1話―4
今回は残酷な描写とか多いです。苦手な人は読まないほうがいいかもしれません。
あと、暗い話になってます。
1年前・・・彼は俗に言う「施設」に入っていた。
なぜなら両親を早くに事故で亡くし、彼を育ててくれた叔母も
ある事件によって失っていた。それが1年前のことである。
少々裕福だった彼の両親は、自分達に多額の保険金をかけていた。
受取人はもちろん息子の蘇芳である。それは自分達がもし彼を残して
死んでしまった場合に備えてのことだった。皮肉にもその考えは功を奏し、
彼が普通に生活するには十分すぎるほどの大金を彼にもたらした。
そして、招かれざる客も同時に呼ぶことになった。 それは・・・親戚だった。
彼の親が残した多額の保険金を目的に彼を引き取ろうと、何人もの親戚を
名乗る者達が死体にたかるウジのように集まってきたのだった。
まだ中学生に上がる寸前で幼かった彼は、大勢の大人たちに滅茶苦茶に
されていく自分の家を見ることに耐え切れなくなり、自分の部屋に
閉じこもっていた。そのとき不意に部屋のドアがノックされた。
そこには小さい頃からとても優しく、いつも彼を守ってくれた女性、
母親の妹にあたり叔母である「水城 柚華」(みずき ゆか)がいた。
「ゆかおねえちゃん!」
そういいながら蘇芳は抱きついた。子供ながらにこの叔母だけは信用していた。
自分を守ってくれる存在だと感じていたようである。
「すーちゃん大丈夫?怖かったよね・・・でももう大丈夫だよ!」
そういいながら彼女は蘇芳の頭をなでていた。頭をなでられながら
泣き止んだ彼は、彼女に子供らしからぬ言葉でお礼を告げた。
そして少し恥ずかしがりながら、
「僕がこんなに泣いてたことはナイショにしててね!」
と言った。柚華は微笑みながら、
「だぁいじょうぶ誰にもいわないよ。そうそう、それでねすーちゃん。
もし良かったら・・・だけど、お姉ちゃんと一緒に住もっか?お姉ちゃんも
1人暮らしをはじめたばっかりだからちょっと寂しかったんだよね。どうかな?」
「いいの?僕、お姉ちゃんと一緒がいい!」
そういいながら満面の笑みを浮かべる蘇芳。その笑顔を見ながら柚華は、
まだ社会人になったばかりだと言うのに蘇芳を引き取る決意をした。
亡き姉の子であり大事な弟のような少年を、自分の手で出来る限り
守っていこうと決意したのだ。そのとき当然周りの親戚を名乗る連中は反対した。
『高校を卒業したての若い女に何が出来る』
といってあざ笑いもした。しかし彼女は一歩も引かずに少年は私が引き取る
と言い続けた。そして、少年自身が彼女と一緒にいたいといい始めたことで
一応の収まりがついたのだった。そして蘇芳は柚華とともに二人暮らしをはじめた。
最初は戸惑いも多かったが、1年・・・また1年と過ぎるうちに、
もう他での暮らしは考えられなくなってきていた。
しかし、彼が高校に入学したばかりの時に・・・あの事件が起こった。
それは、連続レイプ殺人事件だった・・・犯人は数人の若い男達で、
いずれの事件も対象にされたのは、若い一人暮らしの女性ばかりだった。
その日、たまたま日直で早めに学校へ行こうとしていた蘇芳は、
いつも通り柚華を起こし食事の用意をしてから家を出ようとしていた。
「それじゃ行ってくるよ。姉さんもちゃんと戸締りをしてから出かけないとダメだよ?
最近物騒らしいからさ。僕も早めに帰ってくるようにするからね?」
「う~ん、いってらっしゃ~い・・・あ~そうそう、すーちゃん今日は早く帰ってねぇ・・・」
「だから早めに帰ってくるって言ってるし・・・ほら!ちゃんと起きて!
