プロローグ2
彼はそのまま万魔殿に帰らずに天界の中にある
中央図書館の裏の花畑へと足を運んだ。
なぜならその花畑に魔界へ続く門があるからである。
彼が門を開こうとしたとき、見覚えのある人影が現れた。
「おや?アスモデウスじゃないか。こんなところで何をしているんだ?
ここは天界のはずだが・・・」
ルシフェルがそう声をかけると、
「ああ、どなたかと思えばロードではないですか。何をしているのかといわれても、
私は図書館に本を読みに来ているんですが。それとも私がここにいては
何かマズイですか?」
「ああそうか、お前は天界の図書館に通ってもかまわなかったんだったな。
それで?ここにいるということはもう読みたい本はすべて読み終わったのか?」
「いえ、読みたい本はまだあるんですが、そろそろ友人が来る時間なので
この花園に来ているんです」
ルシフェルは納得がいったという顔で彼女の方を見やったが、
彼女の『友人』という言葉を聞き少し怪訝な顔をした。
「ふむ・・・ここは天界なんだが友人がいるのか?」
「ええ、もう来るはずなんです。一緒にお茶を楽しもうということだったので
ここで待ってるんですよ」
彼は『友人ね・・・』と思いつつ彼女に少し話をしておこうと口を
開きかけたが、彼の言葉をさえぎるように後ろから声がかけられた。
「アーちゃん、来ていますかぁ?」
「うん、ここにいるよ。準備、手伝おうか?」
「いいえ~大丈夫ですよぉ。ところで一緒にいらっしゃる方は~・・・
ルシフェル様じゃありませんかぁ?」
急に自分に声をかけてきた相手を見ようと彼が振り向いたとき、
そこにいた相手はかつての部下であり天界軍第二位の実力をもつ
燭天使のガブリエルその人だった。
ちょうどお茶の時間ということと二人でお茶を楽しむというつもりで
準備をしてきていた彼女は、ルシフェルという珍客のことを考慮して
3人分のお茶を用意した。ルシフェルは誘われるままに2人と一緒に
テーブルに着きお茶を楽しむことにした。
「アスモデウス・・・お前の友人というのはガブリエルの事だったのか。
しかし魔界軍第二位のお前が天界軍第二位のガブリエルと懇意にしているとは
思わなかったぞ」
「私は、先代アスモデウスから位を譲渡されるまでは天界で学んでいましたから。
彼女とはその頃からの付き合いなんです」
「そうなんですよぉ。アーちゃんは昔から頭も良くて成績もいい
優しい子だったんですよ~。 ルシフェル様もいじめないように
してあげてくださいねぇ?」
「リル!いつも言ってるけどそういう言い方はしないで欲しい!」
「え~?アーちゃんが優しくて美人なのはほんとのことなんだから
別にいいでしょ~?」
「だからそういう問題なんじゃなくって・・・」
ルシフェルがそこにいることなど意識にないように、二人は言い合いを始めた。
彼は、アスモデウスは感情を表に出さないタイプだと思っていただけに驚きつつも
ほほえましくその会話を聞いていた。しかし、一向に二人の会話が終わりそうもない
様子であったためこう声をかけた。
「お前たち、言い合いをするのはいいが少し私の話を聞け。
それにアスモデウス、お前がそんなに声を荒げているのは初めて見たぞ。
それからガブリエル、お前は相変わらず間延びしたような気の抜けるような
話し方だがいい加減直せ。昔私の部下であった頃にも何度も言っただろう」
ルシフェルがあきれたようにそう言ったとき、
アスモデウスは少し驚いたような表情をした後、
彼の方へ向き直り居心地の悪そうに、
「・・・失礼しました。ところでロードは天界で何をされていたのですか?
