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令嬢は大神官様に拝謁する

 防御魔法の後は回復魔法や光を出す魔法などを習っては実践し、セオにため息をつかれると言う毎日をすごしながら、2週間。

 ようやく私たちは大神殿に着いていた。国を出る際に検問があったが、そこは神殿の権威で何事もなく、隣国に行けた。

 少しだけジェイドが追ってくるんじゃないだろうかと思っていたので、安心したのか、がっかりしたのか、よくわからない気持ちを抱えたまま、今私は大神殿の目の前に立っていた。

 

 トライオス王国は割と大きな国なので、それに比例する様に王宮も立派だが、神殿はそれをさらに何倍も大きく、古いけれど、威厳を感じる建物だったが、なんだろう、違和感を覚える。


 すごい敵意に晒されている気がするのだ。こう見えてお妃教育に何年かだけでも通った身である。自分の身に向ける害意はわかる様になっている。


「ねぇ、セオ。何か感じない?」


「何か?いや、大神殿はいつもこんな雰囲気だけど、厳かと言うやつかな?」


 セオは気づいていないのか、それとも私が気にしすぎているのか、もしくは…いや、それはないだろう。セオは私にいつもすごく親切だ。彼が私を騙すことはないと思う。と言うか彼にまで騙されていたら、私はもう何を信じていいかわからなくなりそうだ。


「これから大神官様に会いにいくよ、アポはもう取ってあるから大丈夫だよ。手順は簡単だ。大神官様の前で水晶に手を当てて『光よ』と唱えるだけ。くれぐれも、それ以外については口にしないこと。あとは大神官様のお言葉に『はい、誓います』というだけだよ。そうしたら、これが胸に浮かぶから」


 そう言ってセオはトントンと親指で自分の左胸を叩いた。誓約の印が刻印されるということだろう。

 私に説明を終えると、セオはまっすぐ神殿の中へ入って行くので遅れないように続く。


「新しいハルト候補者を連れてきた、私の弟子にしようと思っている。大神官様に取り次いで欲しい」


 神殿の中に入ると、受付の様なところでセオがそう告げると、相手は頭を下げて後ろに下がる。

 やはり、間違いない。ものすごい敵意を感じる。特に「()()()()()()()」とセオが口にした瞬間からこちらへ向ける敵意が増した気がする。私はそっと体の周りに防御魔法を密着させる。セオの周りにもこっそりと張っておくことにする。

 この敵意の強さは只事ではないと思うのだ。正直に言って奥からとんでもない魔物が出てきても私は驚かないと思う。


 受付係の人は戻ってくると私とセオを奥の部屋へと案内する。そちらは敵意を発する何かがいる方なので行きたくない。行きたくはないが、セオを一人で行かせるわけにはいかないので渋々ついていくことにする。

 

