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子爵夫人は怒りっぱなしである 15

 二人を見送った後に私たちはエヴァには内緒で陛下と殿下に拝謁を申し込んでいた。本来であれば子爵家の私たちに許可が下りるはずなどないが、今まで殿下の婚約者の実家だったことや、お父様の力添えもあったからか実現した。陛下と殿下のお二人に対してお願いしたはずだったが、なぜか妃殿下も臨席していたが、何も構うことなどない。


「国王陛下にお目にかかります」


 私たちは深く頭を下げた。頭を上げよ、と言う声に私たちは頭を上げた。


「お時間をいただき、申し訳ありません。申し上げたいことがございます」


「うむ、今回は其方の娘に色々と助けられた。何なりと忌憚なく話すが良い」


「ありがたき仰せ、感謝いたします。まずは殿下、ご下賜いただきました邸をお返しいたします。もうすでに婚約者ではない殿下にいただくわけには参りません」


「いや、慰謝料代わりにはならないと思うが、イヴがこれからも暮らすならば、あの家にずっと住んで欲しい」


「そのことですが、陛下。私たちは爵位を返上したく存じます。王都からは出て行こうかと思っております」


 そう言ってヨアキムは頭を下げて口にする。


「なに?何故だ?リザム子爵、財務課での其方の働きは素晴らしいものと聞いておる。考え直してくれぬか?」


「何故だと、今仰いましたか?エヴァをあれだけ馬鹿にしておいて今更何を仰せです!わたくし達が何を思ったか、想像すらされないのですか?

 それに殿下、婚約はもう解消されたのです、娘のことを愛称で呼ぶのはおやめくださいませ」


 陛下のあまりにも無神経な言葉に私は黙ってられずつい口を開いた。


「子爵夫人の分際で、何を!そもそも其方達の監督不行き届きではないの!」


「えぇ、えぇ、仰る通りですわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それにまさか、()()()()()()()()殿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()もの」


「なんて無礼な!陛下、この様な無礼な者たちは爵位を取り上げて牢に入れるべきです!子爵家の分際でわたくし達になんて口をきくのかしら!」


 私の言葉に王妃は顔を真っ赤にして怒り出した。


「えぇ、妃殿下、そもそも私たちは爵位を返上したいと申し上げております」


「妃殿下お止め下さい、子爵夫妻の言う通りです」


「うむ、イザベラ。わしが忌憚なく述べよと言ったのだ。それに子爵夫妻の言うことは耳が痛いが間違ってはおらぬ」


「いいえ、たかが子爵家の人間が立場もわきまえずに…」


「わしが許したのだ、黙って聞くのだ」


 妃殿下の言葉に殿下と陛下が交互に諌める。


「妃殿下にもご不興を買いましたし、私共は今後二度と王都に足を踏み入れない様にしたいと思います。どうかお許しを」


「いや、それは考え直して欲しい。其方達の気持ちはよく分かった。しかし今回の件のすぐ後に其方が社交界から姿を消したらあらぬ噂が立つだろう」


「申し訳ありませんが、今の私どもは王家に対しまして忠誠を誓えません。それに殿下の御代になった時に私たちは言祝ぐことができません。そんな私共が王都にいることの方がよほど問題になるかと思います」


「良いではありませんか、王家に忠誠を誓えないと言う貴族など不要ですわ。それにとんでもない不敬ばかり口にして!騎士達入室を許します、その無礼者達を捕らえなさい」


 妃殿下の言葉に扉が開いて騎士達が部屋に雪崩れ込んできた。そして戸惑いながらも私たちに近づいてこようとした。


「ならん!たかが子爵夫妻ではない。リザム子爵夫人はスライナト辺境伯の息女だ。下手なことをしたら辺境伯を敵に回すことになる。今スライナト辺境伯と事を構えると下手をしたら国が割れるぞ」


 そして騎士達の手が私たちに触れる前に陛下の怒号が飛んだ。騎士達は私達からある程度の距離を持って止まった。


「国が割れるなんて大袈裟なことを言わないでくださいな。たかが辺境伯です、我がルーク家の後ろ盾が有れば何も問題ありませんわよ」


「愚かなことを申すな、妃よ。近年ハルペー帝国の砂漠化が進み、肥沃な土地と水を求めて我が国に攻め寄せて来ておる。それを押し留めているのがスライナト辺境伯だ。下手に敵に回そうものなら、ハルペー帝国について我が王家に牙を剥くかもしれんのだ。そうなった時に妃が誇るルーク家が対処できるか?無理であろう」


 陛下が苦い顔をして妃殿下を諭している。陛下は妃殿下を溺愛していると専らの噂だったが、こんなに大事なことすら理解させていないなどと甘やかすにも程がある。


「だから、スライナト家には特例的に貴族の叙爵権を与えておる。それほど我が国の防衛の要となる家だ。滅多なことを言うでない」


 騎士達が入って来たドアは開いたままとなっており、騎士達の後ろから二人の男女が室内に入ってきた。


「陛下の仰る通りですな、この二人は我が領土に招く予定でおります。私の息子と娘に手を出されるのであれば我が家を敵に回す者と思っていただきたい。

 それに孫娘を養子に貰う時に養子先を精査されただろうに、妃殿下はこの様なことすら把握しておられないのか。その様な王妃を平然とこの様な場に出す王家に不信を抱くのは仕方がなかろう。

 そもそも妃殿下、この二人を今処断すれば先程陛下が仰せの様に『貴族を利用するだけ利用して用済みになったら処刑する』という噂が立ちますぞ」


「えぇ、辺境伯の仰る通りですわ。それにもしお二人に手を出されるなら、神殿も黙っておりませんわよ」


 入ってきたのはお父様と、もう一人は見覚えのない赤い髪の鮮やかな美女だった。


「スライナト辺境伯は分かるが、ハルト殿、またどうしてここに」


 陛下は苦虫を噛み潰したような顔をして呟いた。


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