1話―2
しかし契約者の具現化など、まだ契約したばかりで経験も知識もなにもない彼には、どうにかして逃げるために魔法を使えるようにならないといけないという脅迫観念ばかりが頭を占め、早く魔法を使えるようにと焦るばかりで思いつきもしないのだった。そして、カードを受け取りながら
「詠唱して魔法を使うって……どうやったらいいんだ?俺は魔法の詠唱なんかしらないし。そんな知識もあんまりない。決められた魔法みたいなものがあるのか?」
「マスター、お前は自分のランクと呼び名をしっかり把握するといい。お前はSランクでありマジッククリエイターなんだ。マジッククリエイターというのは魔法創造師であり、魔法を作ることが出来るものだ。たとえば……そうだな、簡単な魔法を作ってみろ。魅了の魔法が簡単だからそれにするといい」
「魅了の魔法は~適当にこんな感じかな~って言う言葉を並べて~、最後にチャーム(魅了)って唱えればいいんですよ~。それで~、詠唱に使う言葉によって魔法の強さが決まるのです~」
「そう、相手に好感を持たせるだけなら、『我に魅惑の恩恵を』くらいでかまわないと思う。内容しだいで強くも弱くもなるから、そこら辺は自分で覚えていくしかない。さあ、やってみるといい。それから、一応ちゃんと出来ているか私に使ってみるように。簡単に作った魅了程度なら、魔王クラスの私や熾天使である彼女には効かないから実験台にはいいはずだ」
アスモデウスはそういいながらガブリエルの方に歩み寄り、蘇芳が魔法を創るまで見張りをするようだった。
(適当な言葉……って言ったって……どんな感じにすればいいのかわかんねえよ!教えるならもっと分かりやすく教えてくれよな……とりあえず、強そうな言葉を入れればなんとかなるのか?それとも強そうな意味を持たせればいいのか?)
彼はそんなことを考えながら思いついた言葉を並べて魔法をくみ上げ始めた。
「え~っと……鳥よ歌を忘れよ・光よ我を照らせよ・花よその香りを分け与えよ・神すらも揺らぐほどの魅了の恩恵を・我に与えよ」
そしてアスモデウスに向かい「チャーム!(魅了)」と唱えた。
一瞬まばゆい光があたりを照らしたが、すぐに光は消え元の路地裏に戻っていた。
「そんな感じで魔法を作ればいいよ。今は私に向かって魔法を発動させたけど、次からはカードを手に持ってそれを見ながら発動させるといいんだ(あれ?おかしいな。なんで初心者の魔法なのにこんなにドキドキするんだろ……)」
「そうですね~今のうちに戦える魔法を作っておいたほうがいいんじゃないですかぁ?もうかなり近づいてきてますよ~?」
ガブリエルがそういいながらアスモデウスのほうに歩み寄っていった。
彼女は蘇芳に聞こえないようにアスモデウスに話しかけた。
「アーちゃんいまの魅了、おもいっきり受けちゃったでしょ~?」
「うん、初心者の魔法なのにこんなに強く受けちゃうなんてちょっと驚いたよ。でもこれくらいならまだ大丈夫だから平気だよ。」
「でも魔法を受けてから~、少し口調が柔らかくなってるよ~?」
「え、そう?そんなつもりはないんだけど……・でも、彼は魔法の上達はすごく早そうだね。このゲーム……勝てるかな?」
そんなことを話している2人を尻目に蘇芳は一生懸命魔法を創っていた。戦闘用の魔法の詠唱を考えるのに四苦八苦していたが、いろいろ考えた挙句新しい魔法の詠唱を始めようとしていたところだった。
「え~っと、カードを1枚もって……と、『響け雷・穿て雷光・我が敵に雷神の鎚を振り下ろせ』【ライトニング・ハンマー】」
詠唱を終えたとき、また微かな光とともにカードに魔法が封印された。魔法が封印されたカードには彼が作った魔法の名前が記され、いつでも発動できるように魔力も充填されていた。
「これで1枚出来た。何人もいるなら範囲魔法があったほうが助かるよな……うん。でも範囲魔法はどうやったらいいんだ?とりあえず……『我が眼前の全ての敵に』って入れればなんとかなるかな?よくわからないな……まあやってみるか…『響け雷鳴・吹けよ嵐・全てを巻き込み吹き荒れるものよ・
全てを打ち砕く大いなる嵐よ・いまここに来たれ』【轟嵐波涛】……って範囲じゃないじゃん!これってかなり全体魔法なんじゃないか……?まぁ、出来る限り使わないようにしよ。さて範囲魔法は……と、『吹雪け氷雪・真なる氷よ・我が眼前の全てに・溶けることなき氷の牢獄を与えよ』【永久氷獄】……と、これも範囲じゃない気がする……え~っと範囲魔法ってどう創ればいいんだ?なあアスモデウス、範囲魔法はどんな言葉を入れて創ればいいんだ?ちょっと教えてくれよ」
彼は大人数を相手にする魔法の作り方がいまいちよくわからず、アスモデウスに助言を求めた。
「ん、範囲魔法はね。『我が定める礎の内に』って言葉を入れるといいよ。それで魔法を使うときに、魔法の名前を言う前に範囲を指定するようにするんだよ。たとえば『我を中心に半径5メートルで発動せよ』って言ったら、そのとおりに魔法は発動するからね」
そう答えるアスモデウスに、
「やっぱり言葉が優しくなってるよね~。アーちゃんチャームの影響強く受けすぎちゃったんじゃないの~?」
と蘇芳に聞こえないように話しかけた。
「うん……思ったより強くかかっちゃったかも。でも悪い気分じゃないよ。これも魔法の影響かもしれないけどね」
2人がそんなことを話していることも知らずに、彼は集中して魔法を作っていた。今は範囲魔法のための詠唱を考えている最中だった。
「あ~……そうだな~……
『吼えろ雷鳴・神の剣よ・我が定める礎の内に・雷よ降りそそげ』【雷鳴崩】
……と、こんなものかな?でもなかなか魔法を作るのも面白いな。どんどん作ってみようか!」
彼が熱中して魔法を作っていたとき、ガブリエルが警告の声をかけた。それは彼を追っていたものがすぐそこまで来ているというものだった。
「マスタ~、え~っとだいたい後1つ魔法を創り終わったら~、そっちの路地から1、2の…………5人くらいきますよ~」
「わかった!あと1個か……5人だから……なるべく殺さなくてすむように
したほうがいいよな。だったら……
『夜の帳よ・眠りの神よ・我が定める礎の内に踏み込みし・全ての者を深き眠りへと誘え』【眠神の憂鬱】
……よし、これで狭い路地なら大丈夫だろ」
作者は中二病のようです・・・・