 ついていった先には、一見柔和そうなお爺ちゃんと、セオが私の属性を調べた時に使ったものを何倍にも大きくした水晶があった。


「大神官様、彼女はエヴァンジェリンです。強い光の力を感じましたので、連れて参りました。大神官様より祝福をいただければ、このまま私の弟子といたします」


 セオの言葉に大神官様と呼ばれた老年の男性は頷く。だんだん吐き気がするほど、気分が悪くなる。なんでセオは平気そうな顔をしているのだろう。気持ちが悪い。


「うむ、印を見せよ」


 大神官様がそう言って水晶を指さす。気持ちが悪いと思うが、動けないほどではない。何というか、バス酔いしている様な気分である。


 私は水晶に触れると「光よ」と口に出す。その瞬間、セオの部屋で起こった時と同じ様にものすごい光が水晶から発されて、その後大きな水晶まで割れてしまった。


「セオドアよ、これはまたとんでもない逸材を見つけてきたものだ。

 エヴァンジェリンと言ったか?素晴らしい素質だ。其方にハルトの名を与える。今後はハルトを名乗って生きるが良い。


 その上で、神殿に対する忠誠の誓いを授ける。ここに跪きなさい」


 私はそれに従い、大神官様の前に跪く。大神官様は私の額に手を置き、誓約の言葉を口にする。


「これ以降神殿の命に違わず、神殿に尽くし、神殿の意に沿わぬことをせぬ様、誓うか?」


「はい、誓います」


 私がそう言った瞬間、大神官様の手から何か呪が私の身体に入ってきそうになったが、それは音も立てず、霧散した。

 私が防御魔法を張ったままだからだろうか。しまった、バレたかなとちらりと大神官様を見るが満足そうに笑っているので、恐らく気づいていないようだ。


 そして、大神官が私に刻印を授けたと思われた瞬間、先ほどまでこちらに向けられていた焼けつくような敵意は無くなっていた。

 何だったのだろうか、緊張していた、では済まされないほどの敵意だったのだ。後でゆっくりセオに聞いてみたほうがいいかもしれない。


「さて、エヴァンジェリン・ハルトよ。今後はどうする予定かな?」


「セオドア様を師と仰いで研鑽を積みたいと思います」


「うむ、許す。ただし、其方に伝えることがある。


ひとつ、決して無償で治癒や防御などの魔法を使ってはならぬ。きちんと対価を得、さらに神殿に許可を取ってからでないとその力の行使は許さぬ。


ふたつ、其方が得た報酬は全て一度神殿に納めよ。その後神殿から働きに見合うものを其方に与える。


みっつ、これから其方は神殿の序列の一位としての地位が授けられる。其方が子作りを許される相手は神殿に所属する二位以上の者のみで、それ以外との性交は一切禁ずる。


よっつ、この世には()()がいる。悪魔を見つけ次第、捕らえ、神殿に連れてこよ。決して自らで悪魔を殺すことは罷りならん。よいか?」


「かしこまりました。ただ、私はずっとハーヴェー教の敬虔なる信徒として生きて参りましたが、悪魔については今初めて伺いました。

 背教者ではなく、悪魔ですか?それはどの様なものでしょうか?」


「うむ。悪魔とは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である」


 大神官様の言葉に私は驚く。魔族が何なのかは分からないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?疑問を解消すべく大神官様に重ねて問う。声が震えていないか、心配になるが、今ここで情報を集めておかないと大変なことになりそうである。


「魔族とは、魔物とは違うのでしょうか?フェンリルやコカトリスなど、魔物と呼ばれるものがいることは存じておりますが『魔族』については寡聞にして聞いたことがございません」


「哺乳類から人が生まれた様に魔物から人間に似た種類のものが生まれておる。それが魔族だ」


 つまり、収斂進化の結果、魔族にも人間と同じ見た目の種族が生まれたと言うことだろうか?


「異世界から来たものとは、何でしょうか?それはどんな形をしているものでしょうか?」


「異世界から来たものとは、ここではない世界から来た人間を指す。以前来たものは()()()()()()とか言うところから来たとか言っておったな。この世界の秩序を乱す存在である」


 聞けば聞くほど異世界人とやらは私にも当てはまりそうだ。チキウのニホとは地球から来た日本人のことだろう。どうやら私の他にもいた様である。私の様に異世界転生か、異世界転移かは分からないが…。


「どの様にして、見分ければ良いのでしょうか?彼らには()()()()()()()()()()()()()?」


「魔族も異世界人も見た目は我らと一切変わらぬ。

 魔族に関してはそれに加えて高い運動能力を持っておる。異世界人に関してはこの世界にないものを作り出そうとする人間が怪しい。

 以前来たものは石鹸とやらを作ろうとしたり、奇抜な料理を作ろうとしたりしていた。この世界にないものを作ろうとする人間はまず疑ってよかろう。また、稀に奇抜な格好をしているものもいる」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「怪しいと言うものは全て連れてくると良い。先程、其方に刻印を与えたが、万一悪魔であれば、刻印を与えた瞬間に、魔族であれば金色に、異世界人であれば七色に、身体が光るのですぐにわかる」


 危なかった。大神官様の話通りであれば、恐らく私は異世界人としてジャッジされただろう。つまり、私が防御魔法を用いてなくて、大神官様の魔法を無効化できなかったら私は悪魔として裁かれていたのかもしれない。


 破滅フラグを乗り越えたと思いきや、今度はとんでもない死亡フラグに足を踏み入れた様だ。地獄の一丁目から逃れたと思っていたが、どうやら二丁目に来てしまった様だ。


 絶対に私が異世界人とバレてはいけない。

 

 もしそれがバレたら、セオは私を大神殿に突き出すだろうか?いや、今刻印を無事授かったことになっているので、もう大丈夫なのだろうか?

 そもそも、セオは私を本当に弟子にするためだけに連れてきたのか?私はどこかで異世界人であることを悟られる様な発言をして彼に疑われていたのではないだろうか? 

 いや、やはり違う…違うと思いたい。彼のあの献身的なまでの優しさがただ悪魔を見つけるためのもののはずがないと私は思う。


 今まで以上に注意を払わなくてはいけない。決して誰にも左胸をみられない様にしないとならない。刻印がないことに気づかれたら、どんなことになるか…。


 最悪私が処刑されて終わりだとしても、弟子が悪魔であったことで師匠たるセオが一緒に処刑されることだけはあってはならないのだ。それに子爵家にも何か影響があるかもしれない。


 セオにはジェイドのことで散々お世話になった。今も私を導こうとしてくれている。そんな彼に恩を仇で返すわけにはいかない。いよいよになったら自害してでも、彼と子爵家だけは守らねばなるまい。


 今まで優しそうに見えていた大神官がとんでもない化け物の様に見えて思わず私は生唾を飲み込んだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 隷属呪で強制支配の割には当たり前の事ばかり。それだけ他からの干渉があるのかなぁ。いや、絶対に裏があるよね、邪神的な。なんて、色々と想像して楽しめる回でした。(善なる社会を目指して世界征服を…
[気になる点] 「令嬢は大神官様に拝謁する」にて、「神殿に連れてこよ」という日本語はおかしい。 神殿に連れてきなさい、連れてくるがいい、連れて捧げよ、連れてくる試練、などが適切かと。
[一言] とても面白い群像劇。読みやすくて一気読みいたしました。 つらい場面もありましたが、それぞれの思惑や行動があの結果を生み出したと分かって良かったです。 ヒロインとヒーローのすれ違いをどうまと…
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