私と違い図書館への用事・・・ということもなさそうですが。」
「あぁそういえば神様のところに行かれてたんですよねぇ?たしか神様が
『暫くしたらルシフェルがここに参るから人払いをしておけ』って言われて
ましたから~そうですよねぇ?」
ガブリエルは不意に思い出したようにそう言った。
それは、ルシフェルに話し方を注意されて気まずい・・・
というものではなく、単に思い出したから聞いてみた・・・
というような言い方だった。
「なんだ、知っていたのか。それなら話が早い。と、その前にお前たちに
聴きたいことがあるんだが、お前たちは人間をどう思っている?」
「人間を・・・ですか?私は友として付き合っていくように父から、
いえ先代アスモデウスから言われていますが?」
「わたしは~道を間違えやすい方たちが多いので、
良い方向へ導いてあげないといけないと思いますよぉ?
それにわたしもアーちゃんと一緒で、友達のように~時には恋人の
ように付き合っていかないといけないと思います~」
と、以外にもガブリエルまで否定的な意見を出さなかった。
ルシフェルは、神との話し合いで決めたことと、精霊王が絡んできていること、
そして魔界がコレに負けると人間は滅ぼされるということを簡単に説明することにした。
「そうか、お前たちの考えは分かった。コレはさっき神と話し合った事だから
まだ誰も知らないことだ。いいか?心して聞くように。
実はな、神は人間を滅ぼすつもりだ」
「それは一体どういうことなんですか!」
「あらあら、アーちゃん落ち着いて、ちゃんとルシフェル様が説明して
くださるでしょうから~。ね?最後までちゃんと聞きましょうね~。」
ルシフェルは内心『いいコンビだな』などと思いつつ、
『いまはそんなことを考えている場合じゃない』と思い直し再び説明を続けた。
「ガブリエルの言うとおりだ、少し落ち着け。
神はな、人間が神の作った世界をこれ以上穢すことが気に食わないらしい。
そこでノアのときのようにすべてを水没させてしまう気でいるようなんだ。
だがな、今回は前回と違って一人の人間も残す気はないらしい。
絶滅させる・・・と言い切っていたからな」
「私は反対です。人間はこれまで我々が助けて導いてきた種族です。
そんな人間を今更絶滅させるなど納得がいきません」
「これって神様の決定なのですか~?」
アスモデウスが憤りを隠さずにそう言った後に、
ガブリエルがルシフェルにそう問いかけた。
「そうだ。神は撤回する気はないらしい」
「ルシフェル様はもちろん人間の保護をされるおつもりなんですよねぇ?」
「当然だ。私は人間を見捨てるつもりはない」
「そうすると~・・・神魔戦争の繰り返しになるんじゃぁないですかぁ?」
「私もそう思い、神に『私はあくまで人間の保護をする』と断言した。
たとえ神魔戦争の繰り返しになっても私は人間の保護を止めるつもりは
ないことをしっかり伝えた。するとだな、神の方から
『被害を軽減するためにある方法で争う』という妥協案が出されてな。
私もその案を受け入れることにした」
「その案というのはどういったものなんですか」
「それはな・・・【ゲーム】だ」
「ゲーム?」
「ゲーム~?」
アスモデウスとガブリエルが同時に繰り返した。
それほどこの案が意外だったのだろう。
「ああ、ゲームだ。どうやら魔界と天界のものを人間の
サポートにつけて人間同士で争わせるつもりらしい」
「でも~それだと人間界の被害がものすごいことになるのでは~?
それはかまわないんですかぁ?」
「そうですよ!人間の保護を目的としているのに人間界への被害を減らせないなんて
本末転倒じゃないですか!」
ガブリエルが的を射た質問をすると、アスモデウスが憤りを抑えないまま
ルシフェルに食って掛かった。
「もちろん分かっている。だからサポートは天界軍・魔界軍ともに五十人までとし、
サポートについているものは直接攻撃してはいけないということになっている。
だがな、
『ゲーム用の簡易契約ではなく人間との本契約をしているものはこの範疇にない・・・』
ということになっているのだ。この意味がわかるか?」
「つまり~本契約してる人間がそれを望めば攻撃しても
かまわないって言うことですよねぇ?」
「その通りだ。まあこれも人間と本契約をするような物好きがいないだろうという
考えで作られたルールだからな。プライドの高い天使や魔族が人間と本契約する
とは考えられないが、もしもの時にルール違反とならないように細かく作ってある。
それから、ルールを破った場合は強制送還の後、50年間の封印刑となっている。
くれぐれもルールを破らないように」
「50年の封印刑ですか~それはちょっと嫌ですねぇ」
そのとき、ここまでおとなしく話を聞いていたアスモデウスが、
「マイロード、その50人に私はふくまれるんですか?
