表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/204

王太子とヒロインの約束

 正直に言ってサラの言葉には驚かされた。確かにサラはどこか危うく、人間離れをした感覚があった。でもせいぜいがとこ、近所の小猿レベルだと思っていたのだが、どうやら事態はもっと重そうだ。これは下手をしたら国家レベルの問題ではないだろうか。


「緩やかに絶滅していると君は言ったが、協力の対価として『保護してほしい』とかはないのか?」


「保護?愛玩動物やなにかじゃあるまいし、何様よ?私たちは生存競争に負けて、ただいなくなるだけじゃない。そんな種なんて珍しくないでしょ?」


「そうだな、今のは僕の言い方がまずかった。すまない」

 

 そう、サラは何よりも同情されるのが嫌いだったと今更ながら思い出した。そうだ、目の前にいるのは確かに同じ種の人間ではないかもしれないが、一緒に育った気心の知れた幼馴染なのだ。


「サラ、君が何者でも変わらないことがある。僕や国に不利益を与えないなら君は僕の大切な幼馴染だ。僕は君にも幸せであってほしい」


 先程の失言で激昂していたサラは僕の言葉少し、落ち着いた様で一つため息をつくと続けた。


「どうせ今の一族の策じゃうまくいかないのもわかってる。

 だってもし、私が人族だったとしても、あなたと私の魔力差じゃ子供なんかできない。私が不貞したってすぐわかることよ。

 魅了の力さえあれば誰でも言いくるめられると皆思ってるけどそこまで便利な力な訳ないじゃない。もしそんな力なら過去にも魅了の資質を持って生まれた子がいたはずなんだから、もうすでにこの地の奪還は終わってるはず。最後に華やかに自爆したいのかもしれないけど、やりたいならやりたい人だけでやって欲しいの。勝ち目のない勝負に乗るなんて私はごめんだわ」


「ねぇ、サラ。これは提案だ。同情とかじゃない、ギブアンドテイクだと僕は思っている。君もそう思って欲しいんだが、僕が王位についたら、秘密裏に魔族が住める特区を作りたいと思う」


「無理よ、人間は自分と違うものを受け入れない。それに魔族は少数にはなってきたけど大抵の人間より格段に種として強い。人族の操る魔法より、私たちの魔法の方が強い。身体能力だって私たちの方が高い。私たちがこの地を奪われたのは、初代クライオス国王という化け物が生まれたからでそれ以外の人間は私たちより格段に弱い。

 でも、あんたは初代に匹敵するくらいの化け物でしょ?協力も要請したいし、話しても怖がらないと思ったから話したけど、普通の力のない人間にはきっと荷が重い」


「そう、だから最初は秘密裏にだ。そして皆が慣れてきた頃にそれは僕の代では無理だろうから何十年も何百年も後になるだろうが、皆が慣れてきたら公表してもいいし、そのまま公表しなくてもいい。

 言葉が通じるんだから、うまく共存できないだろうか?実際にこの国の建国当時からこの国に魔族が住んでいるなら、下地はあるはずだろう?」


「それで?ギブアンドテイクなんでしょ、私たちに何を返せっていうの?」


「兵力だよ。実は僕は今の神殿の在り方に疑問を抱いている。今、人族の魔法はほぼ全て神殿が担っている。国にも宮廷魔導師がいるが、どうしても優秀で熱意のあるものは神殿に所属したがる。そのせいでどうしても神殿より格が落ちるんだ。

 そもそも光属性を神殿が占有しているのは脅威だ。光魔法は回復と防御に特化しているが、王宮にその力がないのはどうだろうか?しかも神殿は高い報酬を要求する。その金はどこに行っているんだろう?

 宗教はあってもいいが、国を脅かすほどに大きくなった力は害悪でしかない。しかもそれが腐りきっている組織であればあるほど目障りだ。メスを入れようにも今のままでは僕たちが負ける」


「とか言ってるけど、お前エヴァのことで恨んでんだろ?」


「それがきっかけではある。けれどハーヴェー神殿が権威を奮っている地域では、共通した一つの事象がある」


「女性の社会進出ができなくなってることね?」


 僕の言いたいことを的確に汲んでサラが答える。なるほど僕が今まで何を思って生きてきたのかを的確に掴んでいる。


「そう、貴族の子女は政略結婚の駒として扱われることがこの国では殆どだ。それ以外の道はほぼ閉ざされている。何故かと言うと、神殿に光属性の持ち主だと判定されたくないから魔法から遠ざける習慣があるからだ。魔法の資質は遺伝するものと言われていて、光属性持ちの子供は高確率で光属性を持っている。目をつけられたら最後、下手をしたらその貴族の系譜はなくなる。


 魔法は便利だし、強力なものだから騎士団でも、将来出世を願う貴族でも魔法を習う。その時に光属性持ちと分かれば神殿の所属にされてしまう。子息が神殿所属になっても子女が残っていればなんとか、系譜の存続はできるが全ての子供を神殿に取り上げられれば、その家は断絶だな。だから、極力子女に関しては神殿に目をつけられない様に奥深くにしまう傾向がある。結果、女性の地位はとても低くなる。我が国では女性は爵位の継承権はないから、尚更だ。

 光属性持ちは珍しいとはいえ、いないわけじゃない。しかも貴族籍は放棄した上で神殿に入ることになり、一度入るとまず出られない。まぁ、問題のある子女が反省のために入れられる程度やほとんど魔力がない人間であれば還俗できるが、力のあるものを外に出すつもりは神殿にはない」


 結局それが繰り返されたら国家の力は段々と弱ってしまうのだ。しかも、属性鑑定も授業も、還俗にだって高いお金が必要だ。

 なぜ、周辺諸国や周りの国が神殿の横暴に関して何も手を打たないのかがわからない。遅くなればなるほどこちらの力は削がれるのだ。


「魔族にとっても神殿は目障りだろ?異端審問とかいう、神殿の権威とか」


「確かにね。けれど貴方達に魔族が統制できるの?あんたなら問題ないだろうけど、次代は?」


「だから、それを君に頼みたい。僕やアスランのことを信用してくれてるからここまで話してくれたんだろう?」


 さあね、とサラは続ける。


「それに、僕と君の縁談がうまいこと流れたら君はこの国から姿を消す気じゃないかな?言っただろ、大事な幼馴染だって。多分この問題は一朝一夕に解決する問題じゃないし、下手したら神殿よりもっと厄介な問題を生むかもしれない。けれどやってみる価値はあると僕は思っているし、君を見ていたらできないはずないとも思うんだ」


「ふは、ははは。いいよ、わかった。その話乗ってあげてもいい。だけどひとつだけ条件がある。もし、私たちがやはり人間に受け入れられなかったら、この国を出ていける保証が欲しい」


 そう言って笑ったサラは僕のよく知る野猿の様な女の子だった。


「わかった。それについては王家と今僕の最も信頼している人物、クラン家のアスランの一族に任せよう。いいね、アスラン」


「御意」


 アスランは珍しく、僕に向かって恭しく頭を下げた。

振り返ってサラの顔を見たら、先程の妖艶な女ではなく、いつもの野猿の様な令嬢の顔で笑っていた。


 そして僕とアスランはサラと固い握手を交わした。

ここまででストックしていた部分がなくなってしまいましたので、更新ペースが落ちます。気長にお待ちいただけるとありがたいです。

 そして主人公の目線になかなか戻らなくて申し訳ありません。実はセオドアの目線からの話も考えていますが、どちらを優先して書くかちょっと迷っております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