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魔女と竜  作者: 葵鴉 カイリ
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4話 月明かり。湖畔にいて



「う……うぅ……」


「列車! トラいす! 列車!」


「う、うん、ちょっと待って……」


 あれから丁度2週間、僕達は列車を乗り継いで海上都市コルネルへと向かっていた。


 お金の方は何とか僕の方で工面して、今回の旅費ぐらいは十二分に確保できた……って言っても実家に戻ってお祖父様の金庫からお金を拝借しただけなんだけどね。


 死人に口なし、ある物は使ってこそ価値があるってお祖父様も言っていたし問題ないでしょ。


 正直に言ってあの館にまた戻らないといけないのはとても精神的にキツかったけど、案外帰ってみると綺麗に清掃されていて死体の血痕すら残っていなかった。


 まるであの日のとこが無かったかのように……


 確かに僕はあの日お祖父様を殺した、しかしそれにしては腐敗臭も何もなくあの日のまま、あの日の形で賊に荒らされた痕跡もなく館は不自然すぎるほどに綺麗だった。


 まさか生きてるなんてことはないよな? 一応あの地下室以外は隈無く探したが人の気配はなく空き家と言って差し支えない程に閑散としていた。


 色々気になることはあるけど一々旅行で考えたいものでもないし……生き返ることなんて万に一つも有り得ない。


 だからきっと大した事ではないに違いない。


「それよりも……気持ち悪い……」


 多分だが竜族は遺伝子的に空を飛んで移動するのが主だからか、揺れる乗り物にはめっぽう弱いのだろう。


 まさかここまで酷いなんて……これが後数日も続くと思うと余りにも億劫な気持ちになってしまう、唯一の救いはリリが嬉しそうなことで……。


「トラいす! あれ! 綺麗!」


「なになに?」


治らない吐き気を抑えつつ、列車の旅でご機嫌なリリが僕を無理やり窓際に引っ張り出す。


 ふらつく頭で何とかリリの視線の先に目を向けると、赤く燃えるような恒星が地平線へと沈んでいく間際、風で靡く平原と途切れる雲が瞬く間にオレンジ色へと染め上がり幻想的な光景が広がる。


「凄い……ね……」


「……うん!」


時間にして5分無いぐらいだろう……初めてみるその景色は間違いなく美しかった。


 今まで見たことも感じた事もないその絶景に気持ち悪さも忘れてただ無言で見惚れた。


 テテネラ……君にもこの景色を見せてあげたかった。 感動と一緒に殺してしまった弟への後悔が溢れる。


その場で奥歯を噛み締めているとリリがそっと僕の肩に寄りかかってきた。


「トラいす、大丈夫、」


「……あぁ大丈夫だよ」


「……うん」


 寄りかかるリリの肩を優しく抱き寄せて感傷に浸る。


 きっとリリもいろんな想いをして生きてきたんだろう、それなのにこうして僕のことを心配してくれたその拙い言葉が唯どうしようも無く愛おしく感じた。 



 その夜、僕は寝心地の悪い列車の中であの日の夢を見た。


 僕とテテネラがこの世界で双子として生を受けた始まりの夢を……

 

『ご主人! 産まれました、双子の男の子です!』


 分娩室に入った助産師が浮き足立った父カムリの部屋に吉報を知らせにやって来た時、父は心から嬉しかったとよく言っていた。


『よくやったな、ミティス』

 

『あなた』


 それから僕にはトライスという名を、弟にはテテネラという名が授けられた。 最初は僕もテテネラも元気に過ごしていたし、不自由ではあったけど順風満帆な日々だった。


しかし3歳の時、突然テテネラが不治の病に罹った。 父様曰く一族の呪いだとか……


 僕はその時物心がつく前だったからよく分からなかったけど、弟が病に伏せてからも変わらずに病室に遊びに行った記憶はある。


『お兄様は何できてくれるの?』


『そんなの会いたいからに決まってんだろ?』


『そっか……お兄様は会いたいんだね』


 日に日に窶れていく弟、6歳にもなれば会う度に遊べる楽しさよりもいつか死んでしまうのではという不安の方がずっと大きくなっていた。


 僕達兄弟が9歳になった年、普段僕の事を煙たがっていた祖父が部屋を訪ねてきた。 


『お祖父様……どの様な御用件で?』


『トライス、お前達は来年で10歳だったか?』


 突然現れて今更気にも留めなかった孫の年齢を気にするのは一体どういう風の吹き回しだろうか?


最初は疑念を抱いたが、この時の僕は純粋でお祖父様が自分達の事を少しでも気にしていてくれた事がただ嬉しかった。


お祖父様が来た理由は幼いながらに直ぐ察した。


竜族には成人になるまでに行う2つの儀式があり、1つは優生の儀、2つは契約の儀。


当時の僕は詳しい事を知りもせず、もしかしたら屋敷の外に出られるのではという有り得もしない期待に胸を膨らませた。

 

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