトライアングルレッスンD 〜夏の思い出〜
もう時期夏も終わる。
おれとヒロシの間で浴衣姿のゆいこが花火を見上げて感嘆のため息を漏らす。
『3人で花火デートだね!』
先程まで嬉しそうにはしゃいでいたゆいこの無邪気な笑顔とは打って変わって、儚げな優しい微笑みを浮かべて花火を見上げるゆいこ。
最近めっきり大人っぽくなったその姿になんだか寂しさを感じてしまうのは兄心というものなのだろうか。
ふと視線を感じてゆいこの横顔からヒロシの方を見ると意味ありげな表情で俺を見るあいつと視線が交わった。
真剣なその視線に、ヒロシの意図を汲み取ったおれはゆいこに気づかれないようにそっとその場から離れた。
でも2人のことが気になって、そっと物陰から様子を伺う。
「.....ゆいこ」
「花火、キレイだね〜」
ヒロシの呼びかけに、いつものように明るく答えながらヒロシを見上げたゆいこは、その真剣なヒロシの顔に何かを感じ取ったのか、戸惑いの表情を浮かべた。
「....ヒロシ?」
「ゆいこ、おれさ....」
ヒロシの指がゆいこの頬にそっと触れる。
途端、ゆいこの顔が一気に真っ赤に染まるのが少し離れた俺からも見てとれた。
「あ、あれ?たくみは?はぐれちゃったのかな!?わたし、探してくるね!」
突然その甘い空気を切り裂くようにゆいこが大声を上げて、走り出そうとする。
「待って...っ!ゆいこ....行くな....おれの話し、聞いてくれないかな....」
ヒロシがゆいこの手を掴み、自分の胸に引き寄せる。
「ヒ、ヒロシ...?」
ヒロシの腕の中でゆいこは動きを止める。
「あのさ....おれ、ずっとゆいこのこと....」
そのとき、タイミングよく上がった花火がヒロシの声をかき消した。
背後の花火に照らされて、体を寄せ合うゆいことヒロシのシルエットがまるでマンガの中の一コマのように幻想的に浮かび上がる。
ヒロシが何を伝えたのか。
ゆいこが何を答えたのか。
おれの耳には届かなかった。
おれはヒロシとゆいこのシルエットがゆっくりと重なっていくのを確認し、そっとその場を後にした。