令嬢は講義を受ける 3
「さて、次に二位について話そうか。
二位は右胸に銀色の花の形をしているバッジをつけている」
「これと同じ様な形なの?」
「いや、薔薇の花の様な形をしているよ。彼らは光属性こそ持っていないが、強い魔力を持っている魔導師だ。
俺たちは強制的に神殿に所属することになるけど、彼らは原則的に『自ら入殿を希望した人間』だ。もちろん、強い魔力を持っていることが前提になるけどね」
「原則ってことは例外があるの?」
「あぁ、一位とか二位とか階級があるけど階級の中でもピンからキリまである。同じ一位とは言え、シェリーちゃんと俺では恐らくとんでもない差がある。俺も光属性持ちだけど、君と比べると格段に弱い。…いや、君が規格外過ぎると言ってもいいのかもしれないけど。
二位もそうだ。例えば女将さん、あの人は二位だけど規格外の火魔法の使い手で、神殿に請われて所属することになった人だ。もちろん、二位だから断ることもできたそうだけどね」
女将さんと言われて一瞬ピンと来なかった。まず間違いなく、今泊まっている宿屋の女将さんのことなのだろう。言われてみると、女将さんはどことなく只者ではない雰囲気を持った人だった気がする――私に刻印がないことを気づいたかもしれない人なので、そう感じたのかもしれないが――。それも道理で、ものすごい実力者の様である。セオが上手いこと間に入ってくれたのでなんとなく有耶無耶になっているが、あまり近づかない方がいいかもしれない。
「女将さんって、私たちが今泊まってる宿屋の?神殿って副業してもいいの?と言うよりも、そもそも仕事内容って何してるの?」
「基本で神殿では、自分の魔法の腕を磨くことを主としてしているよ。弟子の面倒見たりとか新しい魔法の実験したりとかしてるね。
あとは、神殿からの命令で依頼をこなすことかな。たまに依頼主から直接お願いされることもあるから、その時は神殿への取り次ぎも仕事のうちになるね。
他にも魔力鑑定や、魔法の使い方を講師として、一般的なものを教えたりすることもあるけど、俺たち一位が出て行くことはまずないね。
そうそう、俺たち王宮神殿の人間は貴族から割とお茶会や夜会に誘われることがあるけど、相手が王族でも行きたくなければ、行く必要もない」
「なんだか、仕事内容が少なすぎる気がするけど…、例えば神殿の清掃とか、慈善活動とかしないの?」
「しないねぇ。神殿の清掃とかはきちんとする人間がいるから、下手に手を出すと彼女たちの仕事がなくなるから手を出さない様にね。
兼業の話だけど、女将さんは本物の天才だった。だから、すぐに火魔法で師匠をあっという間に追い抜いてトップになったけど、女将さんは宿屋の仕事の方が好きだったらしくてね。大神官さまが許可したんだ。結構そんな感じで、半分趣味みたいな感じで副業を持っている人も少なからずいるよ」
セオの語る一位の仕事内容は大変少ない気がしたので、私を怖がらせない様に少なく言ってるのかとも思ったが、兼業が許されているならば、本当にそこまで多くないのかもしれない。けれど、それなのにあの破格の祝金はなんだろうと首を傾げたくなる。
「女将さんは魔力が強かったので神殿側がお願いして入ってもらったんだけど、それだけ強力な魔導師はクライオスと含めて現在五十人いるかな?ってくらいだと思う。もちろん、神殿に依頼されて入殿した彼女たちは多額な祝金が渡される。女将さんから聞いた話によると俺たちの半分くらいかな?
神殿に入殿を依頼されず、自らが希望して入った二位もいるが、彼らには祝金は渡されない。けれど、無料で入殿できる。
ちなみに神官位を与えられるのは、神殿から要請されて入殿した人間だけだ。つまりほとんどの二位は神官ではない」
ゲームではここまで詳しく語られなかった。けれど、確かに神殿ほど大きい組織であれば、序列があるだろう。特に入殿後は今までの身分や籍を失くすことになる。だからこそ地位や身分は新しいものが必要になるだろう。
「次に三位だね、彼らは、あそこにある花の様な形の銅色のバッジをしている」
セオはその辺りに咲いているマリーゴールドの花を指差しながら続ける。
「三位は神殿に入るほどの魔力がなかったけれど、それでも入殿したい人間が神殿に大金を払って入った人間たちだ。結構な入殿金がいるから、だいたい貴族か、大きな商家の子息くらいだね。彼らも籍を失くすことになるし、サリンジャの民になるけど、神官位は与えられないね。ちなみに三位以下はお金を支払えば還俗できる」
三位という存在に驚かされる。一位二位は知っていたが、それ以降は知らなかった。公式設定もなかったと思う。けれど、今考えるとそういう存在がいてもおかしくないだろう。ある程度の金を払えば貴族の次男や三男は神殿に所属できる。神殿に所属すれば、彼らの籍はなくなるので後継争いにも発展しない。
ふと疑問に思ったことがあったので、聞いてみることした。