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魔女と竜  作者: 葵鴉 カイリ
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8話 現実と責任


「おいおい、メルフィ何でこの少年と知り合いなんだよ……嫉妬するぞ?」


「はぁ……以前もお話し致しましたが、2年前シエズ村に行った際に私が初夏の数週間だけ屋敷の配達を任されていた事を覚えてらっしゃいますか? あの時の屋敷の坊ちゃんが彼なんです」


「は……へぇ……ってえぇええ!!! ウッっそだろ! 少年が俺の家の先祖を救ったあの竜ぞ……」


ミルタリアが大声で僕の正体を言いかけた時、鋭い形相でメルフィが首元に手刀を入れて気絶させた。 流石に奥さんが配達を行っていたなら竜族について存在は認知しているよね。


この部屋はファーストクラスだし、ある程度防音はしっかりとしているのだろうけど、気を使ってくれるのは正直ありがたいことこの上ない。


「申し訳ありません。トライス様、ミルタリア様も悪気があっての事ではないので……」


「い……いえ、えっとその、気にしてないので大丈夫ですよ。 それよりも少し伺いたいのですが、あの時以来ってどう言う意味なんですか?」


「そのままの意味で御座いますよ? 2年前の初夏、いつもの様に皆様へ食料を届けるべく館に向かったのですが私が到着した時には館にはトライス様だけで、他の誰の気配も感じませんでした」


「え? どう言う事ですか? 僕1人だけが館に?」


 2年前の初夏……人が忽然といなくなった……それは間違いなく俺が館でお祖父様を、使用人を惨殺したあの年で間違いない。 ただメルフィの話は明らかにおかしい。


 だってみんなを惨殺したのは深夜だし、何より僕が実家に帰ったのは今年が初めてだ……ならメルフィがあったという人物は一体?


 全身に悪寒が疾る。


「はい、確かにトライス様がいましたよ? ただあの時変な反応をされていましたね。 確か”呪いは解かれた……”って俯きながら消えていって……それで……あれ?あの、結構印象的だったのを憶えています」


 メルフィのその言葉を聞いた瞬間、体に激しい恐怖が倦怠感となって僕の脳に負荷を掛ける。僕と瓜二つの弟……


 もしかしてテテネラが……生きているのか?


 この時の僕は弟との再会ができるかもしれないと云う喜びよりも、死人が生き返った恐怖の方がずっと勝っていた。正直言ってメルフィの話に信憑性は全くない。


 でも時期が合致している。


 だがもし……もしお祖父様が言っていた一族の呪いによって、弟が蘇生したのだとしたらなぜ死んでから5年もの月日が経った今なんだ? お祖父様たちの死体や血痕が消滅した事に関係が? 


 色々な要素が僕の頭の中をかき混ぜるが、そもそも現実と責任から目を背けて逃げた僕が今更終わったはずの家庭の事を考えるなんて……馬鹿らしい。


「トライス様? 大丈夫でしょうか?」


 不安げな様子で首を傾げるメルフィの声にハッと我に返る。 考えたって仕方がないことは今は置いておこう。


「はい。 大丈夫です。 はは、なんか勝手に自分の世界に入ってすいません。」


「いえ、お気になさらないでください。 それで、トライス様はこれからどちらに?」


「特に場所は決めてないですけど一応このまま終点、海上都市コルネルの手前、アルカディアまで行こうと思っております。」


正直人間は信用できない。 既に身元がバレている状況で今更彼女に目的地を伝えてもさほど問題にもならないだろうが念には念を、僕は少しだけ間を開けてからメルフィに違う目的地を教えることにした。


「そうですか……でしたらならまたすぐに会えるかもしれませんね。」


「そうなんですか?」


やはり首に懸賞金でもかけられているのだろうか? メルフィの意味深な言葉を疑うように僕はすぐレスポンスを返すと、彼女は何も警戒していない様子でするすると口を開き始める。


「はい、夫の立ち上げた商会のとある目的で私たちはシエズ村に滞在してました。 しかしようやっとそれが落ち着いた為商会の拠点であるコルネルへ帰る途中なんです」


 とある目的ね……後ろに積まれているあの気持ちの悪いオーラを放つ荷台のことなんだろうけど、これ以上彼らに深入りするつもりもないからこの話はやめておこう。


「なるほど……あの……それって僕に教えてよかったんですか?」


「一応これは定型文の様なものなので問題はございません。 もしコルネルに立ち寄られる際は立ち寄ってみてください、夫は忙しいの対応できるかわかりませんが私の方でサイモルを救ってくれたお礼をいたします」


 妙だな。 彼女もミルタリアと同様に洗脳を受けている様だから、てっきりサイモルを見殺しにしようとしたミルタリアと同様に他人の命に興味がないものなのだと勝手に思っていた。


 これには個人差というものがあるのだろうか? とりあえず僕の存在を知っている彼女の気分を害する発言は避けなければ。 後々反感を買って僕の生存を言いふらされたりされたら面倒だ。


「はい、ではその際は是非立ち寄らせて頂きます」


 僕の言葉を聞いてからメルフィは軽く微笑んだ。


「それではそろそろ主人を起こしましょうか」


 そう言ってからメルフィが完全に気を失ったミルタリアの頬を軽く両手でペチペチと叩く、すると頬がみるみるうちに膨れ上がり、それと同時に目が少しずつ開き始める。

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