王太子とセオドア 事件の後に邂逅する
今回改行多くやや読みづらいかもしれません。申し訳ありません。また、会話の途中の改行はいらないのでは?とのご意見もいただきましたがらあまりにも見づらかったので結局改行させていただいております。
作者が未熟者のため、皆様には大変ご迷惑をおかけしてしまいます。誠に申し訳ありません。
『王国歴1022年 9月10日
デビュタント会場にて行われた事件について
主犯、サトゥナー・フォン・クラン
イリア・フォン・クラン
協力者、第二騎士団
副団長 ノイデン・クラン・アルム・サウス・トラスト
騎士 グラース・バルトン
騎士 アルバート・エルム
場所 王宮 白百合の間
主犯は会場内で目をつけた令嬢を王宮の休憩所として解放されている『白百合の間』に引き込み、暴行を加えようとしたものである。
上記三人の騎士は上記の部屋の周りの見回りをすべきところを金銭と引き換えに主犯の行動を見逃し、外から鍵までかけたとアルバート・エンデは供述している。
現在、ノイデン・アルム・クラン・サウス・トラストとグラース・バルトンに関しては鍵を奪取に来た、神殿のセオドア・ハルトの手によって意識喪失状態にあり、詳しい話は聞けておらず、彼ら二名の意識が戻り次第、話を伺う予定。
被害者は、頬や身体の所々に傷跡が残っている状態だが、純潔は守られていると王宮医師、クレア・ノーマンは診断している。
被害者に関しては、今後のこともあり、また、ここに名前を載せることを慮られる方であることから、今回の報告書では割愛する。』
ぐしゃりとジェイドは報告書を握りつぶすと、真っ青な顔で部屋を出て行った。ジェイドが置いて行った報告書を読んでアスランも顔を青くして出て行く。この報告書を読んで二人は初めて被害者が誰か知ったのだ。私もさっと目を通して、二人の後を追う。
あの後、私の足の治癒を王宮神殿に依頼した後、ジェイドとアスランは急いで、会場に戻り、陛下に事件について話しに行った。
陛下はクラン公爵の身柄を押さえる様に騎士に命令した後は、事件を大事にしないためにも、夜会はこのまま続けるので、処理は任せるとジェイドに全て任せたそうだ。
そのため、騎士団に騎士の関与の可能性を告げた後、関与した人間の捜索と今夜の見張りの徹底を指示し、細々と動いた二人が報告書を読んだのはずいぶんと時間が経ってからだった。
本来なら私がもっと早く言わなければいけなかった。王宮神殿に着くまでに…せめてジェイドと別れる前に、言えば良かったのだが、私はなんと言えば良いかわからずに言葉を呑み込んでしまった。そして呑み込んだまま今に至ってしまっている。自分のしていることが信じられない。あまりの卑劣さに吐き気がする。
あの時あそこでジェイドを遠ざけたことは後悔していない。けれど、エヴァちゃんが衣服を正した後はジェイドの存在が慰めになっただろう。なのに、私は口を開けなかった。なんで、知っているんだ?と聞かれたくなかった。
どうして見張りの人間は私にあんなことを囁いたのか、知らずにいたら私も一緒に憤れたのに、とつい思ってしまった後であまりの自分の醜悪さに目眩までしてきた。
私はその辺の人間よりも自分がずっとずっと強くて正しいと思って生きてきた。けれど違う、私は醜くて弱い。せっかく得た理解者であるジェイドとアスランに嫌われたくなかった。また、三人でした約束を大事にしたかった…それを踏み躙ったのは私自身だ、と今は思う。今ならそう思えるのだが、一度呑み込んでしまった言葉を発する機会を未だに私は見つけられていない。
二人が向かったのは、方向から行って、クレア先生のところだった。私たちが着いた時には、もうすでにエヴァちゃんはおらず、先生が書類を記入しているところだった。
「あら、殿下。いかがなさいましたでしょうか?」
先生は私たちに気づくと、書類を書く手を止めて声をかけてきた。40歳くらいの女性の先生で、いつも柔らかな雰囲気を持つ方だが、今日は少しぴりぴりしている。間違いなく今回の事件のせいと思われる。
「イ…被害者の女性は?」
「もうとっくにお帰りになられましたよ、王宮に部屋を用意すると申し上げたんですけど、どうしても家に帰りたいと仰って、親切な紳士が馬車を用意してくださいましたわ。彼女のご両親は何かあったと周りに勘づかれない様に先にお帰りでしたから」
「そうか、わかった。邪魔をしたな」
そう言ってジェイドが扉を閉めた後で「えぇ、本当に」とクレア先生が呟いた声が聞こえた。間違いなく先生も不愉快に思っている。けれどジェイドは悪くないのだ。私が、悪い。「一族の人間が裏切ったのだ」と「今イヴちゃんについていてあげて」と言えばよかったのだ。お願いだからジェイドを責めないでほしい。そう言いたかったのに臆病な私は何も言えなかった。私のせいでジェイドまで悪く言われる。目眩がして息苦しい。なんて愚かなんだろう…そう思うのに、もう何も言い出せなかった。
急いで馬車を手配させて、馬車乗り場へ向かうと帰ってきたセオドアと鉢合わせた。
「おや、これは殿下。ごきげんよう。こんな遅くにお出掛けですか?最近は物騒な様ですから、お止めになる方が宜しいかと思いますよ」
話しかけてくる彼は傍目には、涼しい顔で笑っている様に見えるが、私たちへ向ける目には敵意がこもっている。
本来なら王太子たる彼にこうして話しかけてくることも、敵意がこもった視線を向けることも、不敬罪に当たると言われても仕方がない行為だが、神殿の『ハルト』に関しては除外されている。彼らには身分がないが、高い地位がある。
「やあ、君とこうやって話すのは初めてかな?」
「あぁ、そうでしたか?それは失礼を。セオドア・ハルトと申します。殿下のことは彼女からよく伺っておりますので、初めての気がいたしませんでした」
「そうかい、僕のイヴがお世話になっているね。彼女は王宮になれてないから、親切にしてくれて礼を言う」
「いえ、殿下にお礼を言われる様なことはしておりませんよ。彼女とはただ少し接する機会を得ただけですから。
彼女はいつも一人で所在なさげにされておりますから、どうにも目が離せなくて」
「そうだね、今日僕との婚約が正式に発表されたから今後は滅多な人間が近づけない様に、表立って人をつけることにするよ」
「なるほど、それが良いでしょう。
蜜蜂が美しい花に惹かれるのは、当然のことですからね。特にそれが日陰に咲く様な可憐な花であればあるほど人目を惹くものです」
「ご忠告痛みいるよ。その忠告に従ってしっかりと花を守れるものを選別しよう」
「そうですね、けれどいくら蜜蜂が来ない様に花を囲っても、陽の光がないと花とは枯れてしまうものです。それに蜜蜂以外にも花を狙ってくるものはいますからね。どうぞ、くれぐれも大事になさってください。
なにせ、美しい花は世界の宝だと思いますので」
セオドアの顔は笑っているが瞳は凍えたままだ。この男がこんなにはっきりと敵対の意思を見せたことに驚く。私の前ではいつも軟派な態度でこちらを揶揄う様な言葉をかけてくる、軽い男性なのだ。それとも男性の前では違うのか、――それともエヴァちゃんが絡むから違うのか。本当に彼女が絡むと周りの男性はものすごい過保護になる。
「あぁ、もちろん、美しい花は世界一綺麗な僕の花だからね。大事にするさ」
「あなたの花ですか…。そう言えば魔力の強い方には運命の伴侶とやらがいるそうですね。
神殿にも似た様な話があります。生まれる前は天使で、天使は無性で男性でも女性でもあると。けれど生まれる時に二つに分かれてしまうから、お互いの魂が呼び合うとか…。
なかなかロマンチックな話ですよね」
そう言ってセオドアは笑顔を見せる。それは私たちに対する、敵意の溢れたものではなく、どこか自虐的なものを感じさせた。
「あぁ、特に王家の人間は運命の伴侶を見つけると言われている。もちろん、僕も例外ではない」
「そうなんですか。実は神殿の同じく『ハルト』にバーバラと言う女性がいましてね、彼女は殿下と違って、しょっちゅう運命の相手を見つけては破局しています。傍から見ると、結局ただの一目惚れに過ぎない様に見えておかしくてなりません」
「そうかい、それは残念な話だね」
「その様ですね。きっと彼女の相手もまた他の誰かに運命を感じているでしょう。お互いに運命の相手が何人いるかわからないんじゃないでしょうかね。
まぁ、こんな話はどうでも良いことです、貴重なお時間を申し訳ありません。
ところでもう外出はお止めになった方がいいですよ、今からだと城門が開いていませんからね。今から殿下が出ていかれたら、何事があったか勘繰られることでしょう。
私も今、夜会で熱気にあてられた女性を一人診てきたところですが、城門がしまっていて往生しましたよ」
そのセリフにジェイドがぴくりと動く。おそらく彼がエヴァちゃんを送って行った親切な紳士だと気づいたのだろう。その上でエヴァちゃんの様子が聞きたくて仕方がないのだ。
「その…女性の具合は?」
「そうですね、もう少し安静が必要な状態の様でしたね。今は他の誰にも会わない方がいいと思いますよ。……まぁ、今更ですからね。
さて、こんな遅くにこれ以上殿下をお引き止めするのは護衛の方に申し訳ありませんし、私も少々疲れておりまして、失礼ですがこの辺りで失礼しても…?」
「あぁ、すまない」
そう言ってジェイドもセオドアも踵を返す。
ジェイドとアスランはサトゥナーやイリアのいる貴賓牢の方へ。セオドアは王宮神殿へ。
いつもとあまりにも違うセオドアの様子に私は驚いていた。私は根底のところで人を馬鹿にしていた。だから彼も軽く見ていたが、こんな人間だったのかと目から鱗が落ちる様な気分だった。
振り向いて見たセオドアは少し足をもつれさせていた。いつもより感じる魔力が弱かったので、何か魔法を使ったのかもしれない。彼の力もジェイドほどではないが強い方なので、使ったのは割と強い魔法だったのだろう、何をしたのだろうかと気にはなったが、それよりもジェイドとアスランについて行かなくてはと二人の後を追った。
すみません、サラがものすごくヘイトを集めているのにこんな話の運びで申し訳ないです。