悪の帝国が侵略の手始めにある村を焼き払おうとしてきたけど村人達が強すぎる
フロン王国という小さいが平和な国があった。その片隅にポッカ村というこれまた小さな村があった。
村の少年カイルは朝食を食べ終わると、元気よく遊びに出かける。
「行ってきまーす!」
「気をつけるのよ」と母ヘレン。
「はーい!」
ヘレンは我が子のあり余る元気ぶりにため息をつく。
「あの子ったら朝からせわしないこと」
父モーリスは妻をなだめるように微笑む。
「いいじゃないか。子供ってのはあれぐらいでちょうどいいのさ」
カイルは家の外で飼っている子犬のベスにも挨拶する。
「ベス、帰ってきたら一緒に散歩行こうな!」
「ワン!」
愛犬の鳴き声に満足そうにうなずくと、カイルは大急ぎで子供たちの遊び場である広場に向かう。
途中、畑を耕している近所のおじさんと出くわす。
「おー、カイル。おはよう!」
「おはよう、おじさん!」
「ハハ、相変わらず元気いいなぁ」
「うん! おじさんも畑仕事頑張ってね!」
「もちろんさ。いい野菜を作らなくちゃな!」
そう言っておじさんは勢いよく鍬を振り上げた。
***
広場にはカイルの友達が集まっていた。
「おせえぞカイル!」
体が大きく、ガキ大将のマルコが怒鳴る。
「ごめんごめん」
幼馴染のジャンヌがそれをなだめる。栗色の髪を持つ可愛らしい少女である。
「まあ、いいじゃない。これでみんな揃ったし、何かして遊びましょ!」
「だったらみんなで本を読まない?」
大人しく、勉強好きなアッシュが読書を提案する。
「アホか! せっかく広場にいるのに本読んでどうすんだよ!」
しかし、マルコに一蹴される。運動があまり好きではないアッシュはがっくりする。
「だったら魔法使いごっこしましょうよ!」
ジャンヌは魔法に興味があり、独学で魔法使いを目指しているのだが、これもマルコに却下される。
結局マルコが強引に鬼ごっこをすることに決めてしまうのだった。いつものことである。
「よっしゃあ遊ぶぞー! カイル、遅れたんだからお前が鬼やれよ!」
「ちぇっ、分かったよ」
ガキ大将の命令にしぶしぶ従うカイルであった。
……
四人が広場を駆け回っていると、村がにわかに騒がしくなる。
「どうしたんだろう?」
「何かあったのかしら」
カイルたちにも不安が広がる。
村人の一人が叫ぶ。
「大変だ! 軍隊がこの村に向かってきてる!」
村長は彼らの剣や鎧などの武装を見て、敵の正体を看破する。
「あれは……パルトギア帝国の連中じゃ」
パルトギア帝国は、世界屈指の軍事国家である。
現皇帝は強引な政治で軍事力をさらに増強し、各国から危険視されていたが、ついに侵略に乗り出したのである。
***
まもなく村は帝国軍に包囲されてしまう。
軍を率いる将軍ギオンが高笑いする。
「フハハハ……この大兵力でちっぽけな村を包囲するというのもまた一興だな」
村長が懇願する。
「財産は差し上げます! ですからどうか、我らを見逃してくれませぬか……!」
ギオンは顎を上げ、見下すように笑みを浮かべて答える。
「ならんな」
「え……」
「陛下からフロン王国は草木も残らぬほど滅ぼせとのご命令が出ている。その景気づけにこの村は焼き払う」
平然と残酷な言葉を吐くギオン。周囲の兵も笑っている。
村長は残念そうにうつむくと、ぼそりとつぶやいた。
「そうですか……ならば、仕方ありませんな」
「そう、強者に弱者が滅ぼされるのは仕方ないことなのだ」
「では、少しばかり抵抗させて頂きましょうぞ」
村長は子供たちの方を見た。
「え、俺たちからでいいの!?」とカイル。
無言でうなずく村長。これが合図だった。
カイルが動いた。一瞬で一人の敵兵に近づき、アッパーカットを叩き込む。被弾した帝国兵は空の彼方に消えた。
「まあ、カイルったら……飛ばしすぎよ」とヘレンが呆れる。
「いいじゃないか。子供らしくて」優しく微笑むモーリス。
「あっ、ずりい! カイルの野郎、抜け駆けしやがって!」
さらにマルコが得意のゲンコツで、帝国兵の一人を殴る。えげつない音がした。兜が割れ、頭も割れ、そのまま倒れて動かなくなった。
「よーし、魔法使いごっこするチャンスだわ!」
続いてジャンヌ。何やら呪文を唱えると、掌から生み出された巨大な火炎が帝国兵たちを蒸発させる。
アッシュも何やら道具を取り出すと、
「あの……これ、ぼくが作った“機関銃”って武器です。味わってみてください!」
周囲に弾丸をばら撒く。悲鳴を上げる帝国兵たち。
帝国軍を圧倒する子供たちを見て、モーリスが笑う。
「子供達、やってるな。こりゃあ俺も負けてられないな」
モーリスはその辺にあった岩を持ち上げると、襲い掛かる帝国兵に投げつけた。十数人がまとめて吹き飛んだ。
「あらあら、石を投げるなんて危ないわよ」
ほがらかに笑いつつ、ヘレンも帝国兵を豪快に投げ飛ばす。
カイルがペットの子犬ベスに声をかける。
「ベス、お前も遊んでいいんだよ!」
「ワン!」
ベスは嬉しそうに鳴くと、音速を越えたスピードで駆け回り、その鋭い爪と牙で帝国兵を切り裂いていく。
「なんだ、こいつらは……!?」
帝国将軍ギオンは焦りながらも、畑を耕しているおじさんに目をつける。
「おい! あいつは弱そうだ! あいつを人質にして、村人を皆殺しに――」
おじさんは土の中から大根を引き抜いた。
「いい魔大根が採れたよ」
大切に育てられた魔大根はドラゴンをも上回る実力を持つ。
おじさんが命じると、魔大根はその鋭い先端部分で帝国兵を串刺しにしていく。
他の村人も野良仕事をこなすように帝国兵を撃破していく。
ここでジャンヌがさらに魔法を唱える。
「隕石豪雨!」
直径10メートルほどの隕石が雨あられとポッカ村に降ってきた。
隕石は村民、帝国兵の区別なくぶつかってくるが、ポッカ村の村民たちは「痛い」程度で済んでいる。
カイルとマルコがジャンヌに怒る。
「ジャンヌ~、これじゃ村がメチャメチャだよ!」
「ホントだぜ! お前の魔法はいつもこうなんだ! 絶対零度とかブラックホールとか……」
「ごめんなさーい!」舌を出すジャンヌ。
隕石の雨はやんだが、たった数分で帝国軍は壊滅的な打撃を受けていた。
しかしまだ数は残っている。
汗だくの将軍ギオンに村長が告げる。
「さてと……帝国のお方、もう帰った方がよろしいのでは?」
後ずさりするギオン。
しかし、ギオンにも世界最強国家の将としての意地がある。
「ふ……ふざけるな! パルトギア帝国は世界一の国家であり、皇帝陛下は世界一偉大なお方! この私も世界一の将軍なのだ! たかが村長如きに背を向けてたまるか!」
“村長如き”――これを聞いて村長の目つきが変わる。眉間にしわを寄せ、全身に殺気があらわになる。なにやら逆鱗に触れてしまったらしい。
「ならば教えておきましょう」
「え……?」
「村長とはこの世で最も“尊重”されるべき存在……すなわち神よりも偉いッ!」
次の瞬間、鬼のような形相の村長をギオンは目撃した。
「村ッ!!!」
村長が拳を突くと、巨大な閃光が走り、ギオンもろとも残る帝国兵たちが跡形もなく消滅した。
これが村長を怒らせた者の運命である。
「ほっほ、いい運動になったわい」
村人全員が今の一撃に汗をかいている。ポッカ村で最も強く恐ろしいのは村長であった。
「パルトギア帝国……この様子じゃ各国に攻め込んでいるようじゃのう」
「ええ、しかも皇帝の政治は酷く、帝国の内にも外にも多くの悲劇が生まれているようです」モーリスが答える。
「ふむ、村長としてこのままにしてはおけんのう。よし、ワシらポッカ村の人間で帝国を懲らしめてやるとするか!」
村人たちは悪の帝国滅亡を決意する。
そんな中、アッシュがおどおどしながら主張する。
「あの……ぼく、新しい武器を開発しまして……」
「なんじゃ?」
「ものすごく遠くに攻撃できるICBMっていう武器なんですけど……」
「それはよい! 帝国めがけて発射してやるのじゃ! ただし罪なき民に当たらぬようにな!」
「分かりました!」
アッシュは自分の発明が役に立つことが嬉しいのか、はりきってICBMの準備を始める。
ポッカ村vsパルトギア帝国の戦いが今始まろうとしている――
***
フロン王国は今日も平和だった。
大臣が国王にこんな報告をする。
「陛下、大変です! 世界屈指の強国パルトギア帝国が……滅んだそうです!」
「なんと! 一体なぜそんなことに?」
「それがまったく分からないのです。あまりにも突然だったので……」
「うーむ……まあ、パルトギアは悪政を敷き、侵略を行い、多くの人間を苦しめていた。滅亡した方が世界のためになろう」
「その通りですな。幸い、残った者達で新しい国作りは順調に進んでいるようです」
「それにしても海外でそんなことが起こっているのに今日も我が国は平和だな」
「まったくです」
「なぜだと思う?」
王の問いに、大臣は腕を組んで考える。
「うーん……例えば我が国に他国が攻め入ろうとすると、地理の関係で絶対にポッカ村という小さな村を通らなければなりませんが……」
「小さな村があったところで、平和とは関係なかろう」
「そうですな。きっと関係ありませんな」
フロン王国は明日以降も平和に違いない。
完
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。