今日も普通に仕事なんだろ?遅刻するよ?」
そういいながら自分の荷物を掴み玄関へと急ぐ、ほぼ毎朝のように
繰り返される事だが、蘇芳は毎日が充実していると感じていた。
そして、いつも通り自転車に乗り学校へと向かった。
その日はちょうどテストの最終日と言うこともあって、午前中だけの授業だった。
キーンコーンカーンコーン・・・・
「よしっ!終わり終わり!それじゃあ僕は用事があるから先に帰るよ。
みんなはどうするの?」
そういいながら蘇芳はかばんに教科書やノートを片付けた。そして
数人の友人とともに帰路へつく。悲劇の時間まであと約1時間・・・
それは、蘇芳が家にたどり着いてから起こった。
「ただいま!姉さん帰ってる?」
返事が無かった。玄関には彼女の靴があり、彼女の性格では玄関に
おいておく靴は常に1足にしていた。その他の靴はいつも靴箱にき
ちんといれてあり、履くときだけ出して使うと言う状態だったので
玄関に靴があると言うことは家にいるということを表していた。
「姉さんいないの?おかしいな、靴があるからいるはずなんだけど。
お風呂にでも入ってるのかな?」
玄関を抜け、姉の部屋の前に差し掛かったとき暴れるような物音を聞いた彼は、
「姉さんいるの?返事がないからいないのかと思ったよ。
姉さん?返事が無いな・・・ちょっと入るね」
そういいながら彼が部屋に入ろうとしたとき、中から悲鳴と物音が聞こえた。
「すーちゃん入ってきちゃだめぇ!早く逃げて!」
その声と同時に姉の部屋のドアが開かれ数人の男に囲まれた。
「なんだよお前ら、なんで姉さんの部屋から出て来るんだよ」
「やめて!お願い、弟には手を出さないで!」
その声を聞き、彼が姉の方を見ると・・・彼女は部屋の中央付近で全裸
にされ暴行を受けていた。
「なにやってんだよ!姉さんを放せ!」
「黙れガキ・・・死にたいか?」
蘇芳が声を荒げたとき、周りにいた男の1人がそういいながら
蘇芳の首筋に刃渡り20センチほどのナイフを突きつけた。
「やめて!お願い・・・私にはなんでもしていいから・・・弟には手を出さないで!」
そしてそのまま、蘇芳の目の前で彼女は陵辱された・・・
その間蘇芳の首筋には、くだんのナイフがあててあり見ることを強要されていた。
「すーちゃん見ないで・・・見ないでぇ・・・」
姉はそう言って泣きながら犯されていった・・・
全部で6人いた男たちは自分達が満足すると小声で相談し始めた。
蘇芳は何とか姉だけでも逃がせないかと行動を起こそうとしてみたが、
常に首筋にナイフがある状態で、しかも柚華はすでに正気を保っていないほど
ボロボロに陵辱されていたので逃がすことも出来なかった。
そして男たちは、蘇芳の腹部にナイフをつきたてた。
その光景が眼に映った柚華が正気を取り戻し、悲鳴を上げた。
暴行を受けボロボロになった体を精一杯動かして蘇芳の傍にたどり着いたとき、
蘇芳は出血はひどかったがまだ意識があった。
「ねえ・・さん・・・守れ・・・なくて・・ごめんね」
「ううん!スーちゃんのせいじゃない!お願い死なないで・・・」
そういって涙を流しながら抱きしめてくる柚華の体は、
どこか頼り無げで震えていた。そして・・・男たちがトドメを刺そうと
ナイフを振り上げた時、窓の外からパトカーのサイレンの音が聞こえた。
「ちっ・・・ずらかれ!」
そういって逃げようとする男たちの1人が蘇芳と柚華のほうに歩み寄ってくると
「前からてめぇは気に入らなかったんだよ」
と、言いながら蘇芳にナイフを突き刺そうとした。
「ダメェ!」
朦朧とする意識の中で蘇芳が見たものは、男の顔を隠していたマスクが剥がれ
見たことのある顔が出てきたことと、姉の胸に吸い込まれるように柄まで埋まった
ナイフだった。男は顔を見られる事はなかっただろうと思いそのまま
逃走したようだった。柚華は、20センチものナイフを右胸に突き刺したまま
蘇芳の傍に倒れこんだ。その姉の姿を見た瞬間、蘇芳の意識は急速に覚醒していった。
「姉・・・さん・・・?姉さん?そんな・・・嘘だ・・・いやだ・・・姉さん!」
そういいながら全裸の姉を胸にかき抱き泣きながら呼び続けた。
柚華は、口の端から血を流しながら
「すーちゃん、大丈夫・・・?」
と、聞いてきた。そんな柚華に
「僕のことは気にしなくても大丈夫だよ!それより姉さんの方が重体なんだ!
お願いだよ・・・死なないで・・・死んじゃいやだよ・・・ゆかおねえちゃん!」
そういって蘇芳は泣いていた。そのとき玄関がノックされ、
「すいません、警察のものなんですが。悲鳴が聞こえるとの通報があったのですが、
どうかしましたか?」
と言う声が聞こえた。
「助けて!おねえちゃんが・・・死んじゃうよ・・・いやだ・・・
おねえちゃん・・・いやだよ!」
蘇芳がそういったとき、玄関の扉が開かれ2人の警官が入ってきた。
彼らは部屋の惨状を見て、すぐに無線で応援と救急車を呼んだ。
しかし柚華の傷は、誰が見ても手遅れなのは明らかだった・・・・
「すーちゃん・・・聞いてる?あのね・・・おねえちゃんは幸せだったよ?
いままですーちゃんと暮らせて・・・楽しかったよ・・・」
「そんな・・・今までなんて過去形にしないでよ・・・もっと一緒にいられるよ・・・
だから・・・だからそんなこと言わないでよ!」
「ごめんね・・・すー・・・ちゃん・・・ごめん・・・ね・・・」
その言葉を最後に彼女は意識を失った。それから救急車が来るまで蘇芳は
彼女の名を呼び続けた。だが、救急車が到着し救命士に促され車に乗り込むと
同時に緊張が薄れ意識を手放した。
過去編・・・というか、主人公の過去です。
自分の文章力がないのが思い知らされています・・・orz
もしよければ感想などいただけるとやる気が出ます。