それから、簡易契約とは一体どのようなものなんですか?」
と、質問をした。彼女は先代である父親から魔王アスモデウスという位を
譲り受けてまだ間もなかった。そのため人間と契約をしたこともなく、
人間界へ降りたことすらまだ皆無であった。
「そうだな、お前は50人に含まれる。50人の中にSランクである
天界・魔界の中でも強者と呼ばれるものは4人しか含ませることは出来ないのだ。
だから魔界軍第二位であるお前は確実に選ぶことになる。それ以外のランクの
ものはあわせて50人になるまで好きなものが選べるのだがな熾天使である、
ミカエル・ガブリエル・ラファエル・ウリエルの4名だと断言してくれたぞ。
それに見合うものを出すように・・・とな」
「まぁ~わたしもですか~。でもそうなるとアーちゃんとも戦わないと
いけなくなるんですよねぇ?」
「私もできればリルとは戦いたくないな・・・」
仲の良い友達であるガブリエルとアスモデウスはお互いを傷つけたくないと思ったらしく、
この戦いに乗り気ではなかった。
「それに~わたしも人間を滅ぼさなくてもいいと思うのですよ~」
「神の使徒であるお前がそんなことを言っていてどうするのだ。神の命令は天使である
お前たちにとって絶対の物のはずだが?」
「でもわたしは前にも神様の指示に逆らってしばらく封印されていたことも
あったりするのですよ~」
そういって苦笑するガブリエルを見つつ、ルシフェルは
「だが今回はそうも言っていられまい。お前は天界軍第二位だから軍の4分の1を統括する
立場になるだろう。そうなればお前も甘いことをいえなくなるはずだ。たとえ親友でも
敵として相対したなら、それは倒すべき敵になるのだ」
そういってアスモデウスのほうへ向き直り、
「アスモデウス、お前も敵としてガブリエルに出会ったなら、躊躇せずに倒すようにしろ。
どうせ契約している人間が死んだとしても契約している天使や魔族は傷つくことはない
のだからな。さて、私は先に万魔殿に戻るとする。お前も早めに戻って来い、
ゲームに参加させるものを決めなければならないからな」
というと、一人席を立ち門へ向かって歩き出した。だがルシフェルも心の中では
「友人同士が戦うことにならなければいいが」と思っていた。
しかし、魔族を統括する王として、また人間を保護する者たちの長と
して甘いことを言ってはいられないのであった。
彼が門に消えるのを見送っていた二人は、どちらからともなく口を開いた。
「アーちゃんは・・・わたしと戦うことになったらどうするの~?」
「・・・私は・・・分からない。でもリルとは戦いたくない・・・」
「わたしは~アーちゃんと会ったら急いで逃げるようにしようかな~なんて思ってるよぉ?
そうすれば最後の最後まで戦わずにすむと思うから~だからアーちゃんは心配しないでね~」
「うん・・・でもどうにかして戦わなくてすむ方法があればいいんだけど・・・
どうしようもないのかな」
「ん~とりあえず準備をしないといけないって言うことだから~わたしは神殿に戻る
ことにするねぇ。アーちゃんはどうする~?」
「私も万魔殿に戻るよ。詳しいルールやメンバーを聞いておかないといけないから。じゃあ、
次会えるときは人間界で・・・になるのかな。最後まで戦わなくていいように頑張るよ」
「はい~わたしもがんばりますよ~それじゃぁアーちゃん、しばらくの間さようならですねぇ」
「うん、じゃあまた一緒にお茶のもうね。それじゃあ」
そういって二人は握手を交わしお互いのいるべき場所に戻っていった。
こうして物語の幕は開くのだった。
とりあえずプロローグ終わりです。次回からは本編・・・・のはず?