子爵夫人は怒りっぱなしである 17
更新が遅くなってすみませんでした。リエーヌ様の心情を書こうと思ったのですが、難航してしまいました。
リエーヌ様は『女は弱し、けれど母は強し』というコンセプトで書きました。本来もっと弱い方だったはずなんです、多分…
「さて、それではこれで失礼する。もう二度と我が娘と息子、孫娘に近づかないでいただきたいものですな。行くぞ、ヨアキム、リエーヌ」
そう言ってお父様と私とヨアキムは陛下の前を辞した。もうこれ以上王家の面々の顔を見ていたくはなかった。
そして、拝謁の間を出たところで後ろから楽しそうについて来たバーバラ・ハルト様に振り向いてお礼を言った。
「ハルト様、この度はご加勢をいただきまして、本当にありがとうございました」
「うふふふ、いいのよ。私の可愛くて小生意気な弟分がわざわざ私に頭を下げに来たんだもの。あの子のつむじを見下ろせただけでも楽しいのに、あの傲慢な妃殿下に面と向かって文句を言えるんだもの。楽しかったわぁ」
そう言ってハルト様はにっこりと微笑む。まるで真紅の薔薇の様な女性で笑うとより艶やかに見えた。
「ありがとうございます、けれど貴女様の立場が悪くなるのではありませんか?」
ヨアキムが心配そうに告げるとさらにハルト様は破顔した。
「あらぁ、気にしてくださるの?大丈夫よ。今の王家に神殿と諍うほどの余力は無いもの。しかも私はこの国で五人しかいない光属性の持ち主よ、下手に手を出したら破滅するのはあちらの方ね。それに私はあと二ヶ月もしたら大神殿に行く予定なの」
そう言ってそっとお腹に手をやって愛しそうに撫でる。
「ここにね、新しい生命がいるの。大神殿で産む予定なの。あと五十五日後に隣国で誕生祭があるでしょう?その時に隣国にいたら無理しなきゃいけないから、誕生祭が終わったら早速大神殿に行くつもりなの。
その頃には、王宮神殿にはセオドアが帰ってくるし、その時に新しいハルトもやってくる予定なのよ」
「お子が宿ったなら余計に今敵を作るのは危険ではありませんか?」
「うふふ、大丈夫よ。一位の子供だもの、また光属性を持って生まれる可能性が高いから神殿から護衛が送られて来てるのよ。今の私を傷つけることはなかなかできることではなくてよ。
それよりも、貴方たち驚いたわ。あそこまで言うなんて。下手をしたら生命がなかったわよ?私が取りなす事を知らなかったんでしょう。いくらスライナト辺境伯のお身内とは言え、あの愚かな妃殿下が何をしてくるか、分かったものじゃなかったでしょうに」
「ご心配ありがとうございます、けれど…」
「ヨアキム、リエーヌ、お主達死んでも良いと思って今日はあの場に臨んだな?」
ヨアキムの言葉を遮る様にしてお父様が口にした。気づかれていたか、とぎくりとした。
「何ですって、どうしてそんな事を?いくら一位とは言え、死んだ人間を生き返らせることはできないのよ?下手なことをされたら私が困るわ。理由を仰って」
「エヴァが殿下に情を残しております。恐らくあの子は殿下に惹かれています」
「セオドアの悲しい片思いなのね。残念だわ」
「ハルト様のことは信頼して大事に思っている様ではありますが…」
「信頼と恋愛は違うものだもの、仕方ないわ。そして恋愛なんてままならないものだもの。正直趣味が悪いと思うけど。
まぁ、セオドアが良い趣味かどうかは別の話だけど」
「いいえ、ハルト様方には感謝してもしきれません、本当にありがとうございました」
私達はハルト様に深く頭を下げた。そうしてヨアキムが続けて口を開く。
「エヴァは殿下に強く請われたらただ利用されるだけでも、殿下の下に戻るかもしれないと思ったのです。でも殿下のそばにいる限りあの子は周りに馬鹿にされて嘲笑われて、搾取されるばかりです。きっと幸せになれません」
「もし、私たちが王家の手によって生命を落としたら、絶対にあの子は殿下の下には戻らないでしょう。そう思っている部分もありましたわ。もちろんただただ王家に頭に来たということもありましたけれど。言ってやらないと気が済まなかったんです」
「まぁ、気持ちは分かるけれど、あまり無謀な真似をしてはダメよ。もし、エヴァちゃん?が後から知ったらどれほど傷つくか分からないわ」
「全く、ハルト様の言う通りだ。もう二度とあの様な危険な橋は渡るで無いぞ。そもそもリエーヌ、ヨアキム、親よりも先に死ぬなどと親不孝の極みと知るが良い」
ハルト様とお父様に叱られて確かに私達の我儘だったと深く思った。そして力が抜けそうになった私をヨアキムが支えてくれて、二人に謝った。
「はい、申し訳ありません」
「ともかくさっさとこんな場所から出るぞ。もうこのまま領土へ向かおう。
ハルト殿、この度は本当に助かった。ありがとう、礼を言う」
「良いのよ、本当に楽しかったもの。それにトラン子爵夫妻ともうお呼びして良いのかしら?すごく気に入ったわ、特にリエーヌ様!よろしければ私とお友達になってくださらない?」
そう言ってハルト様は私に手を差し出した。私は嬉しくなって彼女の手を握った。
「私でよろしければ是非」
領土へ帰ったらエヴァに手紙を送ろう。近況報告をしたら悲しむかもしれないと思ったけれど、新しい素敵な友達ができたことを知らせたらきっと喜んでくれるに違いない。
ご感想でいただきました王都の様子を書こうと思いましたら長くなりました。すみません。
ジェイド視点も今後書いていきたいと思います。