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ヒロインは秘密を打ち明ける

「色々と聞きたいことがありそうね。でもまぁ、あんまり話すことはないのよ。私が2人の幼馴染のサラスティーナって言うのは変わらないわよ?ただちょっと2人に隠し事をしてただけ」


 私はそう言って笑いかける。ジェイドはまだ落ち着いているが、アスランは少し危うい。下手をしたら斬りかかってくるかもしれない。けれどジェイドに先程言った様に私はただ静かに暮らしたいだけなのだ。だから、誰にも危害を及ぼすつもりはない。まぁ無抵抗主義者ではないから、襲ってきたら返り討ちにするけど。


「この国、クライオス王国は初代国王が優れた魔導師で、近隣の国や魔物を倒して建国した、と教わったでしょう?

 私たち一族はその時に倒された魔物の一族なのよ」


「魔物の一族だと?まさか、だってお前俺たちと変わらない姿をしてるじゃないか!」

 

 アスランが顔を蒼白にして私を見る。いつも向けていた、どうしようもない幼馴染を見る様な目ではなく、何か恐ろしいものを見る目つきだ。彼のその目を少し寂しく思う。確かに隠していたことはあるが、私は私で何も変わってないのだから。


「うーん、そうねぇ、なんと言ったらわかりやすいだろ。『収斂進化』って知ってる?」


「起源の異なる生物のグループが同じ生態的地位についた時に似たような姿になることをさす現象だったかな?」


「そうそう、例えば蝙蝠と鳥類とか、袋オオカミ(有 袋 類)オオカミ(哺 乳 類)とかね。

 それと同じ。哺乳類から人間が生まれたように、魔物からも人間に似た形のものが生まれたってだけよ。私たちは自分たちのことを魔族と呼んでるわ。

 つまり、私とあんたたちは似てるけど、違う種の生き物だから、そのせいで魔力の質が違うの。初代国王がこの周りの魔物を殺してまわって国を作った時に私たちは死にたくない一念で、あんたたちの魔力を解析し、無理やり身につけて人を装ってこの国に入って暮らしてたのよ」


 ジェイドもアスランも私の言葉に聞き入っていて、声も出ない様なので、話を続ける。


「だから、私たち魔族は強い魔法が使えるけど、あなたたちが言う『魔力』は低いの。調べたことはないけど、多分使う魔法も異なってると思う。


 一族の悲願はね、この地をまた魔族のものにすることだった。けれどこの地が人のものになって長くなってしまって、もうこの地の奪還は無理じゃないかと、このままひっそりと暮らして行こうとしてたけど、最近になって問題が出てきたの」


「問題…?」


「そう、少子化という問題ね。私たちとあんたたちは、違う種の生き物だから、行為をしても子供が為せない。だから、こっそりと隠れている魔族同士で婚姻を繰り返していたら、血が近くなりすぎたのね、子供が生まれにくくなってしまったの。うまく妊娠しても歪な子供や弱い子しか生まれなくなったわ。

 新しい血を入れなければならない。そのためには魔族をこの地に入れる必要がある。そもそも、この地は元々私たちの住む地だったのを、豊かさに目をつけた他種族に奪われたのだから、奪還して何が悪いってね」


「それが一族の悲願か。それじゃあ、君が僕を籠絡して、結婚した後、君はこっそり魔族の男性と通じて子供を産んで僕との子として次期国王につける気だった?まるで郭公の托卵だね」


「まぁね、母はそれを望んでる。だから、国の中枢に入り込むために、王妃様に取り入ったの。王妃さまは普通の人間だけど、寂しい方だったから、すごく上手くいったらしいわ。知ってるでしょ、今でも王妃さまはあんまり周りの人間に評価されてないこと」


 そう、悪い人間ではないのだが、王妃は心の弱い人である。侯爵家の出にも関わらず、王妃教育をうまくこなせず、先代の王妃に見放された人だった。だから今でも1人で王妃教育をさせてもらえない。

 若い頃から、周りの人間は王妃様を表向き敬う様な顔をして、裏では彼女のことを馬鹿にしていた。そんな時に自分を馬鹿にしない友人に出会ったのだ。王妃様は私の母親をそばに置きたがった。当然の帰結だろう。


「魔族の中には、人間を恨んでるものも多いけど……あ、勘違いしないでね?私は別に恨んじゃないわよ。生存競争に負けただけなんだもの。昔からよくある話よね」


「それで、今後君はどうしたいんだ、サラ」


「別に?何もしない。言ったでしょう?静かに暮らしたいって。

 母や一族が今更この地の奪還に乗り出して、私を計画の要にしたのは、私が魅了の資質を持って生まれたから。その気になれば、私はこの国の中枢の人間を私に惚れさせて言いなりにすることができるの。それに私はある程度親しい人間ならなんとなく気持ちがわかるから、余計にハニートラップ向きだと思ったのね」


 私の言葉にジェイドとアスランの顔が強張る。まぁ当然だろう、自分の心を他者に操られるかもしれないと思うと穏やかでいられなくなる気持ちはよくわかる。


「一応言っておくけど、私はその力を一度も使ったことなんてないわよ。例え違う種の生き物だとしても、私はあんたたちと長くいすぎた。私にとってはもう家族みたいなものになっちゃった。心を操るなんて、したくない。それにさっき言ってたみたいにジェイドを騙して托卵みたいなことも、いや。

 だから、私が抗う相手は母と王妃様だけじゃなくて、この国に住まう魔族たちもなの。流石にそれだけ全てを敵に回して勝てる気がしないわ。

 そりゃあ、生物として生まれた以上生き抜きたいし、次代を世の中に生み出したいって気持ちは私にもあるし、みんなの気持ちもわかる。だけど一族が提案した策じゃ、また争いが起きる。それはいやなの。殺し合いたくない」


 私の言葉にようやく顔を強張らせていたジェイドとアスランの顔が緩む。剣のつかを握っていたアスランの手も離された。


「魔族は今散り散りになってるし、魔族の国はない。同じ人間の形をしているから、どこかに魔族が立てた国があるんじゃないかと同胞が探して回ったけど、存在しなかった。多分、同胞は同じ様に人に紛れているか、さらに奥地へ行ってしまったか…。もしかしたらこの国にいる魔族以外は滅びてしまっているのかもしれない。


 一族は魔族が安心して暮らせる国を作りたいの。でもそれって必ずしもこの国を奪ってしまえばいいって話じゃないと思う。けれど、新しく一から作るとしたら、そこに住んでいたものを追い出してしまうことになる。私たちがやられて悲しかったことを他の種族に押し付けることになる。それが生存競争なんだけど、私はしたくない。

 誰も恨みたくないし、恨まれたくない。それくらいなら、私は今まで通り過ごして緩やかに滅びていく道を選びたい」